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ドラゴンの暴走の原因調査の依頼を達成した俺たち。ドラゴンの子を救出した日から数日、ギルド長からへの報告などで忙しく駆け回っていたのだがようやく落ち着きを取り戻してきていた。
ルナへと先に送っておいたアンダリング男爵の不正に関する文書をギルド長たちが素早く精査して動いてくれたおかげでアンダリング男爵は早々に国に拘束されることとなった。
今回の件はドラゴンの暴走を発端としてギルドが独自に調べて得た結果、アンダリング男爵の関与および不正資料の数々が発見されたということで国に報告された。
俺がギルド長と会った際にお願いしていたのは国への報告内容に俺の関与を明かさないようにして欲しいということだ。そのこともあって貴族たちから余計な注目を浴びることは全くなかった。
国へと提出した不正資料によって国内で大規模な調査が行われることとなり、それは今現在も行われているらしい。だが、今回の一件でアンダリング男爵以外の貴族が摘発されることはないらしい。
資料に記載されていた多くの組織にも国の調査が入ったのが、どこからも貴族との関与を強く決定づけるものは出なかったようだ。
まだ調査は継続中ではあるが、実際のところはアンダリング男爵とかつてのグラフィスト子爵のみが関与していたという結論になりつつあるらしい。
そして今回の事件、一番大きな問題点である男爵とその一味はなぜドラゴンの子を攫ったのかについての理由が未だに分かっていない。
念入りに情報が隠されているのか男爵からは何も得ることはできず、誰がどのような目的でこのようなリスクを冒したのか謎が残ってしまったようだ。
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「オルタナさん、お疲れ様です!」
「ルナもお疲れ」
俺とルナはようやく今回の一件がひと段落ついたということで打ち上げに食事処へとやってきていた。
もちろん俺は飲み食いすることは出来ないのだが今回の依頼はかなり大変だったし、それに俺たちも冒険者パーティらしいことをした方が良いのではないかという思いから誘うことにしたのだ。
ルナには俺が人前で食事を出来ないという嘘の理由を伝えて了承してもらった。本当だったら俺も一緒に食事を楽しめた方がいいのだが、無理なものは無理なのでその代わり話をたくさんしようと思っていた。
「オルタナさん、ここの料理美味しいです!」
「それは良かった。来た甲斐があったな」
ルナはテーブルに並べられた料理をとても美味しそうに頬張っていた。この店は最近よく話題に上がっていた人気のお店で、とてもお洒落な雰囲気と美味しい料理が評価を高くしているらしい。
ちなみに今日は俺のおごりだ。ルナには私も払うと言われたがここは無理矢理押し通らせてもらった。
「そういえば、誘拐の件ってこれからどうなるんでしょう」
「まだ調査は続けられているが、アンダリング男爵の爵位はく奪と関係組織の解体は確定だろう。もしかしたら男爵の全資産没収もあり得るかもしれない。だがおそらくそれだけで終わりだろうな」
「それだけ…とは?」
俺は少し辺りを見渡してから少し声のボリュームを抑えながら話し始める。
「ルナも聞いていたと思うがドラゴンたちは誘拐犯が魔法遺物を使っていたと言っていただろう?その魔法遺物の効果的が話通りならば、かなり値が張る代物で間違いない。そんなものを所持できるほど財力に余裕があるのはこの国では大規模な商会か伯爵以上の貴族以外ありえないと考えられる。しかしそれほどの規模の商会は一つに絞られるが、もしそこが関わっているのであればあんな男爵家の屋敷よりももっと最適なところにドラゴンの子を幽閉しておくだろう」
「つまり他の貴族が関わっている可能性があるのに、その証拠がないから男爵の後ろにいる本当の首謀者が裁かれることがない…ということでしょうか」
「そういうことだ」
ルナは難しい顔をしながらもずっと同じペースで料理を口に運んでいた。そんなに美味しいなら俺も少し食べてみたいなと思ってしまう。
「ドラゴンの子を誘拐して何をしようとしていたのかは分からないが何か裏で黒い思惑が蠢いているのは確かだろうな。何も変なことが起こらないといいが」
「何だか、怖いですね…」
「まあ、今の国王はとても国民思いのいい王様だ。それに第一王子はともかく、第一王女と第二王子は王様に似てとても素晴らしい人たちだ。彼らがいる限りこの国が変な方向に行くことはないだろう」
俺はあとは全て王様に任せて今は食事を楽しもうとルナに告げる。彼女もそうですね!と笑顔で答えて美味しそうに料理を味わっていた。
正直なところ、未だに今回の事件には謎が残っている。もちろん真にドラゴンの子を攫うことを計画した犯人は分かっておらず、それに実行犯が使ったとされる魔法遺物も見つかっていない。
あと少し気になるのは、あの屋敷の結界だ。簡単に改変してしたが、あれはかなりの実力のある魔法使いが張ったものだろう。
だが屋敷全体やドラゴンの子がいた牢には展開されていたのにもかかわらず、男爵家の機密文書が保管されていた部屋にはなかった。本来なら一番優先度としては高いところだろうに…
そういうことからも他の貴族が関与している可能性が考えられるのだが、そこはもう国に任せるほかないだろう。これ以上考えたところでもう俺には権力関係のいざこざは無関係なのだから。
俺は美味しそうに料理を食べているルナを観察して今回の事件のことはもうこれ以上深く考えないことにした。
「そういえば、母親の様子はどうだ?」
「はい!もうすっかり元気になって以前とは見違えるほどの動き回ってますよ。もうすぐしたらもう一度働き始めるんだって意気込んでますね」
ルナはお母さんの様子を思い出して少し笑っていた。途中経過はたまにエイアから聞いていたのだが、すっかりと元気を取り戻しているようで良かった。
ちゃんと俺とエイアで開発した魔力欠乏症の治療薬が効いているということだからな。自分たちが作ったもので誰かが笑顔になるところを見れるのはやはり嬉しいものだ。
「それでですね、オルタナさん。もしよろしければ私をオルタナさんの弟子にしてください!」
「えっ、弟子?」
ルナは一度食べるのを止めて俺の目を真剣にじっと見つめて頭を下げた。まさかの発言に少し呆気にとられるが、昔にもそんなセリフを言われたことを思い出して少し懐かしさを感じた。
「まだまだ力不足でダメな私ですが、いつかオルタナさんの隣に立てるようになりたいんです!どうかお願いします!!!」
今までのルナだったら自分には俺に教えてもらうだけの実力はない…とか言っていただろうに。いろんなことを経て彼女の中で何かが変わったのかもしれない。
それにしてもまた弟子か…
「まあ弟子はともかく、教えるのはもちろん構わない。だが俺が教えるからにはとことんやる。死ぬ気で付いてこれるか?」
「もちろんです!頑張ります!!!」
嬉しそうに返事をするルナの姿はかつて同じように教えを乞うてきた人物と重なって見えた。
結局、僕は誰かと一緒にいる方が楽しいみたいだ。
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真っ暗な部屋に窓から差し込む月明かり。
そして仄かに揺らめくろうそくの火。
豪華絢爛な広い部屋で手紙の封を開ける音が響き渡る。
「…なんて書いてあったのだ?」
「曰く、捕獲したドラゴンの子は屋敷に突如現れたドラゴンによって奪還されたとのこと。せっかく苦労してあれほどの結界や魔法遺物まで使ってやったというのに、あの男は管理もまともに出来ないのか…」
黒いローブを着てメガネをかけた男がため息交じりに愚痴をこぼす。その様子を高価そうな服に身を包んだ青年が優雅に椅子に座りながら眺めていた。
「仕方ないさ、結局のところ男爵如きには荷が重い役目だったんだ。逆にそのような無能を早々にこの国から排除できたのだから良しとしようじゃないか」
「確かに、その通りですね」
メガネの男は青年の意見に同調し軽く頭を下げる。彼はそのまま少し顔を上げて微笑みながら言葉を続ける。
「ドラゴンの子に関する計画は頓挫しましたが、貴重なデータもある程度得られたので計画全体に支障はありません。実験も最終段階に突入しており、実用化まで万事問題なく進んでおります故、ご安心ください」
青年は椅子から立ち上がって窓の外を眺める。その目には目の前の月明かりではなくどこか別のものが映っているようだ。
「この国が本当の姿を取り戻すときが着実に近づいているようだな。平和に腑抜けた今の国王ではなく、この俺が真にこの国の王に相応しいということを一刻も早く知らしめたいものだ」
「誠にその通りでございますね」
薄暗い静かな部屋に佇むこの二人の男の背中を照らすようにろうそくの炎がチラチラと揺らめく。そんな彼らから伸びる影はとても大きく、とても闇深く床へと伸びていた。