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朝ごはんのトレーがカタリと置かれても、涼ちゃんはまだベッドの中で目を閉じたままだった。
看護師さんがそっとやってきて、もう一度酸素濃度を測る。
数字は、さっきよりさらに低くなっていた。
「ちょっとごめんね。お鼻にカニューレをつけようね」
そう優しく声をかけながらも、
看護師さんはていねいに鼻にチューブを通そうとする。
けれど、鼻カニューレはやっぱりちょっと痛くて、違和感もあって――
涼ちゃんは小さく首をふったり、手でチューブを避けたりしてしまう。
「だいじょうぶ、がまんしよう」
𓏸𓏸がそっとベッド脇に座って、涼ちゃんの肩を押さえる。
小さな手でしっかり涼ちゃんを支え、動かないようにしてあげると、
看護師さんが慎重に鼻にカニューレをつけ終えた。
しばらくして、涼ちゃんの目からぽろぽろと涙がこぼれてきた。
𓏸𓏸は、それに気づいて、やさしく指で涙をぬぐう。
「もう大丈夫、がんばったね」とささやいて、
ふたたび涼ちゃんの体にふわりと毛布をかけてあげた。
病室には、静かであたたかな朝の光が差し込んでいた。
鼻カニューレを付けてもらった後も、涼ちゃんはやっぱり違和感が気になるのか、
そっと指でチューブを触ったり、取ろうとしたりしてしまう。
そんな様子を見て、𓏸𓏸は静かに涼ちゃんの手を取ると、
やさしく自分の膝の上にそっと手を下ろしてあげた。
「ダメだよ、がんばろうね」と、ささやく𓏸𓏸。
その声は小さくてあたたかい。
涼ちゃんは少し戸惑いながらも、𓏸𓏸の手のぬくもりに安心したのか、
しばらくそのまま手を動かさずに、静かにしていた。
カニューレは苦手だけれど、𓏸𓏸が隣にいて、
そっと手を握ってくれるだけで、涼ちゃんはほんの少し気持ちが楽になった。
病室には、ふたりの穏やかな時間がゆっくりと流れていた。