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「宗親さんに抱かれるの、嫌だなんて思いません。だって私、いつも言ってるじゃないですか。貴方のお顔とお声は好みのどストライクですって。好みの男性に手を出されて嫌だと思う女がいると思いますか?」
あえて心の底から宗親さんのことを好きになってしまったという本心はひた隠しにして。いつものように軽い調子で「好みのどストライク」なのだから、というところを強調したら、宗親さんが肩の力をふっと抜いていらした。
「じゃあ震えているのは何故?」
納得してくださったのかと思いきや、宗親さんったらどこまでも食い下がっていらっしゃいますね?
もういっそのこと「そっか。だったら遠慮なくいただきますね」で良いじゃないですか。
聞かれれば聞かれるほど私、惨めになっちゃうんですよ?
好きな人に自分のことを好きだと言われて身も心も愛されたい。
それが無理だから、せめて身体だけでも……。
でも肝心な身体にも自信が持てないから怖くて震えてしまうんです。
そんな風に思ってしまって……でもそういう変なところでやたら真面目で理詰めなところがある宗親さんだからこそ、私は彼に惹かれたんだと思い至った。
宗親さんは基本腹黒ドSのくせに、いつだってここぞと言う時には私と真摯に向き合ってくださるの。
だから「愛されているのかも?」って錯覚させられるし、その錯覚のせいでどんどん貴方のことを好きになってしまう。
お願いだからこれ以上馬鹿な私に勘違いさせないで?
「こっ、この震えは……そう、あれっ! む、武者震いですっ」
場違いなセリフだというのは十分承知しているつもり。
だけど「全てをさらけ出して、貴方に嫌われるかもって思うと不安で震えてしまうんです」、「好きになってくれない貴方を身体を使ってでも繋ぎ止めたくてこんなことをしているのが卑怯だと十二分に理解しているから……。そんな躊躇いが手元を狂わせています」だなんて本音、口が裂けても言えるわけない。
それでも宗親さんは、私の〝覚悟〟だけはしっかりと受け止めて下さったみたい。
「正直、まだ少し納得がいかない面も多々ありますが――」
そう前置きをしてから、宗親さんは私の頭を優しく撫でていらした。
「春凪、自分で脱ぐのがそんなに恥ずかしいなら、僕に脱がさせてもらえないかな?」
問いかけるようにそう言って、そっと優しい口付けを落とすと、私の頬へご自分の頬を擦り寄せるようしてそう囁いていらした。
その温かく包み込むような低音ボイスに、私は小さく頷いた。
***
宗親さんは再度私の唇を熱を込めて塞ぐと、キスに集中して欲しいとでも言うみたいに薄く開いた口の隙間から温かく湿った柔らかな舌を差し入れてくる。
「……んっ、ふぁ」
こうちゃんとキスしても決して声なんて漏れなかったのに。
宗親さんとの口付けは自然と鼻に抜けるような甘えた声が漏れ出てしまうのは何故だろう。
熱に浮かされた頭で、ぼんやりとそんなことを思っているうちに、肩からスルリとパジャマが落とされて――。
えっ?
と思う間もなく、宗親さんの大きな手のひらが胸の膨らみを直接包み込んできた。
ゆるゆると私の胸の弾力と質感を確かめるみたいに、宗親さんの手が乳房に触れる。
そのことが今更のようにすごく恥ずかしくなって、私は無意識に宗親さんの胸に手を付いて押し戻すような仕草をしてしまっていた。
でもそれと同時、宗親さんの滑らかな肌にじかに触れてしまったことに驚いて思わず手を引っ込めて。
宗親さんは口付けを解くと、そんな私の顔をじっと見つめながら
「春凪、どうかそのまま――」
とつぶやいた。
私がその言葉の真意を測りかねてソワソワと彼を見上げたら、「春凪も……そのまま僕に触れていて?」と切なそうに眉根を寄せるの。
その表情がめちゃくちゃ色っぽくて、私はドキッとしてしまう。
「春凪に触れられるの、すごく気持ちいいんだ」
ふっと吐息まじりにそんなことを付け加えてくるとか、ずるい。
私が宗親さんにこんな表情をさせているんだと思ったら、胸の奥がキュン、と疼いた。
今この時だけでも構わない。
私が宗親さんのこと、独り占めしちゃえてるんだ。
そう思えることがすっごくすっごく嬉しかった。
***
「春凪……」
宗親さんに熱のこもった声音で呼びかけられて、私の身体は思わずピクッと反応してしまう。
超絶整ったハンサムなお顔もさることながら、私は宗親さんのこの低音イケボが大好きで。
バー『Misoka』で少々不躾な言動をなさる宗親さんに初めて出会った時にも、彼が言葉を発するたびドキドキしたっけ、と思い出す。
でもね、宗親さんのことを大好きになってしまった今、私の胸の高鳴りはあの時の比ではないの。
今ここにいる私は、ミーハーみたいに宗親さんの外見だけに惹かれていたあの頃とは違う。
腹黒で、ドSで、意地悪で。おバカな私をいっつも理詰めで丸め込んできて……。
でも、ここぞという時には、そんな彼がとても優しく私を包み込んでくれる人だと知ってしまったから。
宗親さんの内面も含めて愛してしまった今の私は、宗親さんにたった二文字。――「春凪」って名前を呼ばれただけで胸の奥がキュンと甘く疼いてしまうの。
それなのにそれと同時、切ないくらいに苦しくなるのは単なるワガママだって分かってる。
宗親さんのこと、私なんかが契約結婚で縛り付けることが出来たってだけでも有り得ないくらい幸せなことだと頭ではちゃんと理解出来ているのに。
宗親さんの心を独り占め出来ないことを不遇だと感じて、囚われの我が身を呪いたくなってしまうほど、私の「アイシテル」は貪欲に膨らみ続けて、今もなお現在進行形で増殖中。
いつかこの「アイシテル」気持ちが胸を突き破って私の心をバラバラに引き裂いて、私、何も感じなくなってしまう日がくるかもしれない。
(宗親さん、大好きです! 貴方のことを好き過ぎて苦しいです!)
名前を呼ばれて泣きたくなって。
もしもその気持ちを彼に向かって吐き出すことが出来たなら、私のこの息苦しさも、少しは解消されるのかな?
でもきっと、言った途端宗親さんに困った顔をさせて、言わなきゃ良かったって後悔する。秘密にしておくべきだった、って嘆かなきゃいけなくなる。
今よりもっともっと惨めな気持ちになるの、分かり切ってる。
だから私、彼に名前を呼ばれてすっごくすっごく嬉しくっても、同じように彼の名前を呼び返すだけに留めるの。
「宗親さん……」
その後に続く、「アイシテル」も「ダイスキデス」も「ワタシヲアイシテホシイノ」も、胸の中だけで。