テラーノベル
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金曜日の朝。
シェアハウスのキッチンには、丈一郎の姿があった。
寝不足のせいか、まぶたは少し重く、包丁を握る手にも力が入っていない。
それでも、
丈一郎:「今日もみんなの朝ごはん、作らなあかんしな……」
そう自分に言い聞かせるように、味噌汁を火にかける。
いつもの「当たり前」。
でも、その当たり前が――この日、ついに壊れた。
ぐらり。
世界が傾いたように感じた次の瞬間、視界が暗くなり――
ガシャン!
食器の割れる音と同時に、丈一郎の身体が、床に崩れ落ちた。
駿佑:「丈くん!?」謙杜:「嘘やろ!?丈くん!!」
和也:「誰か、救急車っ!!」
真っ青な顔をした和也が叫び、真理亜がすぐに電話を取る。
みんながあたふたと動く中、丈一郎は薄れゆく意識のなかで思った。
丈一郎:(あぁ……やっと、“止まれた”かも)
――病院。
検査結果は「過労と軽い脱水症状」。
命に別状はないが、数日は安静に、という診断だった。
ベッドの上で静かに目を覚ました丈一郎の前に、真理亜と全員が集まっていた。
丈一郎:「……みんな、ごめんな。俺がやらなあかんこと、サボったせいで……」
そう呟く丈一郎に、和也が言った。
和也:「違う。“やらなあかん”って、誰が決めたん?お前が勝手に背負っただけやろ」
謙杜:「そうやで! 丈くん、倒れるまで我慢せんでええやん」
と謙杜が叫び、流星が静かに言う。
流星:「俺、ずっと思ってた。丈くんって、たまに“無理してる笑顔”するから……見ててしんどかった」
道枝がそっと続けた。
駿佑:「俺ら、丈くんの代わりにはなられへんかもしれへんけど、支えるぐらいは、できるで」
丈一郎は、ぐっと唇を噛み締めた。
丈一郎:「……俺、“迷惑かけたらあかん”って思ってた。誰かに甘えたら、“守る役”失う気して。でも……もう、ちょっと無理やった」
真理亜が静かに言う。
真理亜:「“守る役”を、君だけにさせた覚えはないよ。君が倒れても、誰も責めへん。だって、私たち――家族やろ?」
丈一郎の目から、涙がこぼれた。
丈一郎:「……ありがとう。ちょっと、もうちょいだけ……誰かに支えてもらっても、ええかな」
その言葉に、みんなが微笑んだ。
“誰かのために”じゃなくて、
“自分のために”泣けたその日。
丈一郎は初めて、心の底から――休むことを許された。
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