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やがて安定期を迎え、父にも妊娠を知らせることになった。
貴仁さんと車で実家へ出向くと、いつもながらに父は歓待をしてくれた。
テーブルを囲んで、いつ話を切り出そうかとためらいつつ、並んだデリバリーのアラカルトを摘まんでいると、お父さんが彼にビールを勧めた。
「今日は車だから、ダメだってば」
そう横から口を挟むと、
「じゃあ、おまえが飲むか?」
と、瓶を差し向けられた。
「私も、今はアルコールは……」と、口ごもる。
「なんだ、父さん一人で飲むのは、寂しいだろ」
ちょっとばかりいじけたようにも言う父に、彼と顔を見合わせて、これは話した方がいいかもと無言で確かめ合い、
「実は──、」
と、切り出した──。
「実はね、私たち……子どもができたの」
「えっ……」と、口にしたきり、父が固まる。
「あの、お父さん? 大丈夫……?」
「大丈夫ですか、お義父さん」
彼と二人で、ビール瓶を手にしたまま、微動だにしない父を見やる。
「……大丈夫だ。もちろん、大丈夫だ。私は、大丈夫だ。大丈夫に、決まっているだろう」
自分自身へ言い聞かせるように、そう何度も『大丈夫』と唱えたかと思うと、
「ぃやったな!!」
父がふいに大きな歓声を上げて、今度は私たちの方がびっくりさせられる羽目になった。
「お父さんたら、相変わらずなんだから……」
外食先じゃなくてよかったと、苦笑いで思いつつ、
「お知らせは、あともう一つあって……、」
口の中に放り込んだ付け合わせのプチトマトを呑み下して、そう話した。
「……生まれてくる子は、双児なの」
「えっっ、双児⁉」
父が再びフリーズをする。
「あのお父さん……度々訊くけど、大丈夫よね?」
大きく目を見開いたままの顔を覗き込むと、
「おっ、おおー……っと!」
急に強張りを解いた弾みに、持っていたグラスからビールを零しそうにもなった。
「だ、大丈夫ー? もう落ち着いてよ〜」
グラスを父から受け取って、テーブルの上に置く。
「いや、悪い。落ち着くから、ほんとに……はぁ~」
胸に手を当てて、父が大仰に息を吐き出す。
「それでね……これで最後なんだけど、性別は男の子と女の子なの。まだこないだわかったばかりなんだけど」
何ていうか、あまりに驚かれるものだから、つい細切れな伝え方になってしまった。
すると、案の定というか三度目の硬直をした後で、
たっぷりと間を取って、
「……よかったな。おめでとう、二人とも」
父は嬉しさを隠し切れないといった風で、顔を崩しにこやかに笑った。