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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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合鍵を渡した大智君が待ってくれてないかなと思って帰宅したけど、部屋は真っ暗で誰かが来た形跡もなかった。

〈仕事終わった。今帰ったとこ〉

とメッセージを送ると、すぐ既読となり、

〈おつかれさま〉

と返事が来た。

これくらいでちょうどいいのかもしれない。今思えば、十二人の男たちが代わる代わる私の隣にいた七年前の状況があまりに不自然すぎたのだ。

よく考えたら私は普通の恋愛を知らない。かつて竜星にされていた一方的なセックスを、昨夜君としてしまった。私が君をリードしようとすると、すべてがそういう調子になってしまうに違いない。

すべてを大智君に委ねてみるのもいいかもしれない。君は戸惑うかもしれないけど、焦る必要はないんだ。どんなに手間取ったって、どんなに失敗したって、私は決して君を笑わない。

過去をなかったことにはできないけど、大失敗だった初恋をやり直すことはできそうな気がする。どうしても私には君が必要なんだ。

君はかつての私によく似ている。勉強はできるけど、それ以外のだいじなことは何も知らないし、何もできない。悪い人に目をつけられたら、かつての私のように簡単に騙されて、言いなりにされてしまうだろう。

私を守りたいと君は言ってくれたけど、私だって君を守りたい。いつか立派な高校教師になった君が、年を食ってるだけで何も持ってない空っぽの私なんかでは物足りなくなるときが来るかもしれない。昨夜、捨てられるのが怖いと言って君を困らせてしまったけど、もう二度とそんな恥ずかしいことは言わない。

君の恋人でいられる限り、私は全力で君に尽くすよ。見返りは何も求めない――


着替えてる途中でうとうとしてしまったらしい。私は和室であぐらをかいて下着姿で座っていて、畳にまでよだれが垂れている。こんなだらしないところを大智君に見られたら、彼が大学を卒業して教師になるのを待たず、今この瞬間にも私を捨ててしまうに違いない。

ふと違和感を感じた。電気が常夜灯しかついてなくて部屋が暗いけど、私、帰ってから確か普通に電気をつけて部屋を明るくしたはずなのに……。

「起きたんですね」

と呼びかけられて、体がビクッとした。

「呼び鈴鳴らしても出てこなかったので、合鍵使って入らせてもらいました。お疲れのようだったので、電気は消させてもらいました」

「ありがとう……」

「電気つけていいですか」

「う、うん」

大智君によって電気が煌々とつけられ、寝起きでまだ頭がぼんやりしてる下着姿の女の間抜けな姿が白日にさらされる。私は急いでTシャツとレギンスを着込んだ。またすぐ脱がされてしまうかもしれないけど、だからといってふだんから男の前で平気で下着姿でいられるような緊張感のない女にはなりたくなかった。

「疲れは取れましたか?」

「体は疲れてはないんだけど、今日は仕事で失敗が多くて心が疲れたみたい」

「意外というか、詩音さんでも失敗することあるんですね」

「たぶん七年ぶりに彼氏ができて浮かれてるんだと思う。つまり私が疲れてるのは君のせいだ」

「ごめんなさい!」

冗談半分に責めただけなのに本気で謝られてしまった。昨夜も似たような場面があった気がする。彼がそういう反応するのを知っててまたそういう冗談を言ってしまうのは、私が意地悪なだけだろう。

今回意地悪をしてしまったのはたぶん、私が失敗しない人間だと決めつけられたことに少しイラッとしたせいだ。私が失敗しない人間であるわけがない。七年前、致命的な失敗をして大学も辞めて見ず知らずのこの街に逃げてきたくらいなのに。

でもそれで大智君に意地悪するのは間違ってる。大智君は何も悪くない。悪いのは失敗した私であり、私を十二人の共有物としていたあの男たちだ。

私はきっと彼らを憎むあまり、世のすべての男性を憎んでいるんだ。男によって負わされた傷は男でしか癒せない。いや、君でしか癒せない!

私は大智君を抱きしめた。というより、すがりついた。

「謝らなくちゃいけないのは私の方なんだ。私はたぶん昔ひどい目に遭わされたせいで男性不信というか、男というだけで心が拒否反応を起こすみたいだ。だから君にも無意識に意地悪なことを言ってしまうんだと思う。私を嫌いにならないでほしい。今君を失ったら私は絶対に壊れてしまうと思うから」

ほんのさっき、捨てられるのが怖いとか、もう二度とそんな恥ずかしいことは口にしないと心に決めたはずなのに、私の誓いはそれから一時間も経たないうちに早くも破られた。

でも仕方ないじゃん! 全部本当のことなんだから! 君がいなければ私が私でいられなくなるくらい、それほどまでに君を好きになってしまったんだから!

「僕に意地悪を言ってそれで少しでも詩音さんの心が軽くなるなら、いくらでも意地悪を言ってください。昨日も言ったけど僕は絶対に詩音さんを捨てたりしません。年が五歳年上だとか、過去の男性経験とか、僕は気にしてないので、詩音さんももう口にしないでください」

「でも……」

「じゃあ、分かりやすいたとえ話をしますね。バイト仲間の莉子ちゃんは僕より五歳年下です。彼女に彼氏がいるかは知らないけど、過去にいたことがないと仮定します」

「うん」

「万が一にもありえないことだけど、莉子ちゃんと僕がつきあうことになったとします。うまくいくと思いますか?」

「思わない。君も莉子ちゃんも、誰も幸せになれないと思う」

「どうしてうまくいかないと思ったんですか?」

「だって莉子ちゃんは大智君を馬鹿にしてるから。恋人関係になることはないと思うけど、もしなったとしてもそういう気持ちがしょっちゅう言葉や行動に出て、大智君も嫌な思いをすると思うから」

「正解です。僕は決して詩音さんで妥協したわけじゃないんです。僕を馬鹿にしないで、僕のいいところに気づいてくれて、僕の恋人になってもいいと言ってくれた女性は詩音さんしかいなかったんです」

「今まではそうでも、これからそういう人が現れるかもしれないよね?」

「人間的な魅力とか、おもしろみとかいうものが、今の僕に欠けてることは自分でもよく分かっています。これから先僕がそういう魅力を持って、ほかの女の人にも愛してもらえるときが来るとするなら、それは詩音さんが恋人として僕を育ててくれたおかげだと思う。そんな詩音さんを感謝することはあっても、捨てられるわけないじゃないですか」

理路整然とはこのことだ。私にはもう言い返す言葉は何一つ残されていなかった。

「さすが先生になろうとしてる人の話は説得力があるね。大智君、きっといい先生になれると思うよ。私が保証する」

「詩音さんにそう言ってもらえると、僕もそうなれる気がしてきました」

「絶対なれるよ。私が大学中退というのは前に教えたとおりだけど、実は教育学部の学生で私も教師を目指してたんだ。私が叶えられなくなった夢、ぜひ君には叶えてほしいって心から願ってる」

「びっくりしました。詩音さんも教員志望だったんですか」

「小学校の教員になりたかった。そういえば君は何の先生になりたいんだっけ?」

「ずっと中学の国語の教員になるつもりでしたけど、高校の書道の免許も取れそうなので、試験は高校で受けることにしました」

「大智君、字がうまいもんね。正解だと思う」

「詩音さんも小学生たちに好かれそうですよね」

私の学生時代の話を続けたそうな口ぶり。でもその話を続ければ私を傷つけることになるかも、と思い直したようだ。大智君は本当に優しい。それも誰も知らない、私だけが知っている君のよさの一つだ。

「詩音さんのためにも僕は絶対試験に受かって高校教師になって、そのあとはカッコ悪くても生徒たちに信頼される教師であり続けるって約束します」

「ううん。今の大智君、すごくカッコよかった」

「うれしいです。カッコいいなんて、生まれて初めて言われました」

「おせじじゃないよ。ほんとにカッコよかったんだ……」

急に大智君の息が荒くなった。そんなつもりはなかったけど、君の性欲を刺激してしまったらしい。

「詩音さん、いいですか」

「うん」

畳の上に寝かせられて、今着たばかりのTシャツとレギンスがするすると脱がされていく。着たときそうなる予感はしてたからいいんだけどね。

さっき決めたとおり大智君にすべてを委ねることにして、私はもう何も言わず、目も閉じた。私を全裸にしたとたん、君の動きが止まった。戸惑いが伝わってくる。

膝を抱き寄せて、君を受け入れる器官を上に向けると、君はすべて理解したと言わんばかりに私に覆いかぶさり突き刺してきた。

「詩音、詩音……」

激しく君に求められながら、私は今、本当の恋をしてるんだと自覚した。これは初恋ではないけれど、本当の恋をしたのは生まれてこれが初めてだ。この夜、君と肌を重ねているあいだ、七年前の男たちのことは一度も思い出さなかった。


竜星が私の初恋の相手なら、大智君は十三番目の恋人ということになる。いや十四番目か? そんなのは嫌だ。

私にとって君は本当の恋をした初めての相手。たとえいつか君と別れる日が来るとしても、私はもうほかの男を愛することはないだろう。これが最後の恋だと思って、一日一日を大切にして全力で君を愛したい。

七年前、竜星と礼央、タイプの異なる魅力を持つ二人の男性と同時に交際できることになって、私は有頂天になった。実際はただその場の雰囲気に流されて、二人の共有物にされただけだったのに。

それ以降私の転落は一気に加速した。週末は礼央と、水曜の夜は竜星と過ごした。彼らは表向き私の意向を最大限に尊重する態度を見せた。

二人とも毎回サプライズを演出した楽しいデートをエスコートして、私の自尊心を満足させてくれた。デートの最後にセックスするにしても、それが目的だと私に気づかせるような素振りは一切見せなかった。

だから、生理の日はもちろん、私の気の乗らない日に無理に性行為を迫ってくることもなかった。とはいえ、実際は気乗りしない日などほとんどなかった。彼らとデートしてるあいだずっとそのあとのセックスを心待ちにしていた、というのが七年前、二十歳だった私の真実の姿だった。

なぜか礼央も竜星も、私とのデートの場にほかの十人の仲間を呼びつけることを好んだ。おれはこんないい女とデートすることができるんだぜって見せつけたいんだ。二人からそう言われて私はさらに舞い上がった。

おかげで、残り十人の顔も名前もいつのまにか覚えてしまった。

七月の最初の週末、私は礼央の部屋で裸になっていた。すでに一度セックスを済ませていた。

「おれの一つ後輩に、後藤陽平ってやつがいたの覚えてる?」

「茶髪でテニスがうまいっていう?」

「そう。昨日その陽平に泣きつかれてさ」

「どうして?」

「詩音のことが好きで好きでどうしようもなくなったって言ってさ。無理強いはしない。おれにとって一番かわいい後輩なんだ。詩音がよければ一度デートだけでもしてやってくれないか。見た目はチャラそうに見えるけど、父子家庭で育って、愛に飢えたかわいそうなやつなんだ」

「デートだけで済むの? もし彼が私とセックスしたいって言ったらどうするの?」

「詩音がしてもいいと思ったならすればいい。〈詩音ほどのいい女を独り占めできるほどおれはたいした男じゃない〉っていつか竜星が言っていたけど、それはおれにとっても同じことだ。おれが求めるのは詩音との心のつながりなんだ。詩音が一時的に誰と体でつながっても、おれはそれで詩音を嫌いになったりしない。最後の最後におれを選んでくれれば、それでいいんだ」


後藤陽平とは二度目のデートの最後にラブホテルに連れて行かれてセックスした。そういえばそういうホテルに入ったのは初めてだった。非日常的で不健全な刺激にあふれた楽しい経験をさせてもらった。

それから数日後、私は竜星の部屋でやはり裸になっていた。相変わらず焦らされていた。真夜中だったけど、まだその夜最初のセックスの途中だった。

「おれの二つ後輩にラモスってやつがいたの覚えてる?」

「子どもの頃、フィリピンから一家で引っ越してきたっていう?」

「そう。ラモスはひょうきんなやつだから男には人気あるけど、女にはまったく人気がない。もちろん童貞だ」

「ふうん」

竜星の二歳年下なら二十歳だろう。私と同い年。私が処女を捨てたのも二十歳になってから。彼が二十歳で童貞だとしても別におかしいことだと思わないけど。

「ラモスが何度も言ってくるんだ。〈おれはモテないけど女なら誰でもいいって思ってるわけじゃない。姫こそがおれの理想の女で、姫みたいな女に出会えないなら一生童貞のままでいいと思ってるんだ〉って」

「姫って私のこと?」

「そうさ。血が繋がってないだけでラモスはおれにとって弟そのもの。詩音もそういう目であいつを見てもらえるとうれしい」

「それは私にラモス君の初体験の相手になってほしいっていうこと?」

「礼央も含めたおれたち十二人は仲間というよりファミリーに近い。ファミリーで、しかもおれの弟分のラモスには、最高の女に童貞を捧げてほしいと思っていた。最高の女というと、おれには詩音以外思い浮かばない」

「私がラモス君とセックスしたとして竜星さんは平気なの?」

「言っただろう? おれはただの高卒のアルバイトだ。詩音ほどのレベルの高い女を独り占めできるほどの男じゃない。それにおれたち十二人はファミリーと自称してるだけあって一心同体だ。詩音がファミリーの男と寝たって、それは浮気にならない」

「ラモス君とセックスすれば私もファミリーの一員として認めてもらえる?」

「もちろん。ただ、ファミリーのメンバー間で差をつけてもらいたくはないかな」

「分かった。ファミリーの人が望むなら私は十二人の誰ともセックスしてもいいよ」

「詩音なら分かってくれると思ってた。ただラモスもそうだけど、ファミリーの中には童貞のやつが何人かいる。そいつらの相手をするときは、しばらく詩音がリードしてやる必要があるな」

「そんなこと言われてもいつもリードしてもらってばかりだから、どうしていいか分からないよ」

「じゃあこれからおれがみっちり教えてあげるよ」

竜星はそれから三時間かけて、避妊具のつけ方から騎乗位での腰の動かし方まで、必要な知識と技術を私に懇切丁寧に教えてくれた。そのあいだ、いつものように焦らされることは一度もなかった。

一番よかったのは、手と口で男性自身を勃たせる練習をするという名目で、実際に竜星のそれを好き放題に見たりいじれたりできたこと。今まで一方的に私の敏感な部分を見られ触られ舐められ挿れられるばかりで、私の方は竜星のその部分を二、三度目にしたことがあるだけで、手で触ったことが一度もなかったからだ。

それから数日後、私はラモスとセックスした。デート中、ラモスは私を姫と呼び、下僕のように私に奉仕した。でもわざとらしいというか、なんとなく心の中では私を馬鹿にしてるんじゃないかと思われて不快だった。

そのあとのセックスも童貞だから仕方ないと言われたらそれまでだけど、私への気遣いがまったく感じられなかった。私の同意を得ないで勝手に私の性器の中に指を入れようとしたり、二度目のとき避妊具をはめていると〈つけなきゃダメ?〉と聞いてきたり。

私は正直に、もうラモスとはしたくないと竜星に説明した。竜星も分かってくれて、嫌な思いさせて済まなかったと謝られた。

でも嫌な思いをしたのはそれだけで、結局私は七月末までに、ファミリーのメンバー十二人全員とのセックスを済ませていたのだった――

地味だけど、清楚でもない

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