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いいですね~♡めちゃくちゃ面白かったです!次も楽しみにしてます(^O^)
ま、まさかの恋愛系!?れいさんの恋愛系見てみたかったから嬉しすぎる!!
「いやぁ、まさか、こんなに早く出番が来 るとは!」
くちばし男は、
マスクの下からでも分かるくらいには、
喜んでいるようだった。
「あんた、誰だ!ここはどこだ! 」
僕は思わず声を荒げて、
突き刺すようにくちばし男を睨みつけた。
くちばし男は、それに気づいていないの
か、無視しているのか、
平然と手で翼の手入れをしていた。
「あの!私達、ここによくわからないうち に連れてこられて!なにか、知りません か?」
少女はあくまでも、
この状況を冷静に判断しており、
僕が声を荒げたときより、
はるかに声が通っていた。
くちばし男は、少女の訴えにニヤリと口元
が吊り上がり 、翼の手入れを中断した。
「おふたりさん、あなたたちは、選ばれた んです」
「選ばれた?」僕はくちばし男の言葉を反
復する。
「ええ、この楽しいゲームのプレイヤーに ね!」
「ゲーム?なんのことですか?あなたは一 体?」と少女が聞くと、
くちばし男は名乗り始めた。
「ミーは案内鴉《アンナイガラス》。この ゲームの案内人。気軽に“アン”と呼んでく れ!」
わけがわからない。混乱の苛立ちをぶつけ
るように、 僕はアンと名乗るくちばし男の
胸ぐらを掴み、詰め寄る。
「ゲーム…?なんだか知らないが、俺達を 今すぐ元の場所に帰せ!誘拐犯!」
「乱暴ですねぇ、いいじゃないか、どうせ 帰っても不登校なんだろ?キミは」
その言葉に、まだ癒えていないかさぶたを
勢いよく剥がされたような感覚を覚えた。
なぜ、こいつがそれを知っているんだ?
予想外の反撃に、僕がたじろいでいると、
「あの、ゲームって一体なんなんですか? それをすれば、わたしたち、家に帰れるん ですか?」
と、少女は唯一、冷静だった。
今一番パニックになっているのは、
自分なんだと思い知らされるようで 、
なんだか情けなかった。
「そのトーリ!鳥だけに。そちらの女の子 のほうが、しっかりしているじゃーん!話 が早くて助かる!」
アンの言葉に、なんとも言えない屈辱が、
グツグツと煮えたぎるように僕の心によぎ
った。ここで自分もあたかも冷静だ、
と示さないと、先程少女をこれだから女
は、と馬鹿にした 自分が、
たまらなく嫌いになってしまいそうだっ
た。
「…アン、だっけか?その、ゲームっての は、なにをすればいい?」
「お、早速呼んでくれてうれしい!なに、 簡単さ!キミたち2人には、“恋”をしても らう!それを見せてもらえれば、ミー達は 君たちを家に帰す!」
恋? と思わず2人揃って口に出す。
「そう!恋!甘酸っぱくて、切なくて、そ れでいて美しい…あの恋だよ!ミー達はそ れが見たいんだ!」
「この人と…恋?」
少女は、信じられない、といった顔で、ま
じまじと僕の顔を見る。
僕を覗き込む大きな黒目は、
吸い込まれそうなほどきれいで、
思わず顔をそらす。ごまかすように僕は、
アンに質問を投げかけた。
「恋をしろったって、ハイそうですかとで きるもんじゃないと思うが。ましてやこん な状況で」
「うんうん、言いたいことはよーく分か る、お互いよく知りもしない相手と、愛を 育もうなんて、思わないもんね!」
違う。そこじゃない。
少女も同じ思いのようだった。
その証拠に、わざわざ少女が、
「そこじゃないですよね、絶対」
と小声で聞いてきたからだ。僕は頷く。
「安心して、逢引鴉《アイビキガラス》に 間違いはない!キミ達は必ず、惹かれ合う ことになる!絶対だ!」
「逢引鴉?もしかして、さっきのカラスの ことか?」
「ザッッツライッッ!その通りだよ!彼ら は、今後伴侶《はんりょ》となる可能性の ある者たちの運命を見ることができるカラ スでね、この鴉山《からすやま》にキミ達 の魂を送る役割があるんだ!」
「た、魂…?鴉山…?よ、よくわからない けど、わたしとこの人が両思いにならない と、ここから一生出られないってこ と…?」
「いやいや、そんなわけないじゃない!ミ ー達はそこまで厳しくないよ 」
「なら、両思いになれなかったら、どうな るんだ?」
「別にどうも。元の世界に、帰すさ。ただ し、1年は絶対に帰れないけどね」
「い、1年!?そんな…」少女が嘆く。
その場にへなへなと膝から崩れ落ちて、
空を見つめている。僕はそんな少女を横目
に、アンに文句混じりに問いかける。
「なんでお前らの都合で、1年もこんなと こにいないとなんだよ。だいたい、カラス がなんで人間の恋なんか知りたいんだ」
「おや、カラスってこと言いましたっ け?」
「言わなくてもわかるだろ、そのマスク、 その翼。充分すぎるほどカラスだ」
「おー、たしかにぃ。やるね、キミ。ご褒 美に、ゲーム攻略の裏道を1つ教えてあげ よう」
始める前から裏道を教えるのは、ゲームと
しては面白くないのではないか、と思った
が、今はそれどころではない。
早く帰れるに越したことはないからだ。
「その裏道ってのは、なんだ?どうやった ら、手っ取り早く帰れる?」
「死ねば、帰れるよ」
聞いて損した、そう思った。
それでは本末転倒ではないか。
呆れて落胆する僕に、
口元がニヤけたアンが言う。
「あれ?期待した?残念、恋をして、愛を 誓い合うまでは、死ぬ以外でここから帰る 方法はないんだ。例外を含めてもね。諦め て1年待つかい?」
そんなにこんなところにいてたまるか。
元の世界に帰れないのは一向に構わない
が、いつも飲んでいるあのコーヒーを1年
も飲めなくなるのは、嫌だ。なにより、
自 分と少女以外人がいないこの空間で、
気まずい1年を過ごすのは、もっと嫌だ。
気が進まないが、それらしい恋をしている
ふりをして、 帰してもらおう、
そう思った。
すると、アンは、一通り説明が終わったの
か、翼で風を起こしながら空へ羽ばたい
た。
上空から2人を見下ろしながら高らかに
語りかける。
「その耳に着けてるデバイスのボタンを押 せば、いつでもミーが案内するよ!お腹が 空いたりしたら呼んでくれ!じゃ!仲良く ね〜!」
言い切ると、空を飛んでどこかへ行ってし
まった。僕は、アンがいなくなってから、
座り込んで無言で空を見つめる少女に話し
かけた。