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私は何の変哲もないただの会社員である。
社会の歯車であり、会社の潤滑油である私でも普段ならしないようなことをしてみたいと思うのは自然の性と言うものだ。
普段なら会社が終わると、一直線に帰宅し、そのまま常備してあるカップ麺にお湯を入れ、それを食して眠りにつくのが私の生活であるが、今日は思考を変えて普段なら絶対に行かないであろう居酒屋に行くことに決めた。理由はない。ただ行きたいから行くのだ。
とりあえず適当に見つけた居酒屋で私は端の席に座り、ひとりでメニューを開く。
店内では私の他に仕事終わりのような風貌のサラリーマン達が日頃の疲れを忘れて飲みに飲みまくっているが、そんなことには目もくれず、私の心が指し示しているものは本日のおすすめメニュー「餃子」であった。
「すいません。餃子1つ…あとライスと烏龍茶」
私が店の店主に伝えると威勢の良い声で厨房へ叫ぶ。
「餃子とライス一丁!」
厨房の奥で慌ただしく仕事が始まる音がした。
私が行儀よく店内を見ながら待っていると、隣に座っていた中年のおじさんがまるで独り言のように私に話しかけてきた。
「…餃子とライス…?キミィ…わかってないねぇ…」
私がその人を見つめると、おじさんは続けて言った。
「ここは居酒屋だよ?餃子とライスって…定食屋じゃないんだからさぁ…普通は餃子とビール頼むよね。良いよぉ、熱々の餃子をキンキンに冷えたビールで流し込む…これこそ生きる意味と言っても過言じゃないね」
私はうるさいなぁと思いつつも無視を決め込もうと思っていたが、普段と少し違うことをしてみたいという強い願望があった為、私は立ち上がり、おじさんの目頭目掛けて拳を振り上げた!
ガツンという鈍い音と共に、おじさんの痛がる声と椅子から転げ落ちる音が店内に響いた。
おじさんは、うぅ…と呻きながら地面に転がっている。他の客はそれを見て、まるで時が止まったかのように静かでピクリとも動かない。
静かな店内で私は席に座り直し、餃子とライスを待っていると先に烏龍茶、続けて餃子とライスが来た。そして最後に頼んでいない小籠包がテーブルに並べられた。
私が困惑していると、店主は「サービスさ」と一言言うと厨房の奥へ去っていった。
私はなんてクールな人なんだ。かっこいいなぁと思いながら餃子とライスを食べ、熱々の小籠包を頬張り、それらを烏龍茶でスッキリ流し込むと、満足気に微笑んだ。
私は小さな声で「ご馳走様でした」と呟き、店を出ようとすると店主が「お客さん!お会計まだだよ!」と言った。
私はハッとして「あぁ、すみません。あまりにも美味しくて忘れてました」と微笑み、
店主の右頬目掛けて感謝のストレートをぶちかますと、店主は厨房の奥まで吹っ飛び、それ以降何も言われなくなったので、私は店を出た。
あぁ…なんて良い店なんだろう。ここに来てよかった。次もまた来よう。
そう思いながら私は家とは真逆の方向へ走り去って行った