テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
1件
久しぶりに勇気をふりしぼって、涼ちゃんは手芸教室に足を運んだ。
でも、教室に入るといつもの明るい声や笑顔がふいに静まりかえる。
机に向かって手を動かそうとしたその時、
袖から見えたリスカの跡に、生徒たちがすぐに気づいた。
一瞬、空気が重たくなった。
けれど、みんなは気づかないふりをせず、
それぞれにやさしい言葉をかけてくれた。
「涼ちゃん、来てくれてうれしいよ。」
「また一緒に作ろうね。無理しなくていいから――」
だけど、涼ちゃんは何も答えない。
俯いたまま、黙って席についたままだった。
みんなは、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
無理に元気づける言葉も、今の涼ちゃんには届かないのかもしれない。
「……今は、そっとしてあげるしかないね」
そう思い、みんなはそっと距離を置いて、
涼ちゃんにいま一番必要な「静けさ」と「時間」を贈ることにした。
それぞれのデスクへと戻り、そっと見守るだけで、
教室の空気は少しやさしく揺れていた。