テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
“今でも心の何処かで、君の姿を探している”
今日も彼はここに来た
「よぉ、久しぶり」
「やぁ、久しいね。2ヶ月ぶりだ」
そう言って、彼は俺の隣に座る
「2ヶ月…もうそんなに経ったのか。つい昨日も会ったような気がしてたわ」
「…まったく、時の流れというのは恐ろしいね」
「ホントにな。……で、最近はどうよ?元気してたか?」
「最近は…そうだな、特に何もなく平和だよ。魔物の襲撃もここ数日は起きていない」
「そりゃ良かった。平和が一番だからな!」
「ヒーローも楽じゃないけれど、それなりにやれている。君のおかげだ」
「よせよ、辛気臭せぇ。もっと別の話しないのか?」
「そういえば、魚屋のおじさん子供が産まれたらしくてね。今度出産祝いを渡しに行こうと思っている」
「マジ?!あのおっちゃんとうとうパパになんのか。めでたいな!何持ってくんだ?」
「何を持っていけばいいかな」
「決めてないのかよw 」
「まぁ、僕の方でも考えておくとするよ」
「そうしてくれ、残念ながら俺にはプレゼントセンスがない。普通に聞く相手間違えてるぞ」
「そういえば君はプレゼントセンスが絶望的だったね、それでよくエミリーさんに呆れられていた」
「そうだったなw懐かし!前もエミリーが来て俺に対しての文句つけ足して帰って行ったわ」
「…エミリーさん、君に凄く会いたがっていたよ。会いに行ってあげたらどうだい?」
「そりゃあ行きてぇけどな。当分最近だろうよ」
「なんてね、どうだい?僕の冗談」
「下手だな」
「なんかダメそうだね」
「あぁ、まぁ冗談言わないお前の割には頑張ったんじゃね」
「そっか、厳しいね君は」
俺達の間に風が通る
この沈黙を、目に見えない2人の壁を、労うような優しい春の風
「まったく、君が話してくれなきゃ場が静まってしまうよ…僕が喋るの得意じゃないって知ってるだろ?」
「あーわりぃ、わりぃ、マジで………すまんな」
「はぁ……またなんか話してよ、よくさ、武勇伝とか聞かせてくれたじゃん」
「おお、また聞くか〜俺の武勇伝!一ヶ月は貰うぞ!」
「嗚呼…今なら時間なんていくらでもくれてやるから。だから、また…」
「………」
少しの沈黙がまた俺達の間を流れた
先に沈黙を破ったのは彼だった
静かに立ち上がったその姿は誰から見てもヒーローそのもので、先程までの弱気な少年ではなくなっていた
それもそのはず、これから彼には街を、国を守る「責務」という枷が重くのしかかることになる
何故なら彼はヒーローだから。俺の自慢の相棒だから
悲しそうな、寂しそうな、哀愁の色を瞳に灯して、彼は俺に言う
「なんて、少し我儘がすぎたね。すまない。僕はもう行くよ」
「なんだ、もう行っちまうのか」
「心配しなくてもまた来るさ。ヒーローの仕事が一段落ついたらね」
「おう!待ってるわ。」
「それじゃあ、また 」
あぁ、行ってしまう。いつの間にか大きくなった背中を、俺はただ見守ることしか出来ない
「…もう少し、お前と話していたかったよ」
思わず溢れた叶わぬ願い。しかし、その願いが届いたのか、彼がこちらを振り返る
驚いた。あまりにその瞳が俺を捉えているように見えたから
「そこに…いるんだろ?相棒」
…まったく、大したやつだよお前は
「また、なんてさっきは言ってしまったけれど……僕はそこにとどまり続けることは望まないよ。」
ああ、思い出した
「君は優しいから、僕のことを心配するかもしれない。実際は分からないけどね…でも、だからこそ」
今日は
「どうか安らかに眠ってくれ。僕が死ぬその時まで」
俺の、命日だったな。
「じゃあね、相棒。死んでまた会うその日まで」