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「だっる……」
朝の教室に、陽向の声が響く。
「昨日休まなかったの?」
そう言いながら文化祭の後片付けで机を運ぶ雪斗。
文化祭は土曜日・日曜日の2日間で行われたため、
月曜日……つまり昨日は代休だ。
「ん?平日は人が少ないからって、渚と映画を見に行って、その後カラオケ行って……」
「ふ〜ん。ちゃんと彼氏彼女でやることやってるんだ」
いつの間にか紅葉が後ろにいた。
「なっ!紅葉言い方!変なこと言うな!!」
側にいた渚が真っ赤になって否定する。
陽向が呆れて頭を抑えていた。
そんな様子にこはるはいつも通り笑っている。
「でも流石にあの疲れは1日じゃ取れないよね。こはるは昨日何してた?」
こはるの笑顔を見た紅葉も自然と笑顔になっていた。
「えっと………文化祭終わって帰ってからお風呂に入って……」
「9時過ぎくらい?に、気づいたら寝てしまっていて……」
「起きたら3時でした」
「よくそんなに早く起きれたね」
「あ、いえ……今日の3時です」
一瞬時が止まり
「え?」
「まじ?」
驚く紅葉と雪斗。
そして指折り数えている渚が……
「30時間……?」
一拍置いて
「30時間!?」
大声をあげた。
「それだけ疲れてたって事でしょ」
そう言い、笑顔で片付けを再開する紅葉。
「まぁ、おれもずっと寝てたし」
小さく笑いながら、同じように片付けを始める雪斗。
そんな会話をしながら、各自ゆるゆると片付けを始める。
徐々に片付けられていく教室と共に、文化祭の余韻も徐々に消えていった。
⸻
昼休み。
「はぁ〜終わった……」
「まだ終わってないけどね」
机を囲んで、みんなでお昼を食べる。
「午後から普通に授業ってマジ?」
「現実戻すの早すぎない?」
「まぁでも、あとちょっとで冬休みだしね」
「それだけが救い」
そんな他愛のない会話。
ご飯が食べ終わったタイミングで――
「雪斗くん」
「ん?」
こはるが、当たり前のように机に突っ伏して、頭を雪斗の方へ向ける。
少しだけ間を置いて……
「……お願いします」
目が点になる雪斗。
「……は?」
「毎日1時間……」
「マジかよ………」
そう言いながらも、雪斗はゆっくりとこはるの頭に手を置き……
「……はいはい」
撫で始めた。
一瞬、空気が止まる。
「何してんの!?」
渚が即座に突っ込む。
「撫でられてます」
「そういう問題じゃない!」
なで、なで
「……」
「う〜………気持ちいい………」
こはるは気持ちよさそうに目を細める。
「いやいや……なんで急にこんな目の前でイチャイチャしてんの!?」
「イチャイチャじゃありません。なでなでです」
「とりあえずお前が騒ぐと余計注目されるから、少し静かにしてくれ………」
そのやりとりを見ていた紅葉は腕を組みながら笑顔で呟く。
「……ほんと、変わったよね」
⸻
数日後
「はぁ……文化祭終わったばっかなのにもうテストだって」
「それな……」
現実に戻る話題。
「テスト……」
こはるがぽつりと呟く。
「まぁでも、みんなでやればなんとかなるでしょ!」
「確かに」
放課後。
教室の一角で、軽く勉強会が始まる。
「ここどうやるの?」
「それは――」
教え合いながら、
笑いながら、
時間はゆっくり過ぎていく。
「……雪斗くん」
「ん?」
無言で、こはるが少しだけ頭を近づける。
「……はいはい」
なで、なで
「今度は何も言わないのね」
「もう慣れたわ……」
渚が呆れたように笑う。
「これクラスの名物になりそう」
「それは……勘弁してくれ……」
でも、誰も止めなかった。
⸻
テストも無事に終わり――
終業式も終わった。
「やっと冬休みだー!!」
「解放!!」
「おっしゃー!カラオケ行こうぜ」
「私バイトだよ〜」
「クリスマスまでに彼女……まだワンチャン間に合うか……」
教室は一気に騒がしくなる。
なでなで
そんな中
「冬休みだよ冬休み!ってかもうクリスマスじゃん!」
陽向の一言。
「みんなでクリスマスパーティとかやりたいよね!」
「だってさ雪斗」
「なんで俺に聞くんだよ」
「えーみんなでクリスマスプレゼント交換とかやりたくない?」
「おもしろそう」
「場所はどうする雪斗?」
「だからなんで俺に聞くんだよ。」
雪斗の指先がゆっくりとこはるの髪をなぞっている。
「まぁ、雪斗に聞かなくても、おばさんに聞いてみるか」
「ナイス裏技」
「それは卑怯だろ……」
「んじゃ素直に雪斗がおばさんに聞いたらいいじゃない?」
ニヤリと笑う渚。
「こはるもそれでいい?」
そう言いながらこはるを見ると
なでなで
「ふぁい…………」
半分寝たような声で返事をするこはる。
気持ちよさのあまり、目を閉じて完全に溶けていた。
(そんなに気持ちいいのかな?)
「ねぇ、こはる。そんなに気持ちいいの?」
「はい……もう感無量です………」
「え?渚も撫でてもらいたいの?撫ででやろうか?」
そう言いながら渚に近づく陽向。
バシッ!
「いてっ!」
蹴り飛ばされる。
「私も……撫でてみていい?」
渚が少し恥ずかしそうに言う。
「え?」
でもすぐに、
「はい、どうぞ」
と頷き、頭を向けるこはる。
なでなで
「あ、やば。こはるの頭なんかきもちいい」
そう言いながら撫で続ける渚。
なでなで
「……どう?」
「……気持ちいいです」
「でしょー?」
満足げな渚。
――でも
「でも……」
少しだけ考えて、
「雪斗くんの方が、好きです」
「え???」
周りの4人だけでなく、その会話が聞こえていたクラスメイトたちもざわつく。
「おい!朝倉!おまえうちの看板娘に何をした!!」
「今の聞いた?!」
「最近よく撫で出るなとは思ったけど!!」
一斉にツッコミが入り、
雪斗は少しだけ困ったように頭をかいた。
「いや、なんか……」
少し考えて、
「撫で慣れてるから……?」
そう言いながら再び撫で始める雪斗。
「撫でられてるのに、慣れてるんですぅ………」
そう言いながら顔が徐々に蕩けるこはる。
なで、なで
「意味わからん!?」
「それ理由になる!?」
さらに騒がしくなる教室。
それが――
今のこはるにとっての“当たり前”だった……
⸻
帰り道
陽向が雪斗に問いかける。
「で、雪斗大丈夫そ?」
「一応連絡は入れてみたけど……」
そう言ってスマホを見る雪斗。
「あ、返事きてた」
「お!なんだって?!」
「………うわっ」
「……めっちゃ怒ってるよ」
「あぁ……流石に急すぎだもんね……」
ちょっと残念そうにする渚。
「いや、うちでクリパをやる分には全然構わないって」
「ん?じゃ〜なんで怒られたの?」
「なんでもっと早くにみんなを誘っておかなかったんだと……」
「ぶっ……おばさんらしい(笑)」
吹き出す渚と陽向。
「紅葉さん」
「ん?」
3人の少し後ろで歩くこはると紅葉。
「クリスマスプレゼント交換ってなんですか?」
「あ〜みんなでプレゼントを1つ持ち寄って、ゲームとかクジとかでランダムにプレゼントを交換するんだよ」
「サンタさんから貰うのとは別なんですね!2つもらえるなんて嬉しすぎます!!」
「………………」
笑顔で黙る紅葉であった。
⸻
「それじゃ、明後日にうち集合で」
そう言って、手を振る雪斗。
「はーい!それじゃうちらも行こっか」
「それじゃまた明後日!」
渚と陽向も背を向けて歩いていく。
「私もちょっとスーパー寄ってから帰るね」
背を向けながら手を振る紅葉。
「皆さんまた!」
そう言い、こはるも帰路についた。
チリーン……
聞こえるはずのない鈴の音に振り返る雪斗。
一度立ち止まり、スマホでメッセージを送る。
スマホをしまうと、クスッと笑い家へと帰っていった。
⸻
翌日
ショッピングモールの入り口付近で立っている雪斗。
はぁ〜と白い息を手に吹きかけ、擦り合わせる。
しばらくすると遠くから………
結構な速度で走ってくるこはるが見えてきた。
「はぁ……はぁ……おはようございます!」
「お、おはよう」
「はぁ……遅くなってしまい………すみません!」
「いや、待ち合わせの時間までまだ全然だし……その速度で走るのはあぶないと思うよ……」
「…雪斗くんが立っていたのが見えたので……急いできました……」
肩で息をしているこはる。
「まぁ、とりあえず、行こうか」
「はい!」
2人並んでショッピングモールへと入っていった。
⸻
雑貨屋
「可愛いのがたくさんありますね…!」
「俺とか陽向が貰う可能性もあるから…その辺も考えといてね(笑)」
「あ、そうでした!」
そう言いながらプレゼントを探す2人。
「昨日渚達から連絡がきたと思うけど、予算は3000円まで」
「はい!」
「あと、もし欲しいのがあったら言ってね。買う物見ちゃうと楽しみが減っちゃうからさ。その時は会計終わるまで一度俺外す」
「わかりました!では逆の時も一言くださいね♪」
「了解」
「……」
こはるは、一つ一つ丁寧に見ていた。
(……どれがいいかな)
棚に並ぶ小物を、手に取っては戻し、また別のものへと視線を移す。
そのまま、少しと奥の方まで行くと……
冬物が並ぶコーナー。
並んだマフラーの中から、気になった赤色のマフラーを手に取る。
(………あ)
指先に伝わる、やわらかい感触。
今度は首元にそっと当ててみる。
ほんの少しだけ、表情が緩む。
(きもちいい……!)
少し離れた場所から、その様子を見ている雪斗。
(こはる…赤色が好きなのかな?)
こはるは名残惜しそうにマフラーを戻し、別の棚へと歩いていく。
「……」
こはるがいなくなったことを確認して、
雪斗はそのまま、同じ場所へと足を向けた。
さっきこはるが手に取っていたマフラーを触り、その隣の紺色マフラーも触ってみる。
(同じ素材)
紺色のマフラーを手に取って首に当ててみる、
同じように、やわらかい。
(……確かにこれはあったかいかも)
――少し離れた場所。
別の棚を見ていたこはるの視線が、ふと雪斗の方へ行く。
雪斗の手元のマフラー。
その色。
(……雪斗くん、紺色が好きなのかな?)
ふと雪斗と視線が合いそうになり、慌てて視線を外し、何事もなかったかのように、また別の商品へと手を伸ばす。
そのまま、いつも通りのやわらかな空気が流れていった。
⸻
「そろそろ決まった?」
レジの近くで、雪斗が声をかける。
「はい!」
こはるは頷いた。
「では、私はプレゼントを持って会計してきますね」
「あ、じゃあ俺一旦外出とくね」
「はい、お願いします」
軽く手を振り合い、それぞれ別方向へ。
こはるがレジに向かうのを確認してから、
雪斗は店の外へと出る。
⸻
数分後。
「お待たせしました!」
「おう。早かったな」
「雪斗くんもどうぞ」
「はいはい」
そう言って店の中へ戻る。
「……」
あらかじめ決めていた商品を手に取ったあと、雪斗は迷うことなく、あの棚へ……
並んだ商品の中から、赤いマフラーを手に取り、レジへと向かって行った。
⸻
ショッピングモールを出ると、肌を突き刺すような冷気。
「さむいっ……」
こはるが小さく身震いをしている。
「流石にね……」
同じように肩を振るわせながら雪斗が答える。
「じゃ、帰ろうか」
「はい!」
並んで歩き出す2人。
その距離は、いつも通り。
でも、2人の間。その短い距離の間だけは、ほんのり暖かかった。
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