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楽が目を開けると、その部屋には高い天井が広がっていた。
畳の上の綺麗な布団の上に寝かされている。
「んだ……ここ……」
「ヨダレを垂らしてるなんて、どこまでも緊張感がないようね。楽」
少し前に目を覚ました様子の愛は、体育座りになって楽のことを見遣っていた。
「なんだお前、てか何があったんだっけ……。確か俺、あの化け物を取り込もうとした気がするんだよな……」
「分からない……楽がいきなり嘔吐して、発狂し出したかと思ったら、大量の霊を身体中から放出し始めたの。多分ここに居る人たちに助けられたんだと思う。私も途中で気を失ったから、その後は分からない……」
すると、楽はバッと起き上がる。
「オイ、悪霊! てめぇ、俺の身体ン中住まわせてやってんだから、あーいうときは助けろよ!」
しかし、悪霊からの反応は見られなかった。
「あれ、中にいるのは感じるんだけどな……。コイツも寝てんのかな……?」
すると、二人の襖はスルッと開けられる。
「よう、騒がしいと思ったら起きたみたいだな。いきなり騒ぎ始めるとか、すっげえ元気なんだな!」
楽を助けた張本人、隊長らしき男性は、爽やかに笑って楽たちの部屋に入って来た。
「あ? なんだお前」
「なんだお前って……口悪いな……。君たちを助けた異能祓魔院の者だ。副隊長、睦月飛車角だ。お前たちはなんて言うんだ?」
「俺は楽、こっちは愛」
「楽に愛か! よろしくな!」
すると、後ろから「なんの話してるんですか?」と、ヒョコッと金髪の女性が現れた。
「あ、白装束だった人……」
愛も印象に強く残っていたらしいが、白装束を着ていない彼女は、またどこか違った雰囲気に見えた。
「こんにちは、私はこの寺院のシスターです!」
「シスター? ってなんだ?」
「シスターと言うのは、俺たち祓魔師が霊魂を祓う際にご祈祷を捧げてくれる人のことだ。シスターの祈りで、霊魂は極楽浄土に行けるとされている」
「ハッ、んなモン御伽話の話だぜ。実際、俺と愛はご祈祷ってのがなくても霊魂を祓って来たしな」
「確かに祓うだけなら誰にでも出来ないことはない。でもね、ご祈祷があるのとないのとでは、彼らの行く先が大きく変わると言っても過言ではない。君たちも祓い人なんだね。そしたら一度、シスターのご祈祷の下で祓ってみるといい。きっと、違いに気付けるはずだ」
そんなところで、遠くから声が聞こえる。
「隊長ー! ご飯できますけどー!」
「おっ、夕飯の時間だ。お前たちの分も作ったぞ。昨日からぶっ通しで寝ていたみたいだし、お腹も空いてることだろう。しっかり食べて、今夜もゆっくり休むといい」
そうして、大きな和式の部屋に、長いテーブル、六人分の食事が並べられていた。
一人、正座にて待機していた青髪の男は、楽たちに気付くと、立ち上がり敬礼をして挨拶をした。
「隊長、お疲れ様です! 君たちも、よく休めたようで何よりだ。俺はこの異能祓魔院所属、逸見桂馬と言う。よろしく頼む」
すると、奥から追加の料理を持って女性も現れた。
「おやっ、起きたみたいだね! 私は神崎杏! 一応、清掃とか家事のアルバイトでここ来たのに、部隊に入れられてるのー!」
「アハハ、人手不足なんだ。その話は勘弁してくれ、ちゃんと学校に通う時間も作りながら、社員分の80%の給料を支払ってるからいいじゃないか」
そう言いながら、睦月と笑っていた。
神崎は、学生で明るい女性だった。
暫くして、全員揃って食事が始まる。
楽は、生まれて初めて「頂きます」と言った。
これも、楽が感じる初めての感覚。
施設に移されてから温かい食事は食べさせて貰っていたが、初めて「温かい」と思った。
楽も愛も、黙って食事に夢中になっていた。
「で、さっきから気になってたんだけど、お前たちの『いのうふつまいん?』ってのは、なんなんだ?」
食事も中盤、楽は食事を囲う皆々に尋ねた。
「あ? お前達ってなんだ、ガキ!」
「神崎、落ち着け。口が悪いのは、どうやらこの子のデフォらしい」
怒る神崎を苦笑いで仲裁する睦月。
「異能祓魔院と言うのは、国から特別に異能行使を許されている機関の一つ。霊魂を祓う祓魔師の中でも、特にお前たちが出会したような強力な悪霊を、異能の力で一つの隊として祓う組織の事だ」
「じゃあ、異能を使った祓い人ってことか」
「簡単に言えばそうだな。ところで、お前たちはどうしてあんなところに居て、何があってあんな悪霊に憑かれていたんだ?」
「いやいや、隊長……アレは憑かれるレベルじゃないですって! あんなの見たことないですもん! 隊長の異能じゃなかったら、楽くん死んでましたよ!」
今度は、あの状況の究明に、楽の話に移る。
「あー、つい最近知ったんだけど、俺の異能は『自分の身体に憑依させて、その力を操れる』らしい。だから、あの強そうな悪霊を憑依させようと思ったんだけど、なんでか思い通りに行かなかったんだよな……」
「え!? じゃあアンタ、自分から取り込んだの!?」
「そうだけど」
「馬鹿でしょ!! いや、異能力も驚きだけど、あんなの憑依させようとするとか馬鹿だよ!!」
「あんなところに地下があることも、あんな悪霊が眠っていることも驚きだったからなぁ……」
「いや、本当にコイツ馬鹿だって!!」
「うん、私もそう思う」
静かに同意する愛。
「それじゃあ、明日も仕事があるから少し見学して行ってみないか? ご祈祷の素晴らしさも分かる!」
「とか言ってー、私と逸見さんがいないから人員が欲しいだけなんじゃないですかー?」
「そ、そんなことはない! こんな子供たちに戦わせたりなんかしない! ちゃんと見学させるよ! それに、明日の案件は然程強いとも聞いていないしな」
前例である自分を踏まえてツッコむ神崎、それに対し、睦月は露骨に苦笑いを浮かべていた。
「それじゃあ明日、よろしく頼むよ」
夕食後、二人は周辺地図と多少のお小遣いを貰い、少し散歩することになった。
鳥居からでた瞬間、
「ぶはぁ〜!!」
悪霊は思い切り息を溢した。
「おわっ、なんだ、起きてたのか?」
「起きてたわ! この寺院には神が祀られておる。妾の力も強いからな、楽の中にいることもあって見つかり辛いのじゃが、こうして息を止めてねばならなかったのじゃ! それも知らず、主らはゆったりとくつろぎおって……」
「いや、んなもん知ったこっちゃねーよ。それで、なんであの時助けてくんなかったんだよ。身体ん中、居させてやんねぇぞ」
「違うわ! あの悪霊は、既にあの地に踏み入った者を何人も殺しておる。そして、それらの魂、きっとあの量なら付近の浮遊霊共も喰っておったのじゃろう。既に妾を憑依してる楽が、大量の霊を憑依させようとしたら、元々中に入ってる妾から干渉することは出来ないんじゃ!」
「そうだったのか……。なんか、俺は本当に知らないことばっかだなー」
そう言いながら、限られたお小遣いを早々に自動販売機に入れ、缶コーヒーを買う。
「これ、仕事命令してたおっさんがよく飲んでたんだよ。高級な物だと思ってたけど、クソ安いんだな。つーか苦ぇし飲めたもんじゃねぇ」
そう言うと、えへへ、と再び口に入れた。
「そういや悪霊さー、俺も適当に悪霊って呼んじゃってるけど、他の悪霊と区別つかねぇから、お前こそ名前付けるべきじゃねぇ? 前の神だった名前とか」
「神だった名は使いたくない。楽が考えろ。楽の名前も妾たちで考えてやったじゃろ」
自分で考えたんだけど……と思いつつも、苦いコーヒーを口に運びながら唸る楽。
「じゃあ、悪魔! 神を名乗んのが嫌なんだったら、悪霊みたいだし悪魔って呼ぶ! かっこいいしな!」
「悪魔か……ふん、好きにするといい」
その後、コンビニに立ち寄り、再び寺院へと戻った。