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第四話「なんか違う」
——なんか、おかしい。
最初にそう思ったのは、いつだったっけ。
朝、目が覚めて。
いつも通り「佳ー!」って起こして。
いつも通り文句言われて。
いつも通り一緒にご飯食べて。
——全部、同じはずなのに。
「……佳」
「ん?」
目の前で味噌汁を飲む、高橋佳。
顔色、少し悪い気がする。
「今日も元気ない?」
「寝不足」
「最近ずっとじゃん」
「気のせいだって」
「ほんとに?」
「ほんと」
即答。
その速さが、逆に引っかかる。
(……なんか、隠してる?)
一瞬そう思って。
でも——
「まぁいいや」
自分で流す。
(言いたくないなら、いいか)
昔からそうだ。
佳は、全部話すタイプじゃない。
でも——
(こんな、隠し方してたっけ)
⸻
学校。
「佳くーん!」
またあの子。
明るくて、距離が近い女子。
「おはよー!」
「……おはよ」
普通に返してる。
普通に笑ってる。
昨日みたいに、楽しそうに。
(……ふーん)
ちょっとだけ、胸がムッとする。
机に突っ伏しながら、横目で見る。
(あんな顔、私にはしてない気がするんだけど)
いや、してる。してるはず。
してる……よね?
「……なにそれ」
自分で自分にツッコむ。
(別に、彼女でもないのに)
なのに。
(なんでこんな、気になるの)
⸻
休み時間。
「美憂」
「……なに」
声をかけられても、顔は上げない。
さっきのこと、ちょっとだけ引きずってる。
「機嫌悪いだろ」
「悪くない」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」
少しだけ沈黙。
「……さっきの子と仲いいんだね」
気づいたら、口から出ていた。
(あ、やば)
言うつもりなかったのに。
「普通だって」
「ふーん」
それ以上聞けない。
聞いたら、なんか負けな気がして。
(……バカみたい)
⸻
でも。
そのあと。
「今日、帰り一緒帰るだろ」
そう言われて。
「……帰る」
って、普通に答えちゃう自分がいる。
(ちょろ……)
自分でも思う。
でも——
嬉しかった。
⸻
放課後。
二人で帰る道。
少しだけ、近い距離。
「さっきの子と、仲いいの?」
結局、また聞いてしまう。
「クラスメイト」
「……それだけ?」
「それだけ」
「……ほんとに?」
「ほんとだって」
少しだけ、真面目な声。
「お前が思ってるような関係じゃねぇよ」
その一言で。
「……そっか」
安心してしまう。
(なにこれ)
(ほんとにバカみたい)
でも。
それでもいいって思った。
⸻
家。
料理をしながら、ふと思う。
(今日の佳、やっぱちょっと変)
笑ってる。普通に話してる。
でも——
(なんか、無理してる感じ)
時々、ぼーっとしてるし。
呼んでも一瞬反応遅いし。
「佳、ぼーっとしすぎ」
「ん?」
「ほら」
「悪い」
いつもより素直。
それも、ちょっと違和感。
(……なんだろ)
(優しい、っていうか)
(距離が近いっていうか)
嬉しいはずなのに。
なぜか、引っかかる。
⸻
ご飯の時間。
「うまっ」
「でしょ」
嬉しそうに食べる佳。
その顔を見て。
(……まぁいいか)
って思ってしまう。
(こんな顔してるなら)
(元気ないとか、気のせいでいいや)
⸻
お風呂のあと。
部屋に戻って、ベッドに倒れ込む。
「……はぁ」
天井を見つめる。
今日一日を思い出す。
笑ってた顔。
ちょっと遠い目。
優しい言い方。
(やっぱ、なんか違う)
でも——
「……でも」
スマホを開く。
プリクラの画像。
二人で笑ってるやつ。
それを見て、少しだけ笑う。
「楽しかったしなぁ」
ぽつりと呟く。
(佳、ちょっと元気ないだけだよね)
(最近疲れてるだけ)
(……そういうことにしよ)
そう思ったほうが、楽だから。
⸻
「……佳」
小さく名前を呼ぶ。
聞こえるはずもないのに。
「……無理、してないよね」
答えは、ない。
でも——
「……まぁいっか」
布団をかぶる。
「明日も一緒だし」
そう言って、目を閉じた。
⸻
一方その頃。
隣の部屋。
「……っ、は……」
高橋佳は、静かに息を押し殺していた。
胸を押さえながら。
声が漏れないように。
(……やべぇな)
痛みは、昨日より確実に強い。
それでも。
(まだバレてない)
それだけでいい。
(絶対に)
(あいつには——)
歯を食いしばる。
いつまで保つかわからないまま…目を閉じる