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土曜日。集合時間より早く着いた琴道(ことみち)。
ワイヤレスイヤホンでアニソン(キャラクターソングや主題歌など)を聴きながら他のメンバーを待つ。
すると左肩にズシンと重みがくる。振り返ると嶺杏(れあ)が手を乗せていた。
「あ、…お、おはようございます」
と左耳のワイヤレスイヤホンを外しながら挨拶する。
「おはよー」
嶺杏もヘッドホンを首元にズラす。
「あ、その曲」
思わず反応してしまった琴道。
「あぁこの曲?知ってる?」
「あ、…はい」
「好きなんだ?IMI(アイ エム ワン)」
「あ、いや…」
「ん?」
キョトンとした顔の嶺杏。スマホでヘッドホンから流れている音楽を止める。
すると琴道のワイヤレスイヤホンからの音楽が嶺杏の耳に届く。
「ん?なんだっけその曲」
「あ、これはそのぉ〜…」
「あぁ!「虚像(曲名)」だ。A phantom tree(アーティスト名)の。A phantom treeも好きなんだ?」
「あぁ〜…好き…この曲は好きですね…」
嶺杏はスマホでその曲を検索する。
「…あっ、アニメの主題歌なんだ?」
「うっ」
核心を突かれて思わず声が出る。
「うっ?」
「そうです…アニソンです…」
どよ〜んとした空気を纏う琴道。
「ごめん…なんかダメなとこ触れちゃった感じ?私」
「あ、いえ…。福留さんは悪くないんですけど…」
「あ、もしかして好きなの隠してた感じ?」
「あ、いえ。隠してはないんですけど…。ヲタクってイメージ悪くないですか?」
「ん?イメージ?悪くはーないんじゃない?」
と言う嶺杏にパアァっと晴れかける琴道。
「メガネクイッって感じでリュック背負って、赤いチェックシャツ着て
ハイウエストのパツパツのジーンズ履いてて
はちまきして汗だくで、その汗を拭くタオルをベルトに巻いてるイメージ?」
と事細かに言われてまたズウゥ〜ンと曇る琴道。
「キモヲタなイメージですよね…」
「キモオタ…。そうなのかな?服装はそんなイメージだけど。ただ別にオタク自体に偏見はないよ」
その服装のイメージは偏見では?
と思う琴道。しかし言わずに嶺杏の言葉を聞き続ける。
「好きなものに…なんて言うの?どんちょく?」
「どんちょく?」
「どん、欲か。いや、違う。言いたい言葉違う…」
「…愚直とかですか?」
「それ!愚直!好きなものに愚直な感じ?羨ましいとさえ思うよ。
好きなものだけに一直線で、身なりも気にしないっていうね」
いや、たぶんヲタクの諸先輩は、身なり気にしてあの服装なんだと思います
…いや、諸先輩はマジで身なり気にせずにいたのかなぁ〜…尊敬する
と思う琴道。
「周りを気にせず、これにだけ注ぎ込むんだっていうその気持ちね。私はそこまで思えるものないからなぁ〜」
「そ、そう思います?」
「うん、思うよ。だから別にヲタクのイメージは悪くないよ。ま「少なくとも私は」だけどね」
「う、嬉しいです!」
嬉しくて思わず大きな声が出る琴道。
あっ、舞い上がってしまった…引かれた…かな
と思っていると
「そっか。よかった」
と微笑を浮かべる嶺杏。そのクールだが、温かさが滲み出る綺麗な微笑みに思わずドキッっとする琴道。すると
「おぉ〜い!嶺杏ちぃ〜ん!」
テンションの高い声が聞こえてくる。
「お。うるさいのが来たぞ」
「おぉ、奥田くんも」
ペコッっと頭を下げる琴道。糸が合流した。
「まだ2人?」
「ぽいよ?」
と話していると
「お待たせー」
ヨルコと
「お待たせしました」
名良(なら)が合流した。
「ヨルコかわよ」
糸がヨルコをまじまじ見てまじまじ言う。
「ありがとう。糸もいいね。可愛い」
「そーおー?ヨルコに褒められると嬉しいですな」
「トレーナーにサロペット。うん。ボーイッシュなコーデだけど、元気っ子な糸の雰囲気が合わさって。
うん。いいんじゃない。似合ってる」
「あぁ〜ん!嶺杏ちん!嶺杏ちんも可愛いぞ!」
と糸が嶺杏に抱きつく。嶺杏は糸を引き剥がそうとしながら
「私は可愛い系の服は似合わないから。今日だって明らかに可愛い系ではないでしょ」
と言う。
「おぉ〜!集まってんねぇ〜!」
という雲善(うんぜん)の元気な声が聞こえ、全員でそちらを見る。するとこちらに手を振る雲善
後ろで2人で話す風善(ふうぜん)と恋弁(れんか)がこちらに向かって歩いてきていた。
「おーまたぁ〜」
「すいません。お待たせしました」
「ふー、めっちゃオシャレだね。てか大人っぽい」
名良が驚く。
「そおかな?ありがとう。名良も似合ってるよ」
「ありがとう」
「嶺杏、オシャレだね」
恋弁が嶺杏の服を見ていう。
「そお?ありがとう。恋弁も、大人っぽいね。似合ってる」
「そおかな。ありがとう」
「お、女楽国」
雲善が糸の前に立つ。
「な、なに?」
「可愛いな」
と笑顔で言う雲善。
「は、はあぁ!?」
「ん?」
遠くから糸と雲善を見ていた嶺杏は
あぁ…雲善くん。なんの他意もなく言ってんな
と思った。そんなこと梅雨知らず
は?は?は?
と少し頬を赤らめる糸だった。そんなこと意にも留めず
「しゃー!行くぞー!」
と元気良く言う雲善。風善は
女楽国さん。うちの兄がすいません…
と思っていた。一行は雲善と風善の姉がファンのアーティスト、アイドル
いや、ボーイズグループ「MVP」とコラボを行っているカフェへ。
人気グループというだけあって行列ができていた。
「うわっ。これに。並ぶん?」
糸が「げっ」っという顔で言う。
「もう並んでるよー」
と言う雲善。
「なにこの女の列」
「だからーうちの姉ちゃんが好きなアーティスト?アイドル?だかなんだか知らんけど
そのライブチケットが当たるキャンペーン中だって言ったじゃん」
「うん。覚えてるけど…。想像以上だったわ。側から見ると異常だよね」
と驚いていると
「ま、良い席ってわけじゃないんですけど
その代わり、メンバーが身につけていたアイテムが必ずなにかしら貰えるらしいので
これだけの行列になってるんですよね」
と風善が解説する。
「あ、そうなんだ?」
「すみません、うちの姉のわがままのために付き合っていただいて」
「あ、いえいえ!」
「本当はふーと恋弁と3人で行く予定だったけどなー。
でもやっぱ、女子が「あんたも頼んでよー」的な感じで頼まないと頼みづらいメニューだったから」
と雲善が言うとヨルコが恋弁の耳元で
「恋弁は風善くんと2人がよかったんでしょ」
と言う。すると耳を赤らめて
「そっ、そんなこと」
続きを言おうとすると
「ないと?」
と嶺杏が言う。
「な…」
「なくはない。と」
イタズラっぽく言う嶺杏。すると店員さんが出てきて
「申し訳ありません」
と言うから
「え!?キャンペーン終わっちゃったんですか!?」
と驚く雲善。
「あ、いえ。そうではないんですが、お客様たちはグループでいらっしゃいますよね?」
と店員さんに言われて全員が全員の顔を見て
「あ、はい、そうです」
と風善が答える。
「8名様でいらっしゃいますよね?申し訳ないんですが
2つのお席に分けて案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
と店員さんが申し訳なさそうに言う。
「あ、はい。大丈夫、ですよね?」
風善がみんなに確認するとみんな頷く。
「ありがとうございます。では順番が来次第、4名様ずつご案内させていただきますので
もう少々お待ちください」
と言って店員さんは頭を下げて列の後ろの確認に行った。
「大変だ」
「もう少しねぇ〜…」
雲善が皮肉っぽく列の前を見る。
「雲善とふーって、たしかお姉さん、2人いるんじゃなかったっけ?」
琴道が言う。
「あぁ、2人いる。今回のは下の姉のやつだね」
「名前はなんて言うの?」
名良が聞く。
「えぇ〜、名良くぅ〜ん。うちの姉狙いですかぁ〜?やめてほしいんですけどぉ〜」
と言う雲善。
「違うわ!まだ先が長そうだから雑談だよ、雑談!」
と名良たちの並ぶ行列の先を指指して言う名良。
「名前は青。んで上の姉が緑」
と言う雲善の言葉が耳に入った琴道。
「青!?青ちゃん!?みだらな青ちゃん!?いや、青様!?お父様が官能小説家をされてて
名前の由来がヤバいあの青様!?そして緑!?翠!?高嶺様??絵がうまかったり、野菜に詳しかったりする!?
おいおい。二次元まみれかよ…」
とヨダレが出そうになる琴道。
「色の?」
と名良が雲善に聞く。
「そ。母さんから聞いたけど、上の姉は自然のように伸び伸び育って欲しいって意味で
男か女かわかる前に決めてたらしい」
「へぇ〜」
続いて風善が
「下の姉は上の姉と互換性があるといいってことで、自然の緑と空の青ってことで青にしたんだって」
と説明する。
「お姉さんは?ファンなんだから来てんじゃないの?」
糸が雲善に聞く。
「土曜は昼過ぎまで寝てるし、講義あるときもあるし」
「あ、お姉さん大学生なんだ?」
「そ。バイトバイトで卒業できるか怪しいってさ」
「マジか」
「平日はバイト、行けるときはライブ行きまくって
バイト代はほぼライブのチケットとグッズに注ぎ込んでる」
「あぁ〜…」
「女楽国は兄弟いるんだっけ?」
「うん。お兄ちゃんとお姉ちゃん」
「お兄ちゃんお姉ちゃんって呼んでんのな」
とクスッっと笑う雲善。
「なんだよ」
ムスッっとする糸。
「いや、可愛いなって」
また可愛いって…
耳が熱を帯びる糸。その会話を聞いていた風善はまた
女楽国さん、ほんとすいません
と糸に向かって合掌し、軽くお辞儀をする。
「ふー…なにしてんの」
と言う琴道。
「で?“お兄ちゃん”はなんて名前?」
「強調すんなし」
「ごめんごめん」
「お兄ちゃん(小声)は一緒(いお)」
と言う糸の言葉が耳に入った琴道。
「伊御さん?メガネイケメンの伊御さん?いや、伊御様?
もしかしてつみきさん、いや、つみき様も一緒?どこ?どこ?」
とキョロキョロする琴道。
「なに探してんの?」
名良も一緒にキョロキョロする。
「二次元への扉」
「…は?」
「へぇ〜。女楽国の名前に似てんね」
「そお?」
「糸でしょ?」
不意に名前を呼ばれてドキッっとする糸。
「そ、そうだけど…。私の名前知ってたんだ?」
「そりゃーそうだろ。お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんは紡(つむぎ)」
と言う糸の言葉が耳に入った琴道。
「つむぎ?ツムツム?つむ様もいらっしゃるのか?嘘だろ。この周辺には二次元への扉が確実にある。
「食べるの見ててー」なんて言われた日にぁ〜…。萌え死にするでほんま」
「琴道は二次元が絡むとキャラ崩壊起こすよね」
「キャラ崩壊?ひとりで隠れるもんをしたときのあそ研のオリビア様みたいに?」
「…ごめん。なに言ってるか1つもわかんない」
と言う風善。
「へぇ〜」
と言う雲善。糸と雲善の間に沈黙が生まれる。
「え!?私のお兄ちゃんとお姉ちゃんの名前聞いたのなんだったの!?」
驚く糸。
「え?いや話題?名良の真似した」
「え、そこからなんか広げないの!?」
「えぇ〜。なんも思いつかんって。…あ、由来は?」
「名前の?」
「そ」
「お兄ちゃんは一緒(いっしょ)って書いて一緒(いお)なんだけど
お兄ちゃんにとって大事な人が一緒にいてくれるように、そしてお兄ちゃんも大切な人が困ってたりしたら
一緒に側にいることができる優しい人になるようにって聞いた」
「めっちゃいい名前。お兄ちゃん優しい?」
「まあ…優しいけど…。名前と違ってなんかチャラい」
「そうなんか」
と笑う雲善。
「お姉ちゃんは人と人の縁、絆、友情などを紡げる人になるようにだって」
「これまたいい名前」
また糸と雲善の間に沈黙が訪れる。
「え、いや、女楽国のは!?」
驚く雲善。
「あ、私?」
「そりゃそーしょ!?」
「私のは歌で「糸」ってあるじゃん?」
「…ヘェ〜(棒)」
「知らないのかよ」
「知らん」
「有名な歌であんのよ」
糸がスマホで曲を流し、雲善の耳元にスマホのスピーカーを近づける。
「…」
ピンと来てない雲善。
「もおっ」
糸はサビまで飛ばして、また雲善の耳元にスマホのスピーカーを近づける。
「…あぁ!はいはい!聞いたことある!」
「でしょ?この曲みたいに、人と人と繋ぐ存在になってほしいっていうやつ」
「ピッタリじゃん」
「そ、おかな?…そおか?」
「そおでしょ。女楽国がいたからこうやってみんなで来れたんだし」
「そおなのかな?」
「オレが女楽国に声をかけたからこそ、こうやって遊びに来れたんだし。
女楽国がいなかったらなかったって。めっちゃ好きだわ、糸って名前」
と言われて沸騰しそうなほど顔が熱くなる糸。それを誤魔化すように
「み、みんな統一した感じの名前にしたかったんだって!お兄ちゃんの一緒の緒も紐とか糸みたいに繋ぐもので
紡ぐって言葉も糸に関係してて、私は言わずもがなそのまんま「糸」。
人と人の縁とかを大事にしたかったらしいよ!」
と早口で言った糸。雲善は考え込むようにして
「…でもよく考えたらオレという存在が大きすぎるのか…。女楽国じゃなくてオレがすごいのかもしれない…」
と呟く雲善に
「私の感動返せよっ」
と肩を叩く糸。と話しているとお店に入る順番が来て、糸、雲善、名良、ヨルコの4人が先に入った。
お店の中はちらほらいる男性客と男性店員さんを除いたらほとんどが女性のお客さんで埋め尽くされていた。
「ヤバ」
店員さんの案内についていく。店内にはMVPの曲が流れていた。
〜
今日も今日とて仕事 出社前入れてくスイッチ
日常が変わる出来事 まるで裏技 like a glitch
君にいいとこ見せたくて取り繕う外見
素直なれなくて言えないこの気持ちを抱えて…1(one)、2(two)、3(three)、Let’s go!!
君はA cool man A cool man。僕なんかよりもずっと
日常がLoop an(&) Loop an(&)。悪魔的なその魅力で 笑顔という名のその角で
変わらぬ日常を突き破り、非日常へ連れ出してくれる君はそう “A cool man”
〜
「お。「A cool man(曲名)だ」
雲善が天井を見ながら呟く。
「知ってんだ?」
名良が聞く。
「ま、青姉(あおねえ)がほぼ毎日流してるからなぁ〜部屋で」
店員さんに案内された席につく。
メニュー立てに挟まっていた、プラスチックのようなもので包まれた、パウチ加工されたものが1枚あった。
それを手に取る糸。そこには
大人気ボーイズグループMVP(Make Vetter Place)とのコラボメニュー!!
メンバー全員が考え抜いたメニューを詰め合わせた1プレートをぜひお召し上がりを!!
“さらに!!”注文いただいたお客様にお渡しするカードに書かれている
QRコードを読み込んでいただくと”なんと!!”MVPのライブチケットが当たる!!
※お渡しするカードはレシートをお渡しする際に別途でお渡しします。
ご注文されたメニューを“完食”を条件にお渡しさせていただきます。
と書いてあった。そしてMVPのメンバー7人が写っていた。
「おぉ。イケメン」
と呟き、特別メニューを裏返す。するとそこにその1プレートの写真が載っていた。
1品1品のメニュー名と解説、使われている食材なども事細かに書いてあった。
「ふつーに美味しそう」
と呟く糸。ヨルコも覗き込む。
「ほんとだぁ〜。美味しそう」
「ね」
ただそこに写っていた1プレートの写真の料理は
アボカドドレッシングのサラダ、サーモンのカルパッチョ、ピリ辛アラビアータ
クリームソースのクリーミーオムライス、オニオンスープ、チョコレートケーキ、プリン
そしてメンバーカラーの飲み物7種類の内1つを選択という
色彩豊かで女性が好みそうな料理の詰め合わせだった。
「ふつーに頼めそうじゃん」
と雲善に言う糸。
「いや…。ちょ貸して?」
と言う雲善に特別メニューを手渡す糸。
「見てみ?」
名良に見せる雲善。
「おぉ…。なるほど」
「な?無理っしょ?」
「まあ…キツいかな」
「そうなの?」
ヨルコが聞く。
「いや、なんか、そもそも1プレートのメニューを頼まないかもです」
「な?」
「そうなんだ?」
「はい。正直全部好きですけど、なんか1品と飲み物頼んで終了って感じですね」
「な」
「そうなんだぁ〜」
「ま、とりあえずこれを4つ頼みましょ。ドリンクはどれにする?」
と雲善がテーブルの真ん中にメニューを置く。
「あ、選択なのか」
「あ、ほんとだ」
「レモンって酸っぱいかなぁ〜」
「ブルーハワイってなんですか?」
「え!イサさん、ブルーハワイ知らないんですか!?」
「え、そんな有名なんですか?」
「もしかしてイギリスにはないんですか?」
「あ、そっ、そうなんです!イギリスにはなくて」
なんて話し合って飲み物を決めてをそのコラボメニューを4つ頼んだ。
「雲善は?」
糸が雲善に言う。
「ん?オレはブルーベリーにしたけど?」
「違う」
「ん?」
「な、名前」
「名前?ブルーベリー…紫担当?曲は知ってるけどメンバーの名前は知らんからなぁ〜」
「違う!」
「え。じゃあなに」
「雲善の名前。由来は?私だけ言うのはなんか…なんかじゃん」
「なんか、なんかなのか」
とクスッっと笑う雲善。
「うるさいなぁ〜」
「オレの名前の由来?ま、オレとふーだな。
中学のときによく「風神と雷神じゃないんだね」とは言われたけど」
「あ、それ私も思った」
するとヨルコが名良に手招きする。
「どうかしました?」
と名良がテーブルを挟んでヨルコに顔を近づける。すると内緒話をするように手で口元を隠しながら
「風神と雷神ってなんですか?」
と聞く。
「あぁ」
と答えている間にも雲善の話は進む。
「語感としては似てるからね、風善と風神って」
「たしかに」
「実際、父さんは風神と雷神にしたかったらしい。でも姉ちゃんが緑と青で
木とか草とか空が由来だから、風はいいとしても雷はってなって
姉ちゃんたちと関係があって、なおかつ双子だからお互いにも関係があるものってことで
青い空に浮かぶ雲ってことになったんだってさ。木とか草も風にそ、そよぐ?し、雲も風によって流される」
「でも風って姿形が見えないじゃないですか。
でもちゃんと風が吹いてるって証明してくれるのが木々の揺らめき、雲が流される様子っていう。
なので雲が動くのも、形を変えるのにも風は必要だし、風がそこに吹いてるって証明するためには雲が必要。
なのでお互いがお互いを必要として、支え合っていくようにってことで、兄は雲、僕は風になって
それぞれお互いに善い影響を与え合うように、周囲にも善い影響をもたらすようにってことと
語感が風神雷神の神(かみ)、神(じん)に似てるってことで善(ぜん)にしたらしいです」
と離れたテーブルでも風善が雲善、風善の名前の由来を話していた。
「なるほど。カッコいい名前の通り、カッコよく育ったと」
と言う嶺杏。
「あ、いえ。そんなことは」
「謙遜しちゃって。ね?恋弁」
「えっ?え、あ、うん」
と慌てて言う恋弁に
「ありがと」
と爽やか笑顔で言う風善。そんな話をしていると
「お待たせいたしましたぁ〜」
と雲善たちのテーブルに注文した料理と飲み物が届いた。
「めっちゃ美味しそー!写真撮ってい?」
と糸が言う。
「別にいんじゃね?いただきまーす」
と雲善が食べ始める。
「うまっ!これうまっ!」
自分で写真を撮ると言ったのに、いち早く食べて美味しそうな表情を浮かべる雲善に少しムカつく糸。
「飲み物も4つ寄せて撮っていい?」
「あ、どうぞ」
名良が自分の飲み物の入ったグラスをを糸の飲み物の入ったグラスに寄せる。
「あ、紺堂くんありがとー」
ヨルコも寄せる。
「ありがとー」
雲善の飲み物の入ったグラスは勝手に近づける糸。そして写真を撮ってから食べ始める。
「いただきます」
「美味しい」
「ほんとだ。美味しい」
頼んだ飲み物も飲んでみる。
「ん。レモンのやつ、酸っぱすぎない爽やかな感じ。なんなら大人な感じ」
「私の桃のも爽やかな感じ。飲んでみる?」
「うん!ヨルコも私の飲んでみなよー。あ、柑橘アレルギーとかじゃないよね?」
「大丈夫大丈夫」
と交換する糸とヨルコ。
「お。ブルーベリーも爽やか系だわ。名良のはどんな味なん?」
そう雲善に聞かれて飲んでみる名良。
「…」
斜め上を向いて味わう名良。
「んん〜…。なんだこれ」
「ちょ、飲まして?」
「はい」
「名良もオレの飲んでいいから」
「ん。ありがと」
雲善が名良の頼んだ白い飲み物を飲む。
「…。なんだこれ。ん?なんだっけこれ」
と斜め上を向いて味わいながら考える雲善。
「え。気になるんだけど。飲ましてよ。いい?紺堂くん」
と糸に聞かれ
「あぁ。はい」
と答える名良。飲んでみる糸。雲善はストローでの間接キスに少しドキッっとした。
「…なんだこれ」
結局「なんだこれ」な味だった。
「私もいい?」
とヨルコに聞かれて
「あ、どうぞ」
と答える名良。ヨルコにグラスを渡す糸。糸も雲善も名良も
なんだっけこの味…
と思っていた。ヨルコも飲んでみる。
「…あぁ〜…。んん〜っとぉ〜…。ヨーグルト系の、乳酸菌飲料にあったような味?」
とヨルコが言うと
「「「それだ!」」」
とみんな納得した。
「なるほどねぇ〜。なんか飲んだことあったんだよねぇ〜」
「わかる。点で思い出せなかった」
「な」
「ありがとうヨルコ!」
「ありがとうございます、イサさん!」
「そんなそんな」
と言いながら
「はい。ありがとう」
とグラスを名良に返すヨルコ。
「あ、いえ」
と味の正体を知った上でもう一度飲もうとストローに口を近づける。
あれ?これイサさんが口つけたやつ?間接キ…いやいや、こんなこと考えるの自体キモいって
と思うものの上目でヨルコの唇を見てしまう。ぷるんとしたピンクの唇。
リップクリームか口紅を塗っているのか、少し艶っとしているように見える。視線を逸らし
バカか。より意識するほうに持ってってどうすんだよ
と意を決してストローに口を近づける。ストローに近づくたびに心臓のドキドキが加速していく。
見てしまったヨルコの唇が脳裏にチラつく。やっとストローに口がたどり着いた。そして飲み物を吸い込む。
…なんかさっきより味薄い気がする…
変に緊張したせいで味が薄く感じた名良。
そんなこんなで雲善のテーブルは全員食べ終えてお会計をすることに。
糸がテーブルの端にあった透明の包に店員さんが丸めて入れてくれた伝票を見る。
「たっ」
「たっか」の「か」が出なかった糸。
「え。全然値段見てなかったけど、1人いくら?」
と今一度特別メニューを見る糸。そこには2,500円(税抜)と書いてあった。
「マジ?」
と驚く糸の手から伝票を取る雲善。
「まかせろ」
と笑顔で言う雲善に少しドキッっとする糸。レジに持っていく雲善。
後をついていく糸、名良、ヨルコ。お会計をしているときに
「今回コラボメニュー4品頼まれたということで、カードを4枚お受け取りいただけます」
と言う店員さんに
「あ、ありがとうございます。あ、ちょ、女楽国、受け取っといて」
と財布にお釣りを入れている雲善が糸にお願いする。店員さんは雲善から糸のほうにカードを差し出す。
「ありがとうございます」
と言って受け取る。
「ありがとうございましたー」
と店員さんに言われてお店を出る4人。
少し遅れて風善が琴道、嶺杏、恋弁の全員分をまとめて払ってお店を出た。
「風善くん、良かったの?出してもらっちゃって」
嶺杏が言う。
「あぁ、はい。姉からお金貰ってるんで」
と爽やか笑顔で言う風善。
「あ、ふー。こっちの4枚も持っといて?」
と雲善が風善に言う。
「あ、うん。兄ちゃん無くしそうだもんね」
「失礼な。事実だけど」
と言いながら
「女楽国、カードちょーだい」
と糸に言う。
「あ、ごめん。そっか。渡さないとだよね。ごめん、1枚やっちゃった」
「ま、1枚くらいいいって」
と言う雲善に3枚を渡す糸。
「はいふー」
「ん」
「…ん?」
とスマホの画面を見ながら呟く糸。
「…え?…」
と呟く糸に雲善が
「なに?」
と糸の画面を覗き込む。すると糸のスマホの画面には「おめでとう!!」という文字とメンバーの写真
そして紙吹雪のアニメーションが、左から放物線を描いて右側に、右から放物線を描いて左側に舞っていた。
「えぇ!?当たってんじゃん!」
と言う雲善の大きな声に、琴道、名良、風善、嶺杏、恋弁はもちろん
お店に並んでるお客さん、店員さんの視線も集まった。
「ヤバっ」
と呟いて糸の手首を掴んで
「走るぞ」
と言って走り出す雲善。
「あ、ちょっと」
と言いながらも走る糸。
「ま、僕たちは歩いて後を追いましょうか」
と言う風善。雲善と糸は角を曲がってスピードを緩め、立ち止まる。
「マジか!当たった!?」
「っぽい」
とスマホの画面を今一度雲善に見せる糸。
「ヤッバ。スゲェ。ナイス!女楽国っ!」
と笑顔で手を挙げる雲善。糸も手を挙げる。雲善が糸の手にパチンとハイタッチする。
「痛いって」
「悪い」
なんて話しているところに風善たちが合流する。
「あ、いたいた」
「糸、マジで当たったん?」
「当たったっぽい」
「兄ちゃん、どうすんの?」
「どうするって?」
「ほら。女楽国さんのスマホで当たったじゃん」
「…。あ、そうじゃん」
「今気づいたんだ」
と呟く名良。
「さすが雲善だね」
と呟く琴道。
「ど、どうするかは一旦持ち帰って姉ちゃんに聞いてみるわ」
「青姉(あおねぇ)なんて言うかなぁ〜」
「怒られるかな」
「どうかな」
そんなこんなで目的となるお昼少し過ぎのご飯は幕を閉じた。