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桜舞う私立セクター51防衛女学院。
世界が財団による兵器群によって壊滅的な打撃を受けて、地下へ逃げ、人類を生かした三大システムはセクターごとに学校を設立した。それを精力的に支援して作った三大システムの一つ、タナトスは電子画像のままセクター51防衛女学院入学式の言葉の祝言を言うために壇上に立つことなっていた。
彼女が壇上に表示されると、にわかに騒がさしくなる。
「私立セクター51防衛女学院・特別相談役、鮮花です。皆さん、悩みごとがあるなら精一杯悩んでください。本日より私が皆さんを、支援します。学業・恋愛・家庭・労働・私生活に至るまで悩み事あれば迷わす相談に乗ります。一緒に生きて世界を救いましょう!」
こうして、新しい世界が始まる。
突然、どこかでドカンという爆発音が響いた。
「……何?」
「何か爆発したみたいね。あそこは、確かパンフレットによると研究所あたりからみたいだけど……事故かしら」
「とにかく、データリンクで確認を」
「そうね」
新入生達が女学院の配布された電子端末を使ってデータリンクに接続した直後、女学院内に警報が鳴り始める。そして、慌しい声がスピーカーから飛び込んできた。
『──コード991発生、繰り返す、エリア2にコード991発生!』
「こちら鮮花──HQ、詳細を報告せよ」
『──研究所防衛部隊よりHQ、地下実験施設にコード991発生、目視確認で三体、それ以上は不明ッ!』
『──HQより研究所部隊、現在、即応部隊が出撃準備中、敵の進攻を阻止せよ』
『──バカ野郎、こっちは式典用装備なんだ! ディフェンスアタックを出すか、装備があるハンガーまで退がらせろッ!』
『──HQより防衛部隊へ、繰り返す、現在、即応部隊が出撃準備中、敵の進攻を──』
『──分かったから早くしろッ!』
『──HQより各セクションへ。防衛基準体勢1へ移行。繰り返す、防衛基準体勢1へ移行──』
コード991──
財団の兵器の出現を知らせるコードである。
人間と財団兵器の戦闘能力という点において比べると、財団兵器の方が圧倒的に優れているのは言うまでもないことだろう。徒手空拳で財団兵器に勝てる人間はいない。だが人は、その他の動物と対峙する時でも、自らの肉体だけで戦ってきたことはなかった。
その手の中には武器があり、身を守る防具があった。殺されずに殺す自分を守る武具、それが発展して辿り着いた先が、ディフェンスアタックが扱う決戦兵器・ドミネーターと普通の人が扱えるレベルまで性能を落としたスタンロッドとパルスマシンガンという兵器であった。
個体でのディフェンスアタックと財団兵器。どちらが勝つかという点においてはディフェンスアタックの技量にもよるが、スペックの面でいえばディフェンスアタックに軍配が上がるだろう。遠近どちらでも攻撃方法があり、機動に優れるディフェンスアタックは財団兵器にも対抗できるためだ。
戦車も、距離が離れているなどの条件が整っていれば財団兵器を圧倒できるだろう。航空戦力に関しては、レーザー兵器という天敵がいない場所では有用な武器である。それに対し、ディフェンスアタックは財団兵器を相手に、いついかなる状況下でも安定した力を発揮できる人間兵器と言われている。
優れた技量を持つディフェンスアタックならば、100の数をも相手にすることができるほどの、対財団兵器に生み出された人類の回答式。現時点で財団兵器の最強と呼ばれているアルトラ級とて、ディフェンスアタックが落ち着いた状態でまともに戦えば勝利を収める事ができる。
一対一で戦えば、ディフェンスアタックの方が圧倒的に強い。それが、単純な事実だった。それなのになぜ、今日に至るまで人類は敗走を続けているのか。それは、一対一ではないからだった。アルトラ級から生み出される財団兵器の数がゼロになったということどころか、減少したという報告でさえ成されたことはない。
それは擬似的な無限大を思わせられるもの。喩えるならば、母なる雄大な海の如く。無尽蔵とも思わせられる、視界一杯に流れ続ける水と同じように、まるで尽きることを知らないかのように現れ続ける財団兵器が存在している。ゆえに奴らと長い間戦い続けてきたものはこういう。
――――まるで黒い津波だ、と。
森も町も何もかも飲み込み、真っ平らにしてしまう恐るべき破壊の塊。人類の軍は三大システムを筆頭としたその他、多種多様な兵器でもってそれらを抑えつけている。だが、動かすのは人間である。ボタンひとつで財団兵器を倒せるわけはなく、戦車もディフェンスアタックも人間の意志と腕力で動いているものだ。有用な堰板として波濤を抑えつける。そして時間が経過すれば、腕が疲れていくのも道理である。
疲労。それが、財団兵器にはなく、人間の軍にある大きな差であった。だから快勝を続けていたとして、勝利に浮かれるわけにはいかない。侵攻を阻止するための戦闘に勝利し一時は喜ぼうとも、油断をすれば失地を取り返され、次の日にはまた同じ位置に戻ってしまう。元が断てなければいつまでたってもこの防衛戦は終わらないからだ。かといって、突然何者かがアルトラ級を崩してくれることはない。そんな都合のいい奇跡は空想にさえ値しない。直接に銃火を交えるものとして、防衛の任務に就いているディフェンスアタック達は、耐えるしかないと実地で学ばされていた。
先の見えない戦闘に、諦めを口にする者は多い。だが、その逆となるディフェンスアタックもまた存在する。諦めを心に秘めても走り続ける。その雛となるディフェンスアタックは今、極限状態に陥っていた。
「諸君、聞いた通りだ。実験施設から財団兵器が脱走して暴れている。最悪なことに三年生と二年生は遠征していない。戦闘経験のない者はシェルターへ、指揮経験のある者は右へ、近接が得意なものは中央へ、遠距離戦が得意なものは左へ集まれ!!」
その声にディフェンスアタック達はすぐに移動を開始する。基本的に中等部から徴兵され、難民は幼稚舎から戦闘訓練を積んでいるので、上官からの命令には素早い行動が可能だった。反応が遅いのは高等部から入学した特別な者だけだった。
「よし! 指揮官は一列に並べ! 近接と遠距離戦は完全に分ける。指揮官に合計9人になるようにつけ!」
『了解!』
ザッと、5人組の小隊が出来る。
近接組が3組、遠距離組が2組になった。
「ここを司令部として私が指示を出す、即席小隊は前から01小隊、02小隊、03小隊、04小隊、05小隊と命名する。戦術データリンクを繋いで財団兵器を殲滅せよ」
彼女の指示の声に応じるのと、ディフェンスアタック達が動作に移すのはほぼ同時であった。決戦兵器ドミネーターに火が炎へと変わり、全身を兵器に変える防御結界が展開される。背中からエネルギーが噴出して体を前へと押す推力も高まっていった。やがて生徒達は、障害物を前にしても退かず、更なる前へと飛んだ。
このアクシデントを楽しむように、すりよって来るスモール級の間を抜けて、後ろに隠れていたラージ級の塊の脇を抜けて。風さながらの速度で、命令通りの位置へと辿り着いたのだった。
目的の場所まで匍匐飛行で一気に突っ切ったのだ。そしてドミネーターの砲口が火を吹いたのもまた、着地と同時であった。姿勢制御の動作が終わってから一瞬後には、銃口は目的の獲物を捉えていた。そこから着弾までは、数瞬の間しか存在しなかった。
銃撃をまともに受けて弾け飛んだのは、堅牢の名前で知られるギガント級の唯一の弱点である体節接合部だった。
連続して直撃した36mmの電子貫通高速徹甲弾がギガント級の肉を穿ち、奥の奥にまで突き刺さっていった。
「はははは! 雑魚ね! 所詮は研究用といったところかしら!?」
「背中、空いてますわよ」
笑う少女の背中を別の少女が支援する。狙いは寸分さえも違っていない。周囲を気にしない阿頼耶の集中砲火を受けた接合部と胴体をつなぐ部位の肉は、集中砲火によりまたたく間に削られていく。そしてついにはギガント級が、陥落する。
「左……です!」
「は、はああああっ!!」
白髪の少女から、緑髪の少女へ向けて放たれた。短いやりとりだが何を意味しているのかを察した緑の少女は、脚と弱めの噴射跳躍により、その場から小さく跳躍。飛び退った直後に、もう一体いたラージ級の衝角付き触手が通りすぎていく。衝角は水平に飛んでいき、ラージ級から30m離れた地面へと突き刺さった。
―――弱点である接合部に大きな穴が開いたのは、ほぼ同時である。
「危なかったわね?」
「は、はぃ」
「ナイスアシストでした」
「みんな! まだ大きいのはまだ健在。しぶといノロマの追撃を始めるわよ!」
指揮官の声に了解の声が飛ぶ。
◆
通常の電子炸裂弾よりもはるかに大きな穴を開けた下手人、後衛打撃小隊からの通信が前衛へと入る。
穴を開けたのは、120mmの電子炸裂高出力弾だ。36mmと比べチャージが必要なため速射性能では劣るが、威力は遥かに優れている大口径の榴弾。
それが弱点である体接合部を破壊していった。一方で、目の前の敵だけに集中して見ていられるほど、前衛というのは暇な職業ではない。ラージ級から距離を取りつつ36mm電子炸裂弾を申し訳程度にばらまいた後。群れの意識を引き付けながら、自機のもとに四方八方から集まってくる敵をブレードモードで次々に切り裂いていった。
切れ味鋭く頑丈なナノカーボン製の刀身だ。刃に刻まれた刻印により、伝導率を上げており、大上段からの一撃ならば、ミドル級とてひとたまりもない。
ミドル級のトライポッドのような三つの足と砲身をしているが、近接戦唯一の武器である超硬度の足だが、その振り下ろしもディフェンスアタック達に当たることはなかった。ミドル級相手の近接戦は、前衛ならばよく出くわす状況だ。
前衛の基本戦闘の一つであるといえる。対処の仕方は様々にあるが、ここでは性格が良く反映されるという。
一人の少女はといえば、ミドル級の間合いを見極めながら引きつけた後に仕掛けさせる。そして空振りをさせて、打ち込んだ。剣道における小手抜面、いわゆる”後の後”にあたる技でミドル級の頭部をかち割っていった。
もう一人の少女はといえば、ただ機先を制していた。さっと近づき攻撃される前にブレードを頭にめり込ませる。剣道の基本である”先”の技だが、多くのミドル級を相手にそれをやってのけるようなディフェンスアタックは少ない。
特に戦闘経験が多いディフェンスアタックが使うのだが、年を考えるに見るものが見れば自分の眼を疑う光景だろう。近づき斬り、また近づいては斬る。ブレードモードの刃が煌めく度に、ミドル級の頭部が柔らかい粘土のように切り裂かれた。気持ちの悪い体液の花が咲き乱れる。