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鶯ちゃん健気…!ペペロンチーノでツボっちゃいましたw
照れてる~!かわヨ(>ノ<,,,)
「なぁ君、大丈夫か?」
まるで絶望したように青ざめた顔 で空をぼ ーっと見つめている彼女は、僕の声にハッ としたのか、こちらへ顔を向ける。
「あ…ごめんなさい。大丈夫です…」
「…本当に大丈夫か?顔色が悪いけど」
「本当に!大丈夫なので!」と彼女は語調を強める。
急に大きな声で言うものだから、少し驚い て、体がビクッと跳ねる。なんなんだこの 女、と少しイラッとした。 彼女は、驚かせてしまったのを申し訳なく 思ったのか、頭を下げ、ごめんなさい、と 静かに言った。
「…それならいい。こうなってしまった以上、混乱するのも無理ないし」
「一体何なんでしょう、鴉山《からすやま》とか、いろいろと」
「さぁ。僕もわからないよ。ただ1つ確かなのは、これが夢でもなんでもない、現実だってこと」
「…そうですね」
それから1分ほど、お互いに無言だった。
気まずさを打ち破るように、
彼女が口を開く。
「あの、名前、なんていうんですか」
「え?」
「いや、これから1年、一緒にここにいることになるのかもしれないので、名前くらいはお互い知っといたほうがいいかなって…だめですか?」
彼女はおずおずと提案した。だめですか? の言い方に、不安が感じられた。
「いや、大丈夫。俺は、烏崎 帳《からすざき とばり》。君は?」
「夕凪 鶯《ゆうなぎ うぐいす》っていいます。烏崎さん、でいいですか?」
「…ああ、好きにしてくれ」
「ありがとうございます」
僕は彼女の丁寧な態度に、 悪い子ではなさそうだという印象を覚え た。だが、別に好意を抱くというわけでも ないし、猫を被っているだけかもしれな い、という疑念が、僕の中で渦巻く。
「あの、烏崎さん、わたしと同じ高校、ですよね」
と彼女が口を開いた。
「ああ、そうだね」と答えると、
「やっぱり!小鳥箱高校ですよね!」
と手を叩きながら元気に言う。
「偶然、ですね!」
と嬉しそうな声で言うのとは裏腹に、 顔は少し引きつっていた。 無理して僕に気を使っているのだろう。 その証拠に、僕がそうだね、だとか、 うん、 だとか単調な返事を返すのに対し て、懸命に話題を振ってきたからだ。 それでも僕は、気づいてなお、彼女と仲良 くなろうなどとは思わなかった。 すると彼女も諦めたのか、10分程話した ので話題がなくなったのかは知らないが、 黙ってしまった。 僕は、暇になったので、いつものようにス マホ を取り出す。そこで気づいた。 そうだ、携帯はつながるのか? 望み薄だが、誰かに助けを求められるかも しれない。僕はせわしない様子でスマホの ロックを解除し、電話をかけようとまずは 110と画面に入力し、早速かける。 彼女も気づいたのか、期待するような 表情 でこちらの電話に耳を傾ける。 電話がつながった。 彼女にも聞こえるように、 スピーカーモードにして反応を待つ。
「はい、どうされましたか?」
と若い男性の声が聞こえ、 思わず2人で顔を見合わせる。
「あの、実は」と声を出した途端、
耳のヘッドホンのようなものがピコン、 と可愛らしい音を出す。すると、 警察官の声は、耳をつんざく雑音に変わ り、とても聞き取ることはできなくなっ た。 程なくして、電話は切れる。
僕は、ツー、ツー、と電話の切れたスマホ を握りしめ、「くそっ!」と叫ぶ。
「やっぱり、そううまくはいきませんよね… 」
と彼女が落胆する素振りで目線を落とす。
「はぁくそ、どうすれば…」
とスマホをポケットにしまおうとすると、 付けていたストラップが、カシャン、と 音をたてて地面に落ちた。
彼女はそれを見て、わかりやすく「あ」 と声を発する。ストラップを指さして、
「それ、マメヒコくんですよね」
とストラップのキャラクターを言い当て
た。
「あ、ああ。知ってるのか?」
「え、あ、えっと、はい。お姉ちゃんが好きで。…マイナーだけど、かわいいなって思って、わたしも好きなんです。あ、ほらこれ、ガールフレンドのヒーコちゃん」
そう言って、彼女は財布を取り出し、そこについているストラップを僕に見せてきた。
「…そうなんだ。 …いい趣味してるね」
僕は、僕以外にこのキャラクターを知って いる人物がいたことに、少なからず驚き と、感動を覚えた。 コーヒーカップの体に、 丸い手足の生えた その可愛らしい見た目は、ありがちだが、 興味をもたせるには充分、と言えるくらい には、いいデザインをしている、と僕は思 っていた。彼女のもつヒーコちゃんストラップは、それに赤いリボンが付いているものだった。確か子供向けのアニメもやって いたはずだ。時間帯の問題か、人気はあま りないようだが。 僕の行きつけのカフェテリアで以前、 小さな規模でコラボしていたので、 コーヒーと一緒におまけでついてきたの だ。 スマホが寂しかった、というわけではない が、なんとなくそれを付けたくなった。 それほど好きというわけでもないけれど、 もらったときから外す機会もなく、 わりと愛着のある物だった。 だから、少し嬉しくなって、今度は僕の方 から話しかけた。
「なあ君、コーヒー、好きか?」
すると彼女はパアッと顔を明るくして、喜 んでいた。 彼女からすれば、ずっと笑わない赤ん坊 が、努力の末微笑し、「あ、笑った!」と 喜ぶような感覚なのだろう。 彼女は、笑顔を振りまきながら、
「コーヒーはあんまり…。でも、ミルクとかたっぷり入れれば!」
「それはどちらかと言うとカフェオレだ」
「あ…たしかにそうですね」
「コーヒーが苦手なら、カプチーノなんかもある。飲んでみるといいと思う」
「カプチーノってなんですか?ペペロンチーノみたいな?」
僕は、彼女の言うことがおかしく、ふふ、 と笑いを抑えられなかった。緊張気味の顔 が緩み、思わず口にする。
「それはパスタだろ。カプチーノっていうのは、簡単に言うと、コーヒーの上に、ミルクと、ミルクを泡状にしたものを乗っけたものだよ。少し苦いけど、チョコレートパウダーなんかを入れるところもある。チェーン店だとそういうのが多いのかな」
「へぇ、詳しいんですね!」
「たくさん飲んでいるだけだよ」
「でも、素敵です!なんだか大人、って感じがして!」
「…そうか?」
「です!」
「…ありがとう」
僕は照れくさくなって、顔を彼女からそら す。自分の好きなものをこうやって他人に 話したのは、いつぶりだろうか。 僕はそんなことを思いながら、彼女との会 話を、楽しんでいた。のか?