“〇〇様おはようございます”
『おはよう』
“朝食の準備ができています”
『すぐ行くわ』
お父さんが大手財閥の社長であるお嬢様の私は、いつもこの大きな家で数人のメイドたちとつまらない朝を迎える。
『行ってきます』
“行ってらっしゃいませ”
細長い高級車に乗って登校する。今日からは3年生だ。あと1年通えば卒業になる。
私の行く学校はお金持ちの人が通う私立ではあるが少しランクが低い。だけど親の反対を押し切りこの高校を受験したのだ。
その理由は、音楽の分野で推薦を貰うため。もうひとつは忘れられない人がいるから。名前も知らない人。
“あれ〇〇様よ”
“あの有名財閥の娘じゃん”
学校に入ると周りがざわつく、いつもの事だ。だって私はここに来るような身分ではないから。下級生からも噂されるのは少しびっくりだけど。
私のクラスはどこかな、
“私〇〇様と同じクラスよ”
“何組?”
“A組!”
“やったー”
どうやら私は3年A組らしい。2年も経てばもうすっかり有名人だ。
教室へ入ればまたざわつく、正直嬉しくない。いろんな人が挨拶をしてくる、きっと私の名前目当てなんだ。小さい頃からずっとそう。
だけど私は小さく微笑みながらご機嫌よう、と軽く手を振り言葉を交わす。
友達なんていえる人はひとりもいない。
それから長い校長の話を聞いて、今日は下校となった。
次の日は早速授業が始まった。勉強は家庭教師に教えてもらったため、ほとんど予習済みだ。だから先生の話は流していても問題ない。
休み時間はいつもカフェテリアで軽く昼食を済ませ、その後は音楽室でピアノを弾いている。
誰もいない広い部屋で流れる音はとても気持ちが良い。
すると、ガラガラと扉が開いた。驚いたが正体がすぐわかり安心した。
『京本くん、だっけ?』
「うんっ」
そう言って笑う彼はとても可愛らしかった。京本くんとは今年初めて同じクラスになり、話したことはほとんどない。
『何か用があるの?先生なら今はいないよ』
「違うよ、〇〇さんのピアノ聞きに来た」
そういえば、昨日の自己紹介で音楽が好きと言っていたような気がする。
「いつも聞いてたんだけどね、」
『そうなんだ』
こんな演奏を聞いてくれる人がいたなんて、全く気づかなかった。
『よければ弾かない?』
「いいの?」
『もちろん!』
彼はさっきとは違う真剣な顔をして、鍵盤に指を置いた。
『ぇ、』
弾いたのは幼い頃ピアノのコンクールで聞いた曲、白くて細い手で滑らせるようにピアノを奏でるあの男の子。
その容姿はその男の子と一緒だ、私の惚れた人。
「思い出した?」
そう言って微笑む彼は、きっとそうなんだ。
「僕たち小さい時に出会ってたんだよ?」
すごく嬉しかった、覚えててくれてた事が。
『嬉しい』
そう素直な想いを伝えると僕も、と言った。
『私、ずっと好きでした。』
「僕と付き合ってくれませんか?」
『はいっ!』
それから抱きしめられた。
私の初恋の人は運命の相手でした。
~fin~
コメント
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めっちゃめっちゃいいなぁ🤤なんか、素敵すぎん!
はぁすてき、
ぅぇ、なにこれ。しあわせすぎん?? 奇跡は待ってたんだ…。