テラーノベル
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目が覚めた。どうやら本当に眠っていたらしい。ずっと同じ体勢で壁に括り付けられて、まともな休息が取れるはずもない。
それでも眠れた。阿部にとって、次の段階に進めるという目黒の言葉が、どれだけ支えになったかというのが分かるようだった。
部屋の中には誰もいない。
無意識に目黒の姿を捜してしまったことに、阿部は自嘲気味に笑った。
そうして部屋の中央を見ていると、一つの黒い点が浮かんだのがわかった。それは空中に波紋が広がるように大きく円を描くと、そこからどろりと黒い塊が落ち、床に落ちると弾けた。そこに立っているのは目黒と、床に座り込んでいる深澤の姿。
その光景に、阿部は目を見開いた。
💜「っ、くそ。目黒、なんのつもりだ」
🖤「言ったじゃないですか。局長が頼りだって。ちょっと亮平が頑固すぎたから、局長の手を借りたいんですよ。どう? 亮平。あんたのせいで、これから局長は傷ついてく」
💚「……蓮……やめて……」
🖤「ハハッ。今更、もう遅いよ。最初から素直に従ってたら、ここまでのことにはなんなかったのにね」
目黒の周囲に、蔓が生えてくる。何本も何本も。それは部屋全体を埋め尽くした。
🖤「これでもう、逃げられないよ」
💜「は? 局長、なめんなよ」
深澤が手を横に出すと、深澤を囲うように無数の鋼の羽根が出現した。
そして目黒の口が少しだけ動く。
……いくよ、と。
目黒の蔓は勢いよく深澤の方に伸びていき、深澤の鋼の羽根も目黒へと向かっていく。やがてお互いに到達するかと思われた時、鋼の羽根は軌道を変えて三階のガラスへ向かっていき、目黒の蔓は深澤の後方にいる阿部の方までいくと、阿部の体を護るように網を作り上げる。
ガラスが割れ、キラキラと輝きながら落ちてくる破片の向こうに、柊とファントムの姿が見えた。
「……なるほど、やってくれますねえ」
それを見据える、目黒と深澤。
💜「案内どうもー。おかげで、交通手段ができて助かったよ」
🖤「お前だけは絶対に許さない。阿部ちゃんを返してもらうよ!」
見据えていた先のファントムの姿が消えると、次の瞬間には目黒と深澤の前方に出現していた。やはり、あの水のようなゴムで移動されるのは厄介だ。
「ずいぶんと、手の込んだことをしてくれましたね」
🖤「何、言ってんの? 全部、俺の話を信じたお前が自分でやったことだろ。他人のせいにするな」
💜「おお、めめが超怒ってる」
🖤「もうここまできたら隠す必要ないんで。ふっかさん、阿部ちゃんのこと、頼めますか? あいつの相手は俺がする」
💜「当然。あっちでの防御は任せて。めめは攻撃に集中していいから」
🖤「助かります」
阿部の方に走っていく深澤に、目を細めたファントムが床をトンとつくと、床を這うように黒いゴムが伸びていく。けれどそれを、目黒の蔓が絡みついて動きを止める。
🖤「お前の相手は俺だから、よそ見すんなよ」
「ほう、あれを止めますか。いいでしょう。どれだけできるか、試させていただきます」
ファントムと目黒の戦闘が始まったのを、三階から見下ろしている柊。その視線は、目黒とファントムから、阿部の方に向かう深澤、そして壁に磔にされたままの阿部へと移る。
「……ここまでですね。これ以上、いる理由がありません」
戦闘が始まり、助けが入った為に、柊ができることは何もなくなった。戦闘は柊がすることではないからだ。
阿部を見つめる柊。
「……結局、あなたを理解することはできませんでした。阿部亮平。もう少し、会話をしていれば良かったのでしょうかね」
そう言って踵を返し、テーブルに置かれた一台のタブレットに触れる。
「これは置いていきましょうか。気付いたら持って行くでしょう」
それだけを言い残し、いつも使っているエレベーターとは逆の方に向かって歩いて行った。
目黒とファントムの戦いを背中で感じながら、深澤は阿部の元へとやって来た。
💜「阿部ちゃん!」
💚「ふっか……」
💜「阿部ちゃん、ごめん。ちゃんと守れなくて、こんな目に遭わせて」
💚「あれはふっかのせいじゃないよ。俺も迂闊だった。でも助けに来てくれて、すっごく嬉しい」
微笑む阿部はいつも通りで、深澤も笑みを浮かべる。
💜「阿部ちゃん、思ったより元気そうで良かったよ」
💚「電脳空間に入ってアレコレ確認はしてたしね。動けなかったのが不便だっただけ」
💜「そういうとこ、阿部ちゃんらしいや。この拘束、解きたいんだけど俺の鋼じゃ無理なんだよな……照か舘さんの到着を待たないと」
💚「えっ? みんな来るの?」
💜「阿部ちゃん、気付かない? 俺、なんか足りなくない?」
言われたからか、深澤のことをよく観察している阿部。
💚「あ! ふーちゃん!」
💜「せいかーい。ちゃんと、道しるべとして置いてきた。ふーちゃんは俺の異能そのものだから、どんな状況でも、俺がどこにいても、ふーちゃんは見つけ出せる」
💚「だから、めめはふっかのことを連れて来たのか」
💜「多分ね。今回のめめ、めっちゃ頑張ってるね。いつもこんなに考えないのに。阿部ちゃん並みに頭、使ってんじゃない?」
💚「ホントに、めめは頑張ってくれてたよ。ずっと敵側で、一人でいろいろ考えて、実行して」
💜「だね。全部終わって戻ったら、めめにしばらく阿部ちゃん貸し出すかー」
💚「貸し出しって……」
苦笑を浮かべる阿部。
少しやつれて、顔色も悪い。目の下にクマもできている。それだけで、阿部がどれだけ大変で、どれだけ耐えてきたのかが分かる。
でも、やっとだ。やっとここまで来れた。
もう、手放すつもりなどない。
ファントムの攻撃を蔓で抑え込みつつ、ファントム自身にも蔓を向かわせ攻撃をしかけるけれど、一進一退が続いている状態だ。決定打がない。
確かに目黒の蔓とファントムのゴムの相性は悪くないけれど、一撃でひっくり返せるほどの差はないからだ。やはり、ファントムのゴムを攻略するには、熱で溶かせる岩本の炎か、凍らせて砕くことのできる宮舘の氷が必要になってくる。
深澤がふーちゃんを置いて来ているのは知っている。河川敷で会った時に、草むらが揺れていたので視線を向けて、そこにハリネズミがいるのを確認していた。あんな河川敷に野生のハリネズミがいるはずなどないのだから。
だからこそ、今は時間を稼ぐだけだと思っている。
ファントムと戦うことと、勝利する事は別問題。深澤と目黒ならば、目黒の方が相性面で押されることもないから名乗り出た。阿部に対する仕打ちを見ているから腹が立っていたのも事実なのだけれど。
戦いながら、あちこちに視線を巡らせていると、気付いた時にはファントムに間合いを詰められていた。
「おや、余所見ですか?」
🖤「っ」
慌てて、ファントムと自分を分かつように太い蔓を出現させるも、ファントムのゴムの方が早くて腹に衝撃があり、そのまま後方に大きく飛ばされてしまった。
床に倒れるも、腕に力を込めて立ち上がる。
「先ほどまでの威勢がウソのようですね。何か、探し物でも?」
🖤「……さあ?」
「あの巨大な鳥と、あなたがたのお仲間は今、別の所でお待ちいただいていますよ」
🖤「っ!? みんなに何をした!」
「さあ、なんでしょうね。ワタシを倒して確かめてみたらどうです?」
🖤「お前!」
「それと。ワタシにばかり気を取られていて良いのですか?」
パチン、とファントムが指を鳴らした。
突然、阿部の体を拘束していた黒いバンドが伸びたかと思うと阿部の体を覆っていく。
💜「阿部ちゃん!」
咄嗟に阿部の体に手を伸ばし、その頭を自分の方に引き寄せて抱き締める深澤。
すぐに二人の姿は黒いもので覆われてしまった。
💜「阿部ちゃん!」
深澤の声に振り返れば、阿部と深澤の体が黒いもので覆い尽くされ、黒い塊は小さくなって消えてしまった。
🖤「阿部ちゃん!? ふっかさん!」
「おやおや。皆、消えてしまいましたね」
🖤「くそっ!」
阿部の体を抱きしめたまま、黒いものに覆われてしまった深澤が目を開けると、そこはただの暗い空間だった。
💜「は? 何これ!」
360度、どこを見ても黒しかない。
手を伸ばすと壁のようなものがあり、深澤がドンドンと叩くけれど結界のようになっているのかビクともしない。
💜「阿部ちゃん、無事?」
💚「大丈夫」
阿部の拘束はすでに解かれていて、阿部も同じように壁を触っている。
すると突然、二人の前に映像が投影された。
それはあの部屋で、ファントムと戦い続けている目黒の姿と、別の部屋で、ゴムでできたような人形と戦っているみんなの姿。
💚「めめ! みんな!」
目黒はファントムの攻撃を受けて、ところどころに傷が出来ている。他のみんなも同じだ。
💜「みんなを助けに戻らないと」
💚「……ふっか、俺が出口を探す」
💜「えっ? できんの?」
💚「ちょっと、情報見てみるね」
そう言うと、壁に手を当てたまま、阿部の目が緑色に輝いた。電脳空間に入ったのだろう。しかしすぐに、阿部の体がフラついたことで慌てて深澤は阿部の体を支える。
💜「阿部ちゃん」
もう、阿部の目は元の黒に戻っていた。
💚「ごめん……やっぱり、ずっと壁に固定されてたから、体力、なくて。少ししか見れなかった」
💜「もう。まだ無茶する気?」
💚「でも、おかげで分かったよ。ここ、ゴムの中だから外に対しては、もちろん何もできない。でも、中でなら使えそう。電波を使って探ってみる」
💜「でもまた倒れるんじゃ」
💚「このままいるわけにもいかないでしょ。今は、無理させて」
💜「……分かった。今回だけだからね」
止めたいのは山々だけれど、このまま閉じ込め続けられるのを避けたいのも事実。だから受け入れると、阿部はその場に片膝を立ててしゃがみこんだ。床に手を置いて目を閉じる。
すると阿部の手のひらから碧色の淡い光が波のように、この空間を巡っていくのが分かった。光を目で追うと、どうやらここは球体になっているらしい。半径5メートルくらいだろうか。全てが黒だから分かりにくかったけれど、思ったよりも広くない。
そうして球体内全てに電波を張り巡らせ、ある一点で微かに電波が揺らめいた。
💚「見つけた。ふっかの右側の光、見える?」
💜「あ、これ?」
💚「そう。そこを、ふっかの異能で壊してほしい。そこが一番、弱くなってる。通常の刃物だと通さないけど、そこならドリルみたいに回転させながら貫けば、ゴムを巻き込んで穴を開けられる」
💜「りょーかい!」
そう言うなり、深澤は右手を出して大きな鋼のドリルを出現させる。
💜「いくぞ!」
勢いよく鋼のドリルをその一点に突き刺す。高速で回転する先端がゴムへ食い込み、周囲を巻き込みながら抉っていく。やがて耐えきれなくなったゴムが裂け、人ひとりが通れるほどの穴が開いた。
💜「やった! 行こう、阿部ちゃん!」
阿部の手を引いて立ち上がらせて、穴の前に立つ。じわりじわりと穴が小さくなっていくのが分かる。時間がない。
ドン、と深澤の背中が押されて、球体の外に押し出された深澤はバランスを崩しそうになりながらも着地した。が、慌てて振り返る。
💜「阿部ちゃん?!」
見ると、穴はもう半分くらいまで閉じかかっている。
💜「何やってんの! 早く!」
宙に浮いた黒い球体。必死に手を伸ばすけれど、阿部は微笑んで首を横に振った。
💚「ふっか、ごめん。俺はここから出られない」
💜「何でっ?!」
💚「見えちゃったんだ。この球体、必ず一人だけ残るように設定されてる」
💜「だったら、俺が残ったのに!」
💚「ふっかならそう言うと思った。でもごめん。聞いて。この球体、魔法の類だと思う。ラウを捜して連れて来て。きっとラウなら、壊せるから。わかるでしょ、まともに動けない俺じゃダメなんだ」
💜「今すぐ俺がっ」
💚「外からの攻撃は弾かれるようになってる。お願い、ふっか。みんなを助けて。俺、また待ってるから」
💜「阿部ちゃん……わかった。みんなのこと助けて、ラウを連れて来る! 阿部ちゃん、負けんなよ!」
💚「ふっかこそ。気を付けて」
触れられないけれど、お互いに拳を突き出す。
信じている。阿部を、深澤を、目黒を、メンバーのみんなの事を。すぐに阿部の姿が見えなくなり、深澤は大きく息をついた。
💜「結局、阿部ちゃんにも助けられちゃったな……でも、二回も後悔してる時間なんてないぞ、深澤辰哉! 阿部ちゃんに託されたんだ、気合い入れてけ!」
パンッと両手で頬を叩いて気合いを入れると、深澤は走り出した。
ほむぺ⋆*
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#あべさく
めかぶぷりん
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