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「そうね。それは猫の力でしょうね」


別に大したことではないでしょ、という風に、森の魔女は軽く言い切る。

淹れた薬草茶が満足のいく味だったようで、空いた自分のカップに二杯目を注ぎ入れている。


羽織っていた真っ黒のローブを脱いだ中の服も、やはり黒だった。足首までのロングワンピもやっぱりどことなくヨレヨレ。癖のある栗色の長い髪はパサついてまとまりも無く、お手入れされているようには見えない。肌も潤いは感じられず、荒れ放題だ。どう考えても、身なりは気にしないタイプ。


「だって、それは光魔法よ。光の魔法は人には使えないもの」

「この子は使えるんですか?」


膝の上で喉を鳴らしながら毛繕いしている猫の背を、葉月は優しく撫でる。今はコンパクトに折り畳まれている翼の根元をそっと確認してみたが、やはり間違いなく背中から生えている。何度見ても、猫には翼があるのだ。


初めて飲んだ薬草茶とやらは、正直言って全く口には合わない。というか、草の味しかせず、口に含んだ分を飲み込むのが精一杯だった。今なら青汁だって「うまい!」と言える自信がある。


お茶の添え物として皿で出されたのは、どう見てもジャーキー。いわゆる干し肉。全体的にとてもワイルドなお茶会だ。


汚れた足を洗って手当してもらった後、ベルに促されて森の館でティーテーブルを囲んでいるのだが、席に着くまでが大変だった。

なんせ、テーブルと椅子の上にも物が散乱していたのだから。まずはそれらを移動させないと話にならない。片付けたというよりは、別の所へ物を避けただけ。壁際の物の山がさらに一段高くなっただけという。恐るべし、ゴミ屋敷。


それでも何とか落ち着ける場所を確保して、『自室に現れた光に塊に頭から突っ込んで、気付いたら森の中だった』という、摩訶不思議な体験についてを聞いて貰っていた。


人見知りの激しい愛猫が初対面でも擦り寄っていくくらいだ、きっと彼女は悪い人ではないのだろう。ただ、この館の荒れようでは頼りにして良い人なのかの判断には迷ってしまうけれど。


視界に入る大量の物と埃が気にならない訳じゃない。けれど、葉月はあえて見ないふりを通すことにした。気にしたら、負けだ。否、中に入ることを躊躇った時点で既に完敗していたようにも思うが。


「ええ。だって、猫でしょう? 猫は聖獣だもの」

「……聖獣?」

「この辺りにはずっと居なかったみたいだから、幻獣とも呼ばれることはあるわね」

「猫が、幻獣……?」


観光地化している猫島に行けば、島民よりも多いと言われるような猫が、幻の獣扱い? 何だか信じられない話だ。

とは言っても、膝上で丸くなってスヤスヤと眠っている猫には翼が生えている。元々、一般的なペットの猫とは別物だったと言われたら、そうなのかもと思えてくる。


いや、どんなに思い返しても、以前までは翼は無かった。もしあったら普通じゃないことぐらい、とっくの前から気付いてる。

ほんの数時間前までは普通の愛らしいだけの猫だったのだ。光の塊を発射して魔獣を倒したりするような子じゃなかった。


「前は無かったのに、この森に来てから翼が生えてるんですけど、どうして?」

「んー、そうね。私は専門家じゃないから詳しいことは分からないけれど、魔力が戻ったってことかしら?」

「魔力ですか……」


魔法が常識ではないところで育ってきたから、魔力と言われてもいまいちピンと来ない。

ポットや桶に触れるだけでお湯を出したりしていたから、ベルは本物の魔女だろうし、ここは魔法が存在する世界ということなのだろうか。


――私にも魔力が? 魔法とか、使えるようになる?


聖獣を研究している人が誰かいたような気がするんだけど、とベルは顎に指を当てて小首を傾げている。しばらく考えていたようだが、結局は思い当たらなかったようだった。


「くーちゃんの言葉が分かったら、簡単に解決しそうなんだけどなぁ」


ずっと訳知り顔で一番落ち着いているのは猫のくーだ。もしかしたら、何かを知っていそうな感じなのだけれど……。

魔女に出会ってこの館へ辿り着けたのも、猫の適切な誘導があったおかげだ。最初から全てがお見通しだったとしか思えない。


当の本人は葉月の膝の上で完全に寝入ってしまっている。しばらくはゴロゴロと喉を鳴らしていたけれど、今はとても静かになった。

くーにとって、この場所は安心できるということなのだろうか。ゴミまみれで葉月には全く落ち着かないのだけれど……。


「あら? あなたくらいの魔力持ちなら、聖獣との意志の疎通くらいできそうなのにね」

「へ?」

「そうよね。使い方を知らないのよね。勿体ないわ」


魔女はしばらく考え込んでいる様子だったが、妙案が浮かんだとばかりに目を輝かせて言う。


「丁度いいわ。うちにいなさい。魔力の使い方くらいなら教えてあげるから」

「いいんですか?」

「ええ、勿論よ。どうせ行くあてなんて無いんでしょう? 聖獣と一緒に暮らせるだなんて、魔女冥利に尽きるというものだわ」


二階の空いている部屋は好きに使ってくれたら良いわ、と魔女は穏やかに微笑んだ。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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