第3話「シアワセ」
BL メリバ(メリーバッドエンド)表現あり
今日も暖かな日差しが肌に注ぐ。
俺の名前は琴。
俺は部分的には人間に似た容姿をしている。けれど狐の耳と尻尾がある俗に言う『神様』だ
この無駄にだだっ広い神社に祀られて毎日捧げられる供物を食べて眠り人間を見守る。
正直何百年もこの生活は飽き飽きする。
けど、最近は少し生活に変化が出てきた。
「琴、遊ぼ〜」
それがこの人間の 『楓』真っ黒な髪と瞳。白髪に琥珀色の瞳の自分とは
全然違う容姿をしている数え年7つの童。
俺を祀っている神社の近くにある老舗呉服屋の子供で家族は仕事で忙しい家庭らしい。
そのせいでかよく神社に遊びに来ていて悪戯でもしてやろうと思って脅かしたものの何故か気に入られてしまった。
「あぁ、わかった 。今行くよ」
鳥居から飛び降り楓の所に向かい手を引いた。
「今日は鬼ごっことかか?」
「ううん!お話し聞きたい!」
「楓は昔話が好きだなぁ 」
童のうちは僕見たいな物も良く見える事もあるから、
たった数年くらい遊び相手として付き合ってでもやろうか。
「琴、お菓子買って来たから食べよ〜、 」
楓と出会い約10年程の月日が経った。
楓は特別な様で青年になっても僕みたいな物が見える様で
頻度こそ少し減ったものの今でもこうして遊びに来ている。
菓子を頬張る横顔は童の頃から変わらず愛おしい…って、
いや、何故楓に愛おしいと思うんだ?…童にこんな感情を持つだなんて……
「琴?大丈夫?」
「!、い、いや、何でも無い。」
柄にも無く同様してしまいその日はあまり会話を交わせる事もなく終えてしまった。
翌日の夕方、散歩でもしようと思い楓の学校の近くにまでやって来ていた。
(楓に出会えたら昨日話せ無かった事も話そう。)
そんな事を思って居ると下校中の楓を見つけた。
……しかし楓の隣には見かけた事の無い”ナニカ”が居た。
暗い陰の様なモヤのかかった存在。間違い無く悪霊だろう。
そう思い その悪霊に手を伸ばした。
「楓」
「えっ、琴!?…なんで此処に…?」
「散歩、今日も親御さんは遅いだろう?暫く一緒に居てやろうか」
「んー、そうするね、ありがとう」
優しく笑っている楓と会話をしつつ俺は後で組んでいる手で”ナニカ”を握り締めた
幼少期から変わっていない優しい性格と見える。という特異体質はこの様な
邪な者からも好かれてしまう。
その内俺が見ていないうちに攫われる可能性もある…
その前に俺が神隠ししてしまう方が___。
「え…?」
「?琴、どうかした?」
思わず出てしまった声に自分でも驚き、楓を驚かせてしまった。
何でも無いと伝え、楓を家まで送った後神社へと戻り先程の事を考えた。
神隠しをしたいなど…俺の楓への気持ちは一体何なのだろうか、
童の頃から一緒に居たから我が子の様に思っているのが普通だろう。
しかしそれならば神隠しだなんて…思う筈がない。
どうしてだ?…本来神隠しは気に入った人間に対してするはず…
俺は一体…、楓と何をしたい?
共に食事をしたい。
他愛も無い話をしたい。
一緒に眠りたい。
一緒に笑いたい。
手を繋ぎたい。
心臓の音を感じたい。
一緒に湯船に浸かりたい 。
傍に置きたい。
誰よりも近くに居たい。
永遠を過したい。
“接吻”をしたい。
“行為”をしたい。
(あぁ…そういう事か)
考えが少しまとまり俺は自己嫌悪に苛まれた。
これ以上無闇に楓と一緒に居ては楓を傷付けてしまうだろう。
明日にでも楓に別れを告げよう。
そう思い布団に潜り込み、云々とした胸を沈めながら目を瞑った。
夕方頃、楓の通っている学校に来ていた。
どんなに可哀想だと思っても、これがきっと楓にとっても自分にとっても最善の策だ。
そう思っていると校舎から出てくる楓が居た。
その横には楓と同年代位の女子が居た。
その女子は見ただけでわかる程楓に好意を抱いている様だ。
本来ならば此処で俺が楓に別れを告げるべき…だが、
俺は激しい怒りを感じた。
このまま別れを告げたらあの女子では無くとも誰かの手に楓が渡る?
「巫山戯るんじゃない…」
考えただけで腸が煮えくり返る様な感覚になり俺は楓の後ろに行き、
楓を後ろから包み込むよに抱いた
「!?、琴…!?」
華奢な身体は今にでも壊れてしまう程細く小さく、
これが集中に収めたいという気持ちなのだと思い俺は楓にそっと耳打ちをした
「悪く思うんじゃあない、楓。お前が悪いんだ。 」
俺の事を惑わせたのだから_____。。
そう告げた次の瞬間には俺と楓は神社の中に居た。
今頃あの女子は楓が消えて驚いているだろう。
女子にが悪いな、と思いつつも眠っている楓を抱き抱え、額に接吻をした。
さて、楓が起きる前に首輪や足枷でも用意しようか。
「きっとこれから楽しくなるな、共に食事をして 他愛も無い話をして 一緒に眠り、 笑い、 手を繋ぎ、 心臓の音を感じ、 一緒に湯に浸かろうか、それから、 傍に置いて。他の 誰よりも近くに居て 永遠を過し…… 接吻をして…それから… 。」
数百年ぶりに感じる気持ちの高揚によってか足取りが軽くなっている。
あぁ、俺が神になったのは楓と永遠を生きる為だったのか。
愛しい存在が居ればこんなにも幸せなのか。
そう、俺は今、本っ当に
「シアワセ」 だ。
第3話「シアワセ」
END