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朝から病院に行き、様々な検査を受けてその日は夕方に帰ってきた。光貴には自宅へ無事に帰ったことや、詩音の検査結果、臓器がひとつしかないということが正式に判明したことを書いたメッセージを送った。これについて、返事はなかった。
今日はスタジオで練習の後、雑誌の打ち合わせなどがあるため帰宅がが遅くなると聞いていたから、連絡ができないのもわかるけれど……。
何もする気が起きなくて、ぼんやりテレビを見ながら簡単な食事を摂って帰りを待ったけれど、深夜になっても彼は帰宅しなかった。途中で、『大変だったな、遅くなるから先に寝てて、ゆっくり休んでや』と、短いメッセージが送られてきただけ。
デビューに向けて動いているバンドへ急に加入することが決まったのだから、忙しいのはわかっているし、仕方ないことも理解できる。
光貴はスマホが苦手でメッセージを打つのも超遅いし、これだけの味気ない文章を送るだけでも、結構時間がかかったと思う。
けど、これだけ?
一言くらい電話をくれても、と思ってしまう。こんな時だから声くらい聞かせて欲しい。そう思うのはわがまま?
光貴の根拠のない『大丈夫』が聞きたかった。
顔を見て安心したかった。辛いことを二人で共有して乗り越えたかった。帰りを待ちたかったけど、精神的に辛くてめまいもしてきたので、詩音のために休むことにした。
冷えたベッドにもぐりこみ、一人で涙した。
不安に押しつぶされそうで淋しかった。
今日だけは一緒にこれからの事を語りたかった。
詩音のこと、どう受け止めていいのかわからなくて。
本当に、本当に、傍にいて欲しかった。
どんな時よりも、今、傍に。
でも応援すると決めた以上、デビュー前の大事な時に『淋しく不安だから早く家に帰ってきて』と、付き合いたての恋人みたいなわがままを、光貴に言えなかった。
そんなことを言える年齢でもなく、我慢をしないといけないというのは理解しているから。
メジャーで活躍できたかもしれないという彼の夢を自分が潰してしまった負い目があるから、背中を押したのだ。応援すると伝えた以上、ようやく巡って来たチャンスを掴んだ光貴に、本音を言うことができなかった。
言えないから、無理が出た。
言っておけば、何か変わったのかもしれない。
それは今でもわからない。
戻れるのならやり直したい。
私なんかと出会う前の、まっさらな光貴に戻って欲しいと思う。
そしたら光貴は輝く未来を掴んで
もっと幸せになっていたと思うから――