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百日草の同期

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百日草の同期

27 - Case3-07 完全ギブアップ

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2024年12月19日

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「むさ苦しすぎるだろ。誰が楽しくて、男四人でサウナなんて入ってんだよ」

「あつぅ~ミオミオもう、でよう?」



ぐでぇと、敷かれた厚いタオルの上で倒れている颯佐を見つつ、俺は動く気力も口を動かす気力もなく、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。何というか、出たい。と言ったら負けな気がしてどうも、それを口に出来なかった。

隣の神津と、颯佐の隣の高嶺と言えば汗はかいているもののまだ余裕といった感じで、涼しげなかおをしていた。

高嶺の提案で捌剣市の温泉に行くことになったのだが、高嶺がサウナで我慢比べをしようなどいったため、売り言葉に買い言葉、売られた喧嘩は買うしかないと思い勢いのまま勝ってしまった結果がこれだ。

正直、熱いのは苦手だった。寒いのはさらに苦手だが。



「あ~あちぃ」

「およおよ~? 明智、ギブアップか?」

「ッチ……まだいける」

「春ちゃん無理しちゃダメだよ」



高嶺の言葉に煽られて、俺は勝負の続行を示すが、高嶺の膝の上で唸っている颯佐を見ているとああなりたくないし、と言うか颯佐を外に出した方がいいのではないかと思ってしまった。それでも、俺から言い出したら負けな気がして、口に出来ない。

颯佐は高嶺の腰に巻かれているタオルを握りしめながら、顔を真っ赤にして母音ばかりの言葉を口にしている。



(つか……マジで、目に毒)



暑さで回らない頭でちらりと神津を見てみれば、その体つきの良さにキュンと身体が締るような思いになる。

顔は、イケメンだがまだ儚さが残る美人寄りの作りをしている神津だが、腹筋は割れているし、筋肉もついているしで、あの体力運動神経お化けの高嶺と比べても大差ないぐらいの体つきをしていた。ピアノを弾いていただけだよなと、疑いたくなるほど男らしい体つきを見て、俺は思わず見惚れてしまう。

そんな男に一度抱かれたのかと思うと、やはり身体がいい意味で震えてしまうのだ。あの時は、必死で身体なんてじっくり見る余裕はなかったが(今も尚、直視は出来ないが)、こうして見てみると、矢っ張り格好いいなと思う。

そして、いつもはたらりと垂れ下げている三つ編みを団子にし、前髪を掻き上げる様子が兎に角裸体は艶めかしく、目に毒だったのだ。

すると、俺が見ていることに気づいたのか、神津はこちらを向いて首を傾げた。

俺は慌てて視線を逸らすと、神津はクスリと笑った。



「んだよ。笑って」

「え~春ちゃんが、僕に熱い視線を送ってたから」

「自惚れんなよ」

「ふふ。冗談だってばぁ。そんな怖いかおしないでよ」



そう言って、俺の頭を撫でてくる神津の手はじっとりと濡れていて、熱かった。

サウナに入っているしなあ、と思いつつ汗だくな俺の髪をそんな綺麗な手で撫でなくてもいいと、俺は彼の手を払った。



「ねぇ、春ちゃん」

「あ?」

「春ちゃんも熱かったら、そら君みたいに倒れてきてもいいんだよ? 何なら、膝の上に頭乗せても、僕怒らないし、寧ろ大歓迎」



と、にんまりと神津は笑う。


俺は、神津の言葉を聞いた後、隣で伸びている颯佐を見てから、もう一度神津の方に視線を戻した。

さすがにあそこまで大胆にくっつけない。

高嶺と颯佐はただの親友同士であって、ああいうことが平気で出来るのかも知れないが、俺と神津は恋人同士で、そんな恋人同士がするような膝枕など恥ずかしくて出来ない。俺の羞恥心が爆発する。

それでも、神津から誘ってくれた……というか、いいよ? といってくれたこともあって、このまま流されてしまえば、少しは距離を縮められるのではないかと思い、俺は固唾をのんだ。暑さのせいで、正常な判断が出来ていないのだろう。



「かん、考え、ておく……まだ、大丈夫だし。ダメになったら……その時は、よろしく、するかも」



そう言えば、神津は嬉しそうなかおをして、俺に抱きついてきた。



「ちょ! お前、熱い!」

「だって、春ちゃんが可愛いこと言うんだもん。逆に春ちゃんが僕に膝枕してくれたっていいんだよ! してえ!」



と、駄々を捏ねる子供のようにぎゅうっと抱きしめて来る。


暑いし熱いし苦しいし、でもどこか心地よく感じるのは、きっと相手が神津だからだ。こんな風に甘えて来て、俺の事大好きで、格好いい俺の恋人で……



「おい、あちいよ! いちゃつくなら、他でやってくれ。さすがに、その熱は耐えられねえ」



と、空気を読まない高嶺が叫んだ。


颯佐はその間もうぅーん、うぅう……と唸っていたし、そろそろ出た方がいいんじゃないかと思った。俺も、限界に近いし。



「みお君、そろそろ出ない? そら君、のび切っちゃってるから、水飲ませてあげないと、不味いって」



神津が、高嶺にいってくれたおかげで、高嶺は改めて自分の膝の上で唸っている颯佐に視線を落とし、汗でべったりな髪をかくと、「しゃーねーな」と立ち上がった。ゴトン……と勢いよく立ち上がったため、颯佐の頭は座っていたところに直撃し、さらに目を回していた。そんな颯佐を「根性ねえな」と言いつつ、高嶺は介抱しサウナ室を出て行く。



「春ちゃん、僕達も出よう?」



先に立ち上がった神津が俺に手を差し伸べてくれ、俺はそれを掴むと立ち上がろうとしたが、足下がふらつき、そのまま神津の胸に飛び込む形で倒れ込んだ。



「はる、春ちゃん。大丈夫?」

「お、おう。悪いな……ちょっと、目眩……が」

「春ちゃん!?」



神津のたくましい胸に顔を埋めながら、俺はゆっくりと深呼吸をしようとしたが、上手く吸えず、暑さで限界がきて、目を回しながら、意識を飛ばした。




「――……るちゃん、春ちゃん」

「……んん」



名前を呼ばれたような気がして、ゆっくりと目を開ければ、俺の顔をのぞき込み、少し青ざめたような表情の神津がいた。ぼんやりと膜が張っていたような視界がクリアになっていく頃には、頭の中もスッキリとして、先ほどサウナでのぼせたことを思い出した。

「神津……ッ!」

「つう~~!」



ゴツン。

勢いよく身体を起こしたせいで、神津の額と自分の額が酷い音を立てその瞬間頭に激痛が走った。

あまりの痛みに俺は頭を押さえて悶絶していると、神津は涙目になりながらもクスクスと笑った。



「その様子なら大丈夫そうだね」

「お、おう……」



額を赤くしながら言われてもという感じだったが、神津も怒っていないようだしいいかと流し、俺は改めて彼の膝の上から身体を起こした。神津は名残惜しそうに、俺が離れていくのを見ていたが、とくに何かを言うわけでもなく「よかった」とだけ呟いて俺を見つめていた。

しかし、全く恥ずかしいもので高嶺との勝負に負けたくないがあまり、限界までサウナにいたせいで気を失って神津に倒れかかるとか二三になったと言うのにどうしようもないと、自分でも思う。

そんなことを思いながら辺りを見渡してみれば、そこは脱衣所で、神津によって着せられたのか服も元通りになっていた。髪の毛は若干濡れているような気がしたが、さすがに気を失った人間の髪を乾かすなど普通は考えられないだろう。だが、よく救急車や医務室に運ばれなかったものだと思う。



「みお君がね、寝かせておけば治る!とかいったから。僕は、すぐに救急車呼ぼうとしたんだけどね。そら君もダウンしてたし、二人揃って救急車とかいやかなあって思って」

「それで、俺が死んだらどうするんだよ」



意地悪に聞けば、神津は困ったような表情を浮べた。

さすがに言い過ぎたかと、訂正しようとすれば「後追いする」と真面目に言ってきたため、思わず神津の胸倉を掴んでしまった。



「冗談でもそういうこと言うな」

「分かってるって、でも、冗談じゃないよ」



神津はフッと笑うと、俺の手首をそっと掴んで下ろさせた。



「春ちゃんがいない世界なんて耐えられないよ。だから、春ちゃん、僕が後追いして欲しくなかったら死なないで」

懇願するように言う神津を見て言葉が出てこなかった。

「……勝手に殺すな。俺はそんなに柔じゃない」



ようやく絞り出した声は掠れていて、震えてもいた。

神津は俺の言葉を聞くと嬉しそうな笑顔を浮かべたが、その笑顔はどこか寂しげで、まるでもうすぐ死ぬんじゃないかと言わんばかりの表情だった。

俺は、それが怖くて仕方がなかった。



(俺よりも、お前の方が死んじまいそうじゃねえか)



そんな不安を抱えつつ、俺は神津の頬に手を伸ばして触れた。

神津はその手を握りしめると、自分の頬に当ててすり寄ってくる。

俺の手の感触を確かめるように、そして存在を確認するかのように何度も撫でてきた。それはくすぐったいものだったが、心地の良い感覚でもあった。

この手がなくなる日が来るかもしれない。

そう思っただけで、胸が締め付けられる。

そんな恐怖心を抱きつつ、神津を見れば彼は穏やかな微笑みを浮かべていた。その瞳は優しく、愛おしそうに俺を見つめてくるものだから、俺は、安心感を抱き目を伏せる。



(考えすぎだ……そんなことあるわけねえのに)



絶対と言い切れないのが悔しいところだが、神津はもう俺の前からいなくならないだろうと考えている。

けれど、嫌な胸騒ぎはするし、夢に出てきそうだった。考えない方がいいと思っても、もしもの可能性を考えては沈んでしまう。



「そういや、高嶺達は?」

「うーん、そら君の方が早く目覚めたからアイス買いにいってくるって二人で行っちゃったよ」

「そうか」



彼奴らの仲の良さは本当に見習いたい。颯佐も良く体調が戻ったなと驚きつつ、まあ、いつものことだと俺は苦笑いした。

彼奴ららしい。



「僕達もいく?」

「お?おう、そうだな」

「あ、えっと……体調の方はもう大丈夫?」

「お前、順番逆だろ。大丈夫だ。つか、喉渇いたし、何かのみにいこうぜ。さすがに、アイスは食える気がしない」



神津は嬉しそうに笑うと、立ち上がって俺の腕を引いてくる。

それにつられるようにして立ち上がりながら、「待ってくれ」と言って神津を呼び止めた。



「どうしたの?」



不思議そうに首を傾げる神津に、俺は手を差し出す。

すると、神津は意味を理解したのか照れた様子で笑っていた。

そして、差し出された手に指を絡めて握れば、俺より少しだけ大きな手で包まれる。



「素直だね、春ちゃん」

「ちげえし、まだ足下がフラつからだ」

「そういうことにしておくね」



と、神津はそれ以上突っ込まなかった。


ただ凄く嬉しそうで、その顔を見ていると恥ずかしくなったため俺は無意識に顔を逸らした。悪くねえなと思っている自分がいたのは確かで、神津の笑顔をそう締めしている優越感にも浸っていた。

勿論、足下がふらつくなど言い訳だ。だが、そうでもしないと神津と手を繋ぐ理由がなかった。



(少しでも、歩み寄らなきゃ……いけねえよな)



取り敢えず、十年が埋まらずとも倦怠期は抜けたいと切実に思う。



「そうだ、春ちゃん何飲む?矢っ張り、お風呂上がりは牛乳?」

「腹痛くなるからのまねえ、フルーツ牛乳がいい」

「それも結局牛乳じゃん」



そう神津は笑って、俺の手を引いて歩き出した。

まだ、完全に乾いていない髪が寒くて仕方ないのに、繋がれている手は温かくて俺はその温もりに全てを委ねていた。

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