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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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 マシンガンによる絨毯弾幕を瞳一つで避けながら、手に持ったドミネーターで反撃する。全てを溶かす電子爆裂砲撃を受けながらも、目の前の異形の機械は攻撃をやめず、接近してくる。


 鮮花はナイフを取り出し、近くの車を盾にしてロボットへ近づく。そしてメインカメラにナイフを突き立てた。


 バリン!! と音がしてナイフがカメラを破壊する。しかし機械の動きは止まらず、高速で回転して鮮花を吹き飛ばした。


「ずいぶんな歓迎だね。そんなに私に会いたかったの?」

『………………ああ。やっとだ』


 挑発のつもりで投げかけた言葉に思いもよらない返答が帰ってくる。

 彼女が認識したのは、機械であることを示す識別信号が一つ。そこに人間が持つ特有の生体反応は無い。


『ずっと、ずっと待っていた。こうしてまた巡り会える日を』


 故にそれは、彼が既に”人間”を捨てているのだという事実を、端的に表していた。


「出待ちされてたか。そりゃそうだよね。私でもやる。それで? あんた、何なの?」

『俺を覚えていないのか。……まあ無理もない。お前にとって俺は、きっと有象無象の一つだっただろうからな』


 大して残念でもなさそうに機械は電子音が混ざった音で笑う。そうして「分かっていたさ」と呟く。


「私が聞きたいのは、その身体のことだよ。身体に何をした」

『ああ、そっちか。別に大した事はしてない。ただ、力を手にしただけだ。財団に心を売り払って、力を手に入れた』


 世間話をするような軽さの言葉の端に言いようもない狂気を感じ取った鮮花。は、無言で両肩に格納されているドミネーターの強化アタッチメントを装着していく。

 これは外部バッテリーにより出力を増加させ、強襲用ドミネーター並みの性能を普通のドミネーターで発揮するための装備だ。


「力ぁ? それが、君から出てる識別信号と何の関係があるの」

『質問が多いな。その答えが知りたいのなら、使うのは言葉じゃない。違うか?』


 機械の両手が実体ブレードに変形する。腕が武器に変わるそれは、いつか潰した研究所の武器腕に酷似していた。


「その武器腕……! なるほど、財団は奴ら吸収したか、それで死神部隊になったんだね」

《………………まさか》

「何?」

《死神部隊? 財団? 誰かの依頼とかじゃない。俺はただお前を滅茶苦茶にできれば良いんだ。肉を引き裂き、骨を砕き、臓腑を抉る。その瞬間を!!》

「まさか、そのためだけに人間をやめたの?」

『そうだ、イレギュラー。最新型が負けるわけないだろ!! 行くぞおおァァ!!』


 雄叫びをあげながら機械が斬りかかってくる。それを近くの10ミリの防弾装甲と耐ビームとはコーティンクされた車を盾にして受け止めた鮮花だが、しかし徐々にパワー負けしはじめた。


「くぅ圧されてる……!? まさかこれほどのパワーだと! 押し負ける!? この私が!?」

《このまま何もなせず死んで行け!!》

「やーだねっ!」


 車の表面を滑らせるように受け流し、一目散に逃げ出す。背後の破壊音に振り向く暇も無く、鮮花は走り出した。


「どうなってるのどうなってるのどうなってるの! 私と対等に戦えるだけの機械を作り出すなんて!!」


 ピピッと端末に連絡が届く。


《たきなです。鮮花、今いいですか?》

「手早くお願い! 今、戦闘中!」

《支援に向かいます》


 目の前のドアを蹴破りながら鮮花は余裕が生まれた一瞬で背後を確認した。するとそこには、灰色の人型の機械が居て、ブーストを吹かして全力で千束を追いかけてきていた。


『イレギュラーあああああああ!!』

「ぶっ壊れた人形が!! 私が!! 貴様ごときに!!」


 ただならぬ様子を見た鮮花は戦慄する。


《俺は全てを捨てたぞ。鮮花を殺すために全てを捨てた。記憶も、心も、もちろん”人間”も》

「どういう事!?」

《要らないわよねぇ! 心なんか! それで勝てるって言うならさ!! 必要なのは絶対に殺すという執念と、それを行える力だけだ!!》

「ナニカされたか…………財団め!」


 正面に開けた広間が現れた。そこで速度を落とした鮮花は再びドミネーターを構え、追いかけてきた機械に向けて突進した。


「ああいう輩に有効な対処法はつ、力で上回る!! 単純明快な答えがあるなら、やってみせろよ! 私!!」

『終われイレギュラー!!!!』


 終わることの無い恐怖と歓喜の狭間に機械化された男は立っていた。改めて向き合い、そして思い知る。このバケモノは、およそ人間が太刀打ちできるような領域にはいないと。

 そしてこうも思う。力押しであれば、自分はこのイレギュラーに負けはしないと。


『ハハハハ、アハ、アハッハ!!』


 口から狂ったような笑いを漏らしながら、名前の無くなった男は千束の首すじを見ていた。

 細い細いその首は、触れることさえ出来れば簡単にへし折れそうなくらい華奢に見える。

 実際、自分の握力ならアッサリとへし折る事が出来るだろう。いや、今は両腕が刃なので切り落とす、という表現が正しいか。ただそれに触れるのが容易ではないことは分かっていた。


 とはいえ、このまま戦い続けていれば有利なのは自分だと理解している。殺意と闘争本能に従うままに腕を振るえば、そう遠くない内に鮮花の細い首に刃が届く。

 その確信が、機械の兵士にはあった。


「めちゃやば!」


 一方の鮮花は、やりづらそうにドミネーターを振るっていた。

 元々パワー負けしている上に、相手は知性が感じられない乱雑な動きをしている。行動が読めないのだ。

 強引に力押しで突破することなど出来ず、逆に強引に力押しで突破されてしまいそうなこの状況。これが続けば続くほど自分たちが不利になっていく事など分かっていた。


「このままだとジリ貧だ、やべー、鮮花ピーンチ」


 戦いにおいて、量と質のどちらを優先するのかは個人の意見が別れるところだろうが、どっちを優先するにせよ一つだけ確かに言える事がある。

 量だろうが質だろうが、それが一定の水準を超えているのなら、並大抵の障害は強引に取り除けてしまうということだ。


『ハッハァ! もう手詰まりかイレギュラー!?』

「ふん、どうだろう。今の言葉がブラフって可能性だってあるわけだし?」

『もっとだ!! もっと戦え!! ドミナント!! イレギュラー!! 世界を殺す女!』


 ここがもう少し優しい世界だったなら、隠されていたシステムが起動してピンチを乗り切ったり、感情の昂りでスペックの限界を超えたり出来たかもしれない。


 だが現実は非情だ。気合いだの根性だの、ましてや愛なんてもので能力が上がるなんてギミックは千束に無く、性能差という現実は重くのしかかってきていた。


『どうした !手が止まってるぞ!!』

「くぅ……!」


 ただ腕を振り回しているだけといった印象を受ける雑な攻撃は、しかし振り回す速度が早すぎるあまり、十分な脅威をもって鮮花を襲う。

 単純な速さと力の暴力は、彼女を防戦一方にするだけの破壊力を持っていた。


 膠着状態のまま5分、10分と過ぎ去るにつれて段々とかすり傷が増え、それらの細かい傷が増えていく。

 その時、端末から声がした。


《鮮花、準備完了しました。このポイントまで誘い込んでください》

「ッ!? 了解!!」


 鮮花は攻撃の衝撃で後方にワザと吹き飛び、戦闘の余波でボロボロになった広間から猛ダッシュで離脱した。


『逃がすかぁッ!!』


 最初に吹き飛ばされた事で僅かに離れた距離を詰められないように、通路に置いてある棚や荷物を地面に倒して進路を妨害する。


『逃さねえ!! 逃さねえぞ!! イレギュラー!!』


 まるで、というか完全にストーカーだ。なんでこんな目に遭わなければならないのかと鮮花は己の不運を嘆きながら、真っ暗な道を指定された通りに進んでいく。


「チッ、追いつかれた!」

『逃がさねぇって言ったろ!!』


 ボディの性能で上回られている以上、障害物の無い直線を走っていればいつかは追いつかれる。

 段々と詰まってきていた距離は、目標地点の500メートル前でついに埋まってしまった。


《はぁい、ミス・イレギュラー。プレゼントを用意したから有効に使ってくれ》


 端末から平等院の声がする。

 そして目の前には、大型兵器に搭載予定の巨大なチェンソーが落ちていた。


「壊れろ、ストーカー!」


 チェンソーを持って、それを横に薙ぎ、破壊しようとする。だがその行動は読まれていた。


「マズっ」


 チェンソーの下に潜り込ませた刃を上に打ち上げて攻撃を無理やり上にズラされた。無理な体勢を取らされた事で鮮花は僅かだがバランスを崩し、大きな隙を晒してしまう。


「首がガラ空きだ!」


 その隙に男は至近距離まで接近し、一瞬だけ無防備になった首すじに向かって首を伸ばして顔を近づけた。噛みついて食いちぎる気満々の動きだった。


「やらせるかっての!」


 咄嗟にチェンソーを手放し、自由になった右手の服の袖から隠しレーザーブレードが飛び出し、勢いよく振り下ろす。10センチ程度の鉄程度くらいなら容易に両断できる威力のビームトンファーが機械の頭に命中した。


 予想外の反撃に、機械の視界がぐらりと揺れる。首を伸ばしすぎていたために前のめりに倒れそうになった機械が見たのは、床ではなく黒いストッキングに包まれた膝。


「ぉごっ!?」 


 華奢な見た目にも関わらず人を殺せる膝蹴りが顔に直撃する。視界が乱れ、地面に倒れた機械が無意識に転がって素早く立ち上がったのは、唯一残された戦闘経験の賜物か。


 頭があった場所にコンクリートを踏み砕くストンプを行い、それを外した鮮花は舌打ちと共に手放したチェンソーを回収して走り出す。


「硬いッ!!」


 手痛い反撃を喰らった機械は、しかし笑っていた。


『くくくくくっ、そうだ! そうでなければ面白くない! それでこそドミナントだ!!』


 そして目標地点へ到達する。


「これは……なるほど」

『鬼ごっこは終わりか? イレギュラー』


 道の真ん中で鮮花は足を止め、何かに気づき、雨に打たれながら機械と相対する。


「うん、終わり。長かった鬼ごっこも、そして──」


 鮮花にばかり気を取られていた機械は気づけなかった。ただ逃げているように見えた鮮花に誘導されていたことを。そして自分が既に包囲網の只中に飛び込んでしまっていることを。


「──お前の命運も」

『なんッ?!』


 四方八方から強襲用ドミネーターの陽電子砲が撃ち込まれる。両方の太ももが融解し、雨が打ちつける道路にうつ伏せで倒れる。そして倒れた機械の両肩に何十発と弾が撃ち込まれ、武器腕が壊れる。


 たった数秒で両手足を失った機械の兵士は、唯一自由に動く首を動かして周囲を見渡し、そこで気づいた。


『この、クソドローンどもが……!』


 廃ビルの各所から男に狙いを定める無数の銃口。それらが全てドローン操作によるのものであることに。


《質がダメなら数で押す。戦いは数ですね。鮮花》

「だねぇ、アレクシア」

《全てのドローンに命令。射撃開始》


 蒼緑色の光が機械の兵士へ突き刺さり、粉々に破壊した。

世界を守る殺戮の救世主

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