コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
街を素足で歩く二人は、注目を浴びていた。
「なんかすげー見られるな」
「私たちがこんなボロボロな格好で、素足で歩いてるのにみんな驚いてるのよ。普通は孤児だと思われる。警察って人に見つかったら、また施設に戻されるわ」
「え、じゃあどうすればいいんだよ! 隠れるのか!? でも海が見たいんだよな〜!」
「どちらにせよ、街で深夜に出歩いてたらそれこそ補導ってものをされるの。隠れ場所、と言うのも正しいけど、私たちの住める場所を探さないと」
そう言って、愛が前進し、楽もそれに続いた。
街を歩く中で、悪霊はボソッと呟く。
「人の世も変わったな。昔は街中にも浮遊霊がうじゃうじゃ居ったのに、まるで姿がない。じゃから妾の神社に集まる者が増えるのじゃ」
「あー、そういや霊魂いねぇーなぁ。すげえ綺麗。視界良好って感じだ。人も全然死んでねぇのか?」
「いや、人自体は死んでおる。不死なんて人間は居らんからな。でも、霊魂が人類にハッキリ見えるようになってからは、葬式後直ぐにしっかり成仏されるようになったのじゃ」
「そういや、俺たちを飼ってた奴らも、人を逃すな、霊魂も必ず全員祓うようにって厳しく言われてたな」
暫くすると、愛は立ち止まる。
人気のない道を暫く歩き、辺り一面はコンクリートが広がる、ボロボロの廃工場が聳え立っていた。
「ここなら見つからないと思うわ」
「こんな何もねぇとこ、つまんねぇーよ! 施設と何も飼わんねぇじゃねぇーか!」
「いいじゃない、別に。ここで夜を過ごすだけ、昼間は自由に行動できるんだから」
渋々と、楽は愛に続き、廃工場へと入っていく。
「つーか、なんでここなら見つからないって断言できるんだよ。いつ人が来るかなんて分かんねぇだろ?」
「だって、過去の映像を見ればここ数年間、誰も立ち入ってないことくらい分かるじゃない」
「は? 見る? 過去の映像? なんだそれ……」
「え、楽には見えないの? 霊魂が見えてるなら過去の映像も見えてるのかと思ってた……」
「ふむ、もしかすると、その力が愛の異能なのかも知れんな。愛だけに『アイ』という異能名にしよう」
「ちょっと、ふざけないでよ。でもそっか、じゃあこの過去の映像が見れることが私の異能なんだ……」
そう言うと、訝しげに地下を見遣った。
「じゃあ、楽には、この下で泣いてる人の過去の記憶も見れてないんだね……」
「地下にいる霊魂か? 泣いてるのは感じるけど、記憶までは別に見えてねぇよ」
この廃工場には地下があり、霊魂が泣いている姿を二人はしっかりと捉えていた。
「この人……数十年もずっと泣いてる……。成仏させてあげる?」
「はぁ? なんのメリットがあるんだ? 放っとけよ」
「楽も落ち着かなくない? ずっと泣かれてるんだよ、私たちが寝てる間も」
暫く考えた後、地下への通路を探し、二人は地下へ降りた。
ずっと泣いていた霊魂は、二人の姿を確認するなり、涙が止まり、怒りの膨れ上がる顔付きへと変わる。
「なんだ、コイツ怒ってんのか……!?」
「生前が酷い死に方をしている人なの。きっと、人のことが憎くて仕方ないのよ。早く祓ってあげましょ」
愛がフラフラ近付くと、霊魂は紫色のオーラを発し、風圧で愛のことを吹き飛ばしてしまった。
「童ら! 此奴は悪霊じゃ! 悪霊は憎しみが大きければ大きいほど強い!! 祓う前に童らが殺されるぞ!!」
突如として悪霊は声を荒げた。
「何よ……こんな霊魂見たことない……」
擦り傷に手を当て、愛は苦い顔を浮かべる。
「ハハっ、俺たちゃ、ずっと祓う仕事をしてたけど、やっぱり外の世界は知らないことが多いな! 面白ぇ! 俺たちは確かに、殺した瞬間の霊魂しか祓って来たことないから、時間が経って悪霊になってる奴なんて初めてだ!」
そう言うと、笑いながら楽は駆け出した。
「ガアア!!」
悪霊は、無数にも生えた長い腕を楽に向ける。
楽は持ち前の身体能力でスルリと交わす。
「すげぇ……楽しいぜ!! 流石外の世界!! この刺激を待ってたんだ俺ァ!! ギャハハハハハ!!」
しかし、最高潮に上がったテンションのまま、口から飛び出た長い舌に叩き落とされてしまう。
「痛ってぇ〜……マジで化け物みたいに強ぇじゃん……」
「だから言ったじゃろ。此奴に関わるのはやめておけ」
しかし、楽はまだ笑っていた。
「アハハ、こんな面白ぇ奴に会ったのによぉ、見逃してやるわけねぇーだろ!!」
そう言うと、今度は駆け足で腕を交わしながら懐に潜り込み、紫色に溢れ漏れているオーラを掴む。
「楽! それはやめろ!!」
しかし、悪霊の声も遅く、楽はその大量のオーラをそのまま身体に憑依させた。
霊魂の姿は消滅し、辺りは一瞬にして静寂が訪れる。
「なん……だ……?」
すると、楽の身体は突如として、ボコボコと内臓がどこからともなく膨れ始め
「オエッ……オエェッ……!」
嘔吐し、涙も止まらず、悲痛な声と共に暴れる。
そして、楽の身体からは、何人もの霊魂が次から次へと数え切れないほど飛び抜けてきた。
見たこともない光景、あまりの恐怖に、愛は隅で震えることしか出来なかった。
「うわっ、なんだこの量は……!!」
「中に人がいるかを優先しろ!!」
暫くすると、どこからともなく、数名もの足音がバタバタと鳴り響いた。
「下に子供がいます! うわっ……奥に……得体の知れない少年が……霊を放出し続けてます……!!」
「なんてことだ……。全員、配置に付け!!」
「ハッ!!」
青髪で短髪の男性は、愛を守るように背を向け、大きな銃口を楽へと向けた。
「撃っちゃ……ダメ……」
震えながらも、愛からなんとか出た言葉だった。
その声に、男は振り返る。
「大丈夫だ。彼も助ける」
そう言うと、隊長らしき大柄な男に合図を送る。
「準備完了! 開始します!」
「放て!!」
ドォン!!
大きな銃口からは、エネルギー体の透明な弾丸が飛び出し、楽の頭に命中した。
次第に、楽からは未だ霊が放出され続けているが、楽は苦しみから解き放たれたかのように気絶していた。
「神崎!」
「はーいよ!」
すると、男の背にいた神崎と呼ばれた女性は、姿を透明化させると、楽の身体をギュッと抑え込んだ。
「シスター、祈りを」
最後に、全員から守られるように姿を現した女性は、ただ一人防具を身に付けておらず、真っ白な装束に身を包み、両手を胸の前に掲げる。
「未だこの地に囚われている魂よ。その身を委ね、汝の道を示しなさい……」
そして、その言葉に合わせ、隊長らしき男は、ゆっくりと歩み出し、楽の眼前で仁王立ちをする。
「祓魔院より見届けます。汝、苦しみからの……」
男は、静かに、楽の体内へと腕を貫通させる。
「解放」
その瞬間、一瞬パッと明るくなると、楽から霊は放出されなくなり、そのままパタリと倒れた。
それを見た安堵からか、愛もそのまま気を失った。