MEN side
俺の恋人は、かわいい。
素直じゃないけど、優しくしてくれる。何も飾らないで話してくれる。だから、俺も、何も考えてない。それだけ。
「う゛わ゛~~、目にゴミ入ったぁ……いってぇ…」
「えっ、おんりーちゃん大丈夫?w」
あんた、高嶺の花だけど、意外に普通の男の子だよねって、なんだか安心する時がある。
実はおんりーちゃんの口は悪かったりする。
「見してみ」
「う゛~~…」
さらり、目にかかるストレートの黒髪に触れて、すこし、屈んで、その瞳の中を覗き込む。
文明機器のガラス板が光を反射して、ちょっと、ジャマ。
「………ごめん、眼鏡」
「うい。…」
そしたら、おんりーちゃんは上に、俺は下に眼鏡をどかそうとしたから。
「あ。」
ぐにゃりと眼鏡が傾いて、その姿がどうも不恰好で。やけに可笑しくなった。
「ふっ……、はははっ、あ~…、気が合わん。」
「合わんなぁ~…w」
…結局、おんりーちゃん案(?)を採用し、おでこの辺りで眼鏡を固定して、再度そのびいどろのような眼を凝視する。
「…ん、あっかんべーってして」
「んべ~…」
無邪気やな。オイ。
「……。」
ちょうど涙袋のあたりを指で引っ張るが、塵らしきものは何も見当たらない。
「……あるぅ…?」
「いやっ…ない………っすねぇ……」
「う゛え゛~~ん゛…」
げー、と眉をひそめるおんりーちゃん。
「ど~しよ、めっちゃ痛いんやが」
「…あ~~………、…大丈夫?」
「や、大丈夫じゃない普通に。クソ痛ぇ。」
「…だよね。…、……………。
………………、…………………………………。」
「……、…。………」
「……………、」
………魔が差す。
絶対いやな顔されるだろうって分かってるけど。
…それでも。
「……………おんりーちゃん、目ぇ閉じてみ。」
「?……うん。」
ながい、睫毛が影を落としたのを合図に、
「………………。」
ちょっと一歩近づけて、手を、耳から肩に、羽に触れるみたいに置いて、しゅるり、って顔の角度を変えて、
「…、」
…ふにふにした薄紅の唇に口づけた。
「!、………、…………………………。」
彼の瞼が大きく開く。水晶の眼球が、視界、いっぱいに。
瞳孔はひゅっと縮む。光を、捉えないみたいに。
「…。」
それは、言葉にならない声になって、おんりーの口から、空白がふっと漏れ出たのがゆっくり、聴こえた。
「……………あれっ、嫌じゃないんだ?」
「………」
あは、おんりーちゃん、石像みたい。
「…~~~~~~っ…………」
ぷちんっ、彼の心の糸が、切れる音が聞こえた。
「…っな、なにやってんのぉ、…めん、………!」
ふらりとバランスを崩したその人が、とん、と、(最近鍛えたので自慢の)胸板に寄りかかる。
「うお、」
「…っなにやってんだよお、…ほんと、…………」
力なく放たれたその言葉は、しゅるしゅる細くしぼんでいった。
「…………、…え。」
…えっ、もしかして、泣いてる…?
俺何かやらかしちゃったかな。こんな美少女(?)泣かせるなんてかなり罪重いんですが我。
「あ…、えっ、おんりーちゃん…!?!?ごめんね!?急にびっくりさせちゃったね!?」
「ばか~~~~~……。」
涙目のおんりーちゃんなんてもう男にとっては凶器でしかない。
ヤバい!おんりーちゃんを傷つけてしまったことで精神がやられる!!
今は恋人しての欲望なんかよりもずっと傷つけた後悔のようなものが脳を支配するばかりだ。
「…ちが、ちがうしっ…」
「ほえぇ…?」
「………っい゛、…ま、泣こうとおもって頑張ってたとこだったのにぃ~…!」
「…………あ、…えぇ……?」
想像もしていなかった返しに、思わず素っ頓狂な声が出る。
そゆことか。目のゴミを頑張って取ろうとしてたわけね…。
「……やべ、俺おんりーちゃん泣かしたぁ思って、マジで切腹しようかと……」
「ちがうちがうww」
ふっと言葉と一緒に笑いが漏れるような声で、ほろりと、緊張感が崩れるように安心した。
「あぶねぇ~~………。いや、そうだったのね、ごめんごめん」
「…にしてもめんのあれは……、でしょ、」
「えぇ~……?おんりーさん意外に嫌な顔してませんでしたよぉ~~~???」
そんで、調子に乗る人。俺。
「ほんとびっくりしたわ、もう!」
……でも、びっくりしたって言ったって、嫌では、ないのね。ありがてぇっす。
「いやごめん魔が……、魔が差したわ。」
「……つぎからはちゃんと予告してやってください」
予告さえすれば出入り自由、ってか?
「はぁい。すみませんでしたぁ。」
今日も恋人はツンデレ様。
ツンツンと、デレ3割。どっちの君だって好きだけど。
「………じゃあさ、いま、」
「…………………キスの予約、していい?」
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いっばいじゅぎ()