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「乂、リンちゃん。一五〇人も入浴できるビッグスケールな温泉ってどういうこと?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の飛び上がるような驚き方が愉快だったのか、クマ国に亡命して長い元八大勇者パーティ〝N・A・G・A〟代表の、金髪少年、五馬乂と、〝C・H・O・〟代表で、今は三毛猫に化けた少女、三縞凛音《みしまりんね》は、悪戯っぽく微笑んでいた。
「シーイイング・イズ・ビリービング。百聞は一見にしかずってな」
「ニャン、ナーッ(さっき桃太君達が脱衣麻雀をやっていた時に、矢上先生がしばらく席を外していたでしよう? きっとお風呂の許可をもらいに、女将さんを訪ねていたのよ)」
乂と凛音の推測は見事、的中していたらしい。
栗色の髪を赤いリボンで束ねた担任教師、矢上遥花が部屋に戻ってきてしばらくすると、狸に似た耳と尻尾が生えた旅館の女将が、前髪の長い中性的な鴉天狗の少女を連れてきたからだ。
「皆さん、おはようございます! 本日より皆様、冒険者パーティ〝W・A〟の護衛と、元勇者パーティ〝K・A・N〟の監視を担当する、防諜部隊ヤタガラスの葉桜千隼《はざくらちはや》です。よろしくお願いします」
「「千隼さん、よろしく!」」
桃太達にとって千隼は、八岐大蛇・第七の首ドラゴンヴァンプを共に退治した戦友である。
「それでは、今から皆様を浴場までご案内します」
万全の信頼をおける彼女に誘われるがまま、桃太達は旅館の裏側へ案内された。
「うわああ、川だっ」
「見渡す限り一面の緑!」
裏口の戸をあけて石造の階段を降りると、旅館の目と鼻の先に涼やかな風が通る青い水面があり、向かい側には青々と木の生い茂る山が乗り出していた。
「川の水が澄んでいるね」
「木漏れ日がキラキラしてる」
「セミの音がオーケストラみたい」
桃太達は「ミンミン」、「カナカナ」、「ツクツクボーシ」という虫の音にひたりながら、彼らが通う冒険者育成学校のある下東京二四区〝楽陽区《らくようく》〟など、都会では珍しくなった風景を見て驚きの声をあげた。
「ねえ、出雲、遠亜っち、見て!」
柳心紺が川の中を指さすと、そこには無数の小さな魚が群れをなして泳いでいる。
地球産の熱帯魚にも似た、緑、赤、青、様々な鱗で彩られた魚の群れはとても美しく、まるで宝石箱のようで一行はおもわず見惚れてしまう。
「あれ、メガネがおかしい。千隼さん、ひょっとしてクマ国の川って、あたたかいの?」
その途中、瓶底メガネが曇ったことから、祖平遠亜は流れる川から立ち上る湯気に勘付いた。
「いいえ、ここは特別です。地下から湧き出す源泉の湯と、山頂から流れる水が交わることで、川自体が温泉になっているのです」
千隼の解説を受けて、桃太達が川に手を突っ込んでみると、なるほど温かいではないか?
「「ええーっ」」
生徒達が驚愕の声をあげた直後、川の真ん中に石が積まれ、風呂場として使えるよう区切られているのが見えた。
川の一角をまるまる貸し切った贅沢仕様で、乂達が一五〇人使えると言ったのもなるほど真実だろう。
「「うおおお、川そのものが露天風呂なのかああ!?」」
コメント
1件
読み終えました!「川そのものが露天風呂ってどういうこと!?」って桃太たちと一緒に叫びたくなりました(笑)。150人も入れるスケール感、木漏れ日と蝉の音、そして宝石箱みたいな色とりどりの魚…異世界ならではの自然の贅沢が詰まっていて、読んでいるだけで湯気と風が伝わってくるようでした。千隼さんが解説してくれた「地下の源泉×山頂の水」という設定も、ファンタジーなのに妙に納得してしまう丁寧さで好きです。次も楽しみにしていますね🌷
上野文
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アトハ
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