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#ほのぼの
れんこん
1,299
朝食代わりのお茶を飲みながら、俺は向かいに座る桜くんを眺めていた。
桜「……なあ」
蘇枋「ん?」
桜「お前、本当に学校行くつもりか?」
蘇枋「そのつもりだけど?」
桜「いや、だから!!その身体でだぞ!?」
蘇枋「その身体って言われても、俺の身体なんだけどなあ」
桜「そういう意味じゃねぇ!!」
朝から元気だなあ、桜くんは。
俺は湯呑みを置き、頬杖をついた。
蘇枋「でも、学校を休んだところで薬のことが分かるわけじゃないし。昨日の男たちが何を考えているのかも気になるからね」
桜「だったら、なおさら一人で動くなよ。学校に行くなら俺も一緒にいる」
蘇枋「それは心強いね」
桜「……っ、別に!!お前がまた倒れたりしたら面倒だからだ!!」
蘇枋「ふふっ。はいはい」
桜「だから、その笑い方やめろ!」
蘇枋「どうして?」
桜「どうしてもだ!」
理由になっていない。
けれど、桜くんが本気で心配してくれていることは分かった。
いつもなら、こういうときは適当に冗談を言って話を流してしまう。
だけど今朝は、少しくらい素直になってもいい気がした。
蘇枋「……ありがとう。桜くんがいてくれると助かるよ」
桜「…………」
桜くんは固まった。
それから、みるみるうちに耳まで赤くなる。
桜「お、おう……」
蘇枋「顔、赤いよ?」
桜「うるせぇ!!」
やっぱり、いつもの桜くんだ。
俺は立ち上がり、玄関へ向かった。
そこで、ふと足を止める。
蘇枋「……あ」
桜「今度は何だよ」
蘇枋「制服」
桜「…………あ」
二人そろって、沈黙した。
昨日まで着ていた制服は、当然ながら今の身体に合っていない。
着られないわけではないけれど、胸元が窮屈だし、肩や袖の具合もどこかおかしい。
それに、髪もずいぶん長くなってしまった。
蘇枋「困ったねえ」
桜「……今日は休め」
蘇枋「急に?」
桜「制服もねえし、身体だって本調子じゃねえんだろ!」
蘇枋「制服なら、上から上着を羽織れば何とかなるんじゃないかな?」
桜「そういう問題じゃねえ!」
蘇枋「じゃあ、どういう問題?」
桜「……っ、だから……!」
桜くんは言葉に詰まった。
俺の身体をじっと見るわけにもいかないらしく、視線があちこちをさまよっている。
蘇枋「桜くん?」
桜「……お前が、無理してんじゃねえかって話だよ」
その声は、さっきよりずっと小さかった。
桜「昨日だって、薬を打たれたんだろ。まだ何が起きてるか分かんねえのに、いつも通りにしようとすんな」
蘇枋「…………」
思わず、瞬きをした。
そんなふうに言われるとは思っていなかった。
蘇枋「……そっか」
桜「……分かったのかよ」
蘇枋「うん。じゃあ、今日は桜くんの言うことを聞こうかな」
桜「えっ」
蘇枋「学校には連絡して、午前中は休む。それでいい?」
桜「お、おう……いや、別に俺の言うことを聞けってわけじゃ……!」
蘇枋「ふふ。じゃあ、桜くんも一緒に休む?」
桜「休むわけねえだろ!」
蘇枋「残念」
桜「残念じゃねえ!」
そんなやり取りをしながら、俺は携帯を手に取った。
学校への連絡を済ませ、もう一度ソファに腰を下ろす。
少し休めば、身体の重さも取れるかもしれない。
そう思っていたのだけれど。
桜「……蘇枋」
蘇枋「ん?」
桜「お前、昨日の男たちの顔は覚えてんのか?」
蘇枋「うん。何人かはね」
桜「特徴は?」
蘇枋「そうだなあ……先頭にいた男は背が高くて、右の眉に傷があったかな。あと、注射器を持っていた男は左手に黒い手袋をしていたよ」
桜くんの表情が変わった。
桜「……そいつら、見つけたら絶対に許さねぇ」
蘇枋「桜くん」
桜「何だよ」
蘇枋「俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、無茶はしないでね」
桜「…………」
蘇枋「相手が何人いるかも、何を企んでいるのかも分からないんだから」
桜「……分かってる」
蘇枋「本当に?」
桜「分かってるっつってんだろ!」
蘇枋「ふふっ。なら、いいんだけど」
桜くんは不満そうに頬を膨らませた。
怒っているのか、照れているのか。
たぶん、両方だろう。
そのとき、携帯が震えた。
画面には、楡くんからのメッセージが表示されていた。
『蘇枋さん。今日、桜くんと一緒に登校する予定でしたよね?何かありましたか?』
……そういえば、昨日の帰り際にそんな話をしていた気がする。
俺が返信しようとすると、桜くんが画面をのぞき込んできた。
桜「楡井か?」
蘇枋「うん。心配してくれてるみたい」
桜「……なんて返すんだよ」
蘇枋「今日は体調がよくないから休むって」
桜「それだけでいいだろ」
蘇枋「そうだね」
俺は短く返信した。
すると、ものの数秒で返事が返ってくる。
『ええっ!?大丈夫ですか!?熱はありますか!?何か必要なものがあれば持っていきます!』
蘇枋「……心配性だなあ」
桜「お前が普段、何も言わねえからだろ」
蘇枋「そうかな?」
桜「そうだよ」
桜くんは即答した。
……今日は、ずいぶんと鋭い。
俺は少しだけ困ったように笑った。
蘇枋「じゃあ、楡くんには大丈夫だって伝えておくよ」
桜「本当に大丈夫なときだけな」
蘇枋「…………」
今度こそ、言葉に詰まった。
桜くんはそんな俺を見て、少し気まずそうに頭をかいた。
桜「……別に、全部話せって言ってるわけじゃねえ。でも、しんどいならしんどいって言えよ」
蘇枋「……うん」
今度は、冗談でごまかさなかった。
蘇枋「分かったよ。ありがとう、桜くん」
桜「……おう」
その返事を聞いてから、俺は楡井くんにもう一度メッセージを送った。
少し休んでから、必要なら病院にも行こう。
そう決めたところで、桜くんが立ち上がった。
桜「俺、いったん学校行ってくる」
蘇枋「うん。気をつけてね」
桜「……お前も、ちゃんと休めよ」
蘇枋「はいはい」
玄関まで見送ると、桜くんは扉の前で一度立ち止まった。
桜「……何かあったら、すぐ連絡しろよ」
蘇枋「分かった」
桜「絶対だからな」
蘇枋「うん。約束する」
ようやく安心したように、桜くんは外へ出ていった。
扉が閉まる。
俺はしばらく、その場に立っていた。
蘇枋「……本当に、優しい人だなあ」
小さくつぶやいて、笑う。
けれど、次の瞬間。
ずきり、と頭の奥が痛んだ。
蘇枋「……っ」
壁に手をつく。
ほんの一瞬だった。
すぐに痛みは引いたけれど、身体の重さはまだ残っている。
蘇枋「……薬の影響、かな」
笑顔を作ろうとして、やめた。
今は誰も見ていない。
だから少しくらい、無理に笑わなくてもいいだろう。
俺はゆっくりとソファに戻り、目を閉じた。
けれど、そのときの俺はまだ知らなかった。
この一件が、俺だけの問題ではなくなっていくことを。
そして、俺のことを心配してくれる人たちが、思っていた以上にたくさんいることを。
昼過ぎ。
携帯の着信音で目が覚めた。
蘇枋「……ん、もしもし?」
桜『おい、蘇枋!今、家にいるか!?』
蘇枋「いるよ。どうしたの?」
桜『楡井と桐生が、そっちに行くって言ってる!』
蘇枋「……え?」
桜『俺が止める前に、もう学校出た!あいつら、心配だから顔だけでも見たいとか言いやがって……!』
蘇枋「ふふっ」
桜『笑い事じゃねえ!』
蘇枋「いやあ、ありがたいなあと思って」
桜『……お前なぁ』
蘇枋「桜くんも来る?」
桜『行くに決まってんだろ!』
蘇枋「じゃあ、みんなでお茶にしようか」
桜『……お前、ほんとに調子戻ってんのか?』
蘇枋「朝よりはね」
桜『……ならいいけど…』
電話の向こうで、桜くんがため息をつく。
桜『すぐ行く。絶対、玄関開けろよ』
電話が切れた。
俺は携帯を置き、ゆっくりと立ち上がった。
……さて。
楡井くんと桐生くんに、この姿を見せるのは初めてだ。
桜くんの反応を見る限り、きっと二人も驚くだろう。
蘇枋「どんな顔をするのかなぁ」
少し楽しみになってしまうあたり、我ながら性格が悪い。
そう思いながら、俺は台所へ向かった。
お茶の準備をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
蘇枋「はーい」
扉を開ける。
そこには、息を切らした楡井くんと、いつも通り柔らかく笑っている桐生くんが立っていた。
楡井「す、蘇枋さん!体調は大丈夫ですか!?」
桐生「蘇枋ちゃん、急に押しかけてごめんね」
蘇枋「ううん。来てくれて嬉しいよ。二人とも、どうぞ」
楡井くんは俺の顔を見て、ほっとしたように胸をなで下ろした。
楡井「よかった……!顔色は、思ったより悪くなさそうですね!」
桐生「……え?」
桐生くんの視線が、俺の顔から髪へ、そして全体へとゆっくり移る。
柔らかな笑みが、ぴたりと止まった。
桐生「…………あれ?」
蘇枋「どうしたの?」
桐生「……えっと」
桐生くんが瞬きをする。
もう一度、俺の顔を見る。
そして、隣にいる楡井くんを見た。
桐生「ねえ、にれちゃん」
楡井「は、はい?」
桐生「……俺、まだ寝ぼけてるのかな?」
楡井「え?」
桐生「目の前に、すごくすおちゃんに似てる女の子がいるんだけど」
楡井「…………え?」
楡井くんの顔が、ゆっくりと俺の方を向いた。
楡井「…………えええええええっ!?」
蘇枋「ふふっ。おはよう、楡くん」
楡井「す、す、蘇枋さん!?」
蘇枋「うん。俺だよ」
楡井「えっ!?ええっ!?ええええっ!?」
蘇枋「そんなに驚かなくても」
楡井「驚きますよ!!だ、だって、髪も、顔も、声も……えっ、でも、眼帯とピアスは同じで……えっ!?」
桐生「……なるほどねぇ」
蘇枋「おや。桐生くんは、もう納得したの?」
桐生「納得はしてないよ。でも、すおちゃんがそう言うなら、本人なんだろうなって」
楡井「そ、そんな簡単に受け入れられるんですか!?」
桐生「いや、かなりびっくりしてるよ?」
そう言って、桐生くんは苦笑した。
桐生「ただ、すおちゃんってこういうとき、わざわざ嘘をついて人を困らせることもあるからさ」
蘇枋「ひどいなあ。俺、そんなに信用ない?」
桐生「あるよ。だから、本人だって信じてる」
さらりと言われて、少しだけ意外に思った。
……桐生くんって、こういうところが上手なんだよなあ。
楡井「そ、それで!いったい何があったんですか!?」
俺は二人を居間へ案内し、昨日の帰り道で起きたことを説明した。
男たちに襲われたこと。
注射器で薬を打たれたこと。
目を覚ましたら、今の姿になっていたこと。
話し終えるころには、二人とも笑顔を消していた。
楡井「……そんなことが……」
桐生「薬で、身体を変えられたってこと?」
蘇枋「今のところは、そう考えるしかないね」
桐生「病院には?」
蘇枋「まだ。朝は少しだるかったけど、今はだいぶ楽になったから」
桐生「……すおちゃん」
柔らかな声だった。
けれど、その目は笑っていなかった。
桐生「それ、病院に行った方がいいと思うよ」
蘇枋「……やっぱり?」
桐生「うん。身体に何が起きてるか分からないんだし。見た目が変わっただけに見えても、ほかに影響がないとは限らないでしょ?」
楡井「そ、そうですよ!僕、病院のこと調べます!必要なら、梅宮さんたちにも……」
蘇枋「ありがとう、二人とも」
俺が笑うと、楡井くんは一瞬だけほっとした顔をした。
けれど、すぐに眉を下げる。
楡井「……蘇枋さん。怖く、ないんですか?」
蘇枋「怖い?」
楡井「その……急に身体が変わっちゃったんですよね。原因も分からなくて、誰がやったのかも分からない。僕だったら、きっとすごく不安になると思います」
蘇枋「…………」
俺は湯呑みを見つめた。
怖いか、と聞かれたら。
正直、よく分からない。
驚いたし、困ってもいる。
でも、怖いという感情が、まだ自分の中で形になっていないのだ。
蘇枋「……まだ、実感がないのかもしれないね」
楡井「……そうですか」
蘇枋「ただ、薬を打たれたことは気になるよ。俺の身体を変えることが目的だったのか、それとも別の何かがあるのか」
桐生「……そこは、ちゃんと調べよう」
桐生くんが、静かに言った。
桐生「すおちゃんが一人で抱え込む必要はないからね」
その言葉に、楡井くんも大きくうなずいた。
楡井「僕も協力します!昨日の場所や、男たちの特徴が分かれば、調べられることがあるかもしれません!」
蘇枋「二人ともありがとう」
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
俺は、いつも通りの笑顔を浮かべた。
蘇枋「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
楡井「はい!」
桐生「もちろん」
そのとき。
玄関の向こうから、聞き慣れた怒鳴り声が響いた。
桜「おい!!来たぞ!!」
蘇枋「……ああ、桜くんも来たみたいだね」
桐生「思ったより早かったねぇ」
楡井「さ、桜さんも知ってるんですか?」
蘇枋「うん。今朝、最初に会ったのが桜くんだったから」
桐生くんが、ほんの少しだけ目を細めた。
蘇枋「桐生くん?」
桐生「ううん。何でもないよ」
そう言いながら、桐生くんは俺の方へ手を伸ばしかけて――途中で止めた。
桐生「……あ、ごめんね」
蘇枋「髪?」
桐生「うん。長くなったね。いつもと雰囲気が違うから、つい」
蘇枋「自分でもびっくりしてるよ。手入れが大変そうだなあ」
桐生「必要なら手伝うよ。姉ちゃんがいるから、そういうのは多少慣れてるし」
蘇枋「へえ。それは頼もしいな」
桐生「ふふ。遠慮しないでね」
そのやり取りをしているところへ、桜くんが居間に入ってきた。
桜「おい、蘇枋!!大丈夫か……って、何してんだお前ら」
桐生「何って、おしゃべり?」
桜「いや、そうじゃなくて……!」
桜くんの視線が、俺と桐生くんの間を行ったり来たりする。
桐生くんはいつも通りの笑顔。
俺もいつも通りに笑っている。
ただし、桜くんだけは、なぜか少し不機嫌そうだった。
蘇枋「桜くん、どうしたの?」
桜「……別に」
蘇枋「そう?」
桜「……お前、桐生に髪触らせたのか?」
蘇枋「触ってないよ?」
桐生「触ってないよ。触れそうになっただけ」
桜「…………」
桜くんの眉間に、深いしわが寄った。
桜「……そうかよ」
蘇枋「ふふっ。桜くん、もしかして妬いてる?」
桜「はあ!?な、何で俺が妬くんだよ!!」
蘇枋「さあ、どうしてだろうね?」
桜「~~っ!!」
楡井「えっ、ええっ!?さ、桜さん!?」
桐生「あははっ」
桜「笑うな、桐生!!」
蘇枋「ふふふっ」
久しぶりに、心から笑った気がした。
身体は変わってしまった。
昨日までと同じではいられないことも、きっとこれから増えていく。
それでも、こうして笑い合える時間がある。
今は、それだけで十分だった。
……ただ。
桜「とにかく、病院に行くぞ!」
蘇枋「えっ」
桜「えっ、じゃねえ!薬を打たれたんだろ!何があるか分かんねえんだから、ちゃんと診てもらう!」
楡井「お、俺も賛成です!」
桐生「俺も。必要なら付き添うよ」
蘇枋「……三人とも、ずいぶん強引だなあ」
桜「誰のせいだと思ってんだ!」
蘇枋「俺かな?」
桜「分かってんなら素直に来い!」
俺は三人の顔を順番に見た。
真剣な桜くん。
心配でたまらない様子の楡くん。
そして、優しく笑いながらも譲る気のない桐生くん。
……これは、断れそうにない。
蘇枋「分かった。病院に行こう」
桜「最初からそう言え!」
蘇枋「はいはい」
どうやら、俺の周りは今日も騒がしいらしい。
でも、悪くない。
そう思いながら、俺は出かける準備を始めた。
そのとき、携帯の画面に見知らぬ番号からの通知が表示された。
短いメッセージが一件。
『変化は確認した。次の段階へ進む』
蘇枋「…………」
笑顔が、ほんの少しだけ消えた。
桐生「……すおちゃん?どうかした?」
蘇枋「……ううん。何でもないよ」
俺は画面を伏せた。
まだ、みんなに見せるべきではない。
そう判断した理由は、自分でもはっきりとは分からなかった。ただ、胸の奥で、小さな警鐘が鳴っていた。
――これは、偶然の事件なんかじゃない。
そして、昨日の男たちは。
俺が女の子になったことを、最初から知っていたのかもしれない。
今回ばか長くてすいませんm(*_ _)m
ここまで読んでくださりありがとうございました。
いいね、コメント、フォローよろしくお願いします。
コメント
2件
最高すぎる!!蘇枋さんの女体化ってまんま見なかったけど、ほんと面白い! 桜が妬いてたのかわいいし、すおさくは神だよね 続き楽しみにしてます!!
読み終わりました…! もうもう、今回もすごく良かったです…! 桜くんが「しんどいならしんどいって言えよ」って伝えてくれた場面、胸にグッときました。普段はふざけてばかりの蘇枋さんが、その言葉に「…うん」と素直に頷くところ、じんわり温かくて、二人の距離が確かに縮まったのが分かるようでした。 楡井くんと桐生くんも駆けつれて、みんなそれぞれの優しさが蘇枋ちゃんをちゃんと受け入れていて、ね……髪を自然に笑う時間が懐かしくなって、ほっとした空気…でも最後のメッセージでまた不穏な気配が。続きが気になる終わり方でした! 素敵なエピソードをありがとうございました…!