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マンションの玄関に入った瞬間、涼ちゃんはふっと肩の力が抜けた。
靴を脱ぎながら、膝が少し震える。
——今日もちゃんと笑えなかったな……。
玄関の電気をつける気力もなく、
そのまま薄暗い部屋に入っていく。
リビングに置いてあるソファへゆっくり倒れ込むと、
天井がやけに遠く見えた。
スマホが震えた。
元貴からのメッセージだった。
「涼ちゃん、大丈夫?さっきちょっと様子おかしかったから。」
読んだだけで胸がざわつく。
心配されることは嬉しいはずなのに、
今の涼ちゃんには負担みたいに重く感じた。
返信画面を開いたまま、
指が止まる。
——大丈夫じゃない、って言いたい。
——でも言ったら迷惑かける。
——また重いって思われる。
喉の奥がつまって、何も打てなかった。
気づけばスマホを胸の上に置いたまま、天井を見つめている。
部屋の静けさが、逆に頭の中のざわめきを大きくする。
今日のことが次々に浮かんでくる。
楽しそうに笑ってた2人。
その中で孤立してる自分。
ちゃんとやらなきゃ、って焦る気持ち。
でも空回りしていく不安。
胸が重くて、息が浅くなる。
涼ちゃんはゆっくり体を起こして、キッチンへ歩く。
ふらっと体が揺れたけど、気にしなかった。
戸棚の奥に隠していた薬を取り出す。
処方されたものじゃない。市販で買った、眠気を強める強いタイプのやつ。
「……これ飲まないと、寝れない」
誰に向けるわけでもなく、小さく呟く。
水と一緒に飲み込むと、喉が少しだけ痛くて、
それすら安心材料みたいに感じた。
薬の包装を握りしめた手が、微かに震えている。
——こんなこと、誰にも見せられないよ。
ソファに戻った涼ちゃんは、膝を抱えてうずくまる。
息をするたび、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「…元貴も若井も、楽しそうだったな……」
ぽつりと漏れた声は、誰にも届かない。
目を閉じると、今日の笑い声が耳の奥でこだまする。
そのたびに胸が痛んで、涙がにじんだ。
薬が効いてきたのか、視界がゆっくりぼやけ始める。
そのぼやけの中で、涼ちゃんは小さく呟いた。
「……俺だけ、うまくできない……」
そのままソファに横になり、
静かに、静かに涙を落としながら、眠りへ沈んでいった。