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その日は驚くほど多忙な日だった。
書類仕事に明け暮れ、おまけに夜遅い依頼で怪我をした太宰は、
なんとか家に帰ってすぐさまベッドに倒れ込んだ。
頑張って眠れないだろうか。怪我が痛む太宰はもういっそ意識を失いたかった。
意識を失って、そのまま死にたかった。
それが叶うわけもなく、いつの間にかそばにいた乱歩によって治療を受けた。
医務室に運ばれた太宰は、それはそれは酷い怪我を負っていた。
腕は折れ、出血が酷かった。銃で撃たれてもいた。
幸い致命傷は負っていなかったが、常人なら死んでもおかしくはなかった。
それでも、太宰は平気そうな顔をして、女医である与謝野に気楽に話していた。
その話を聞く与謝野は心底呆れた。酷い怪我を負っているのにも関わらず、
治療をしている自分にとても楽しそうに話すからだ。
話す内容もとても笑えるものではなかった。太宰でなければ。
治療が終わってベッドに寝かせられた太宰は、虚な目をしていた。
それをはっきりと与謝野は見ていた。無理をしているのは目に見えていた。
普段弱みを出さない彼は、弱っている時に本性が現れている。
太宰は確かに人生を捨てたがっていた。虚な目の奥には何も映っていない。
ただ、ゾッとするほどの暗闇が宿っているだけだ。
医務室の白い壁も天井も、虚な目は何も写さない。
太宰は、酷い悪夢を見た。太宰にとっては、それが夢か現実か認識できなかったものだから辛い。
翌日も怪我の痛みと憂鬱感は続いた。女医から渡される薬を適量に飲むと、
与謝野は安心して医療器具や薬の整理を再開した。
社員はそれぞれ太宰の見舞いに来た。
大事な社員が大怪我をしたとなると心配は底知れなかった。
太宰は未だに自分の大切さを自覚していなかった。
そんな観点に疎い太宰には理解し難いことだったのだ。
それよりも、怪我が痛むことに精神が削られていくものだから頭はいつもよりは回らずにいた。
乱歩が医務室に来たのは夕方だった。依頼に応じており、少し難航していて遅くなったようだ。
そんな状況でもあっという間に解決してしまうものだから、名探偵とは恐ろしい。
なんでも見抜いてしまう名探偵は、太宰の睡眠状況についても即見抜いてしまった。
お前最近よく眠れていないんだろ?と当たり前のように云う乱歩を、太宰はまた虚な目で見つめていた。
痛みは引いているものの持続している影響か、頭は相変わらず回らなかった。
本性を隠している場合でもなかった。
今はただ痛みに耐えていたかった太宰に、平気な顔はとてもできずにいた。
太宰は乱歩に、「今はただ横になっていろ。僕の前でも構わず寝ていろ。」などと云われてしまったため、おとなしくその言葉を飲む。
太宰は眠れなかった。極度の不眠症、さらに痛みを患わっている太宰に安らかな眠りは到底敵わない。
今度こそ太宰は、気絶したいと思っているのだ。意識を手放せばきっと明日になるから。
そんな太宰に乱歩は飴を寄越した。程よく甘いその飴は乱歩のお気に入りだった。
まだ沢山あるから食べろ、と乱歩は太宰に手渡す。
腕を折っているため利き手とは逆の手に渡され、さらに寝ている状況なので大変だったが、
なんとか甘い飴を口に入れた。太宰は何も喋らなかったが、乱歩には太宰が感謝していることは感じ取れていた。伝わったとわかった太宰は目を閉じて飴を味わった。
飴を舐めているのにその程よい甘さが眠りを誘う。
安らかな眠りを欲していた太宰は、飴を舐め終え眠りにつく。
甘い飴に痛みを委ね、安らかな眠りについた太宰を見て、乱歩は太宰に一言残して、医務室を後にした。
「安らかに眠ってまた無事に起きろ。太宰。」