テラーノベル
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日付が変わる手前。 晴蘭大学総合病院。
俺は手術室の待合室にいた。
救急車が来てからのことは自分でも覚えていない。
ただ、澪花が息をしてないことが怖くてずっと手を握っていただけ。
程なくして澪花の両親と俺の両親、美琴が揃ってやってきた。
誰も丁寧な装いではない。日頃の生活から飛んできたような。それが俺を余計苦しめた。
澪花の両親とは家族相応の関係で見慣れていてかいつもより血相がよくないのがわかる。
「…っ。澪花は!?」
「まだ手術室です…」
「どうして……澪花がこんなことに…っ」
「お姉ちゃん……」
どうしてお前だけ助かったのか。
そう言われるのを覚悟していた。
でも両親も澪花の両親も誰も俺を責めなかった。
責められなかったのかもしれない。
数十分。
手術室からの騒音も遮断された空間。
ただただ重かった。
命一つ。それ上の重さ。
ドアが開いた。
主治医の男性が1人、出てきた。
澪花の姿は見えない。
「天音澪花さんのご両親ですか?」
「澪花は……!?無事なんですか!?」
「………全力を尽くしましたが…午前0時33分…天音澪花さんはお亡くなりになられました」
「は___?」
乾いた俺の声が情けなく待合室に響いた。
「うそ……うそだって言ってよ……」
澪花の母親はその場で泣き崩れた。
その肩を体が現実を拒否するかのようにただ呆然と抱く澪花の父親。
両親も美琴も娘、姉同然の関係。
「死因は頭を強く打ったことによる出血性ショックによるものだと」
澪花が死んだ。
会えない。
笑えない。
話せない。
花火を見ることもできなければ、学校にも一緒に行けない。
そして___
『高校卒業したら一緒にいようね!』
あの時の約束。
もう結婚できないのだ。
あと1年切っていたのに。
それに気づいたとき俺は___
あの悲劇からこの事件はニュースに取り上げられた。
加害者は多田和興。
56歳。飲酒運転。
いい歳したオッサン。
56年生きてさえ酒を飲んで運転してはいけないことを理解できない男。
当てられた車に乗っていた30代の男性は首に怪我をする程度の軽傷で済んだ。
そして、俺は無傷で済む。
「この事故で信号待ちをしていた晴蘭市内の高校に通う天音澪花さん17歳が死亡しました。」
SNSでこのニュースは徐々に広まっていった。
《アル中すぎだろ笑》
《17て…まだ未来のある子なのに無念でしかない》
《警察、飲酒運転の罰則強化すべき》
《↪︎まじそれな》
それから数日。
慌ただしく葬儀の手続きが続き、葬式にはこれを聞きつけて駆けつけてきた担任の横上と副担の青木。
そして夏休みの中、帰省から帰ってこれないクラスメイトや同級生除きできる限りみんなが集まった。
澪花の親友である南と北沢、アルバイトの店長と店員、中学のときの先生、親戚、家族、そして俺の家族。
たった17という若さ。
予想外の死。
泣いていない者はいない。
――俺を除いて。
これだけ人が集まるとは思わなかった。
その中で俺だけはただ茫然と――
新学期。
始業式。
騒がしい体育館の中、校長がこう切り出した。
「夏休み中ニュースを見た人もいるかと思いますが3年生の天音澪花さんが事故に遭われお亡くなりになられました。天音澪花さんは気立がよくいい印象の生徒だったと横上先生から伺っています。この件を持って今ここで天音さんに黙祷を捧げたいと思います。黙祷と合図をいたしますからはいというまで黙祷をお願いします。――黙祷」
誰ももう騒がなかった。
静寂が体育館を支配する。
それから何日も何週間も日は待つことなくあっという間に進んでいった。
「お兄…」
ノートに擦れるペン先が止まったままだったことに気づく。
大学受験も刻一刻と――
いや。心底どうでもよかった。
今日は澪花が成人になるはずだった日。
18。
「お兄……「ごめん。今は――」
「………っ。このままでいいの…?」
「・・・・・もういいんだ。澪花とはもう会えもしなければ話せないんだから……」
「澪花お姉ちゃん、応援してたじゃん……お兄金融業興味あるって言ってたとき頑張ってねって……このままじゃ澪花お姉ちゃん、悲しむよ……」
「・・・・・」
「金融業…?」
「っはは…やっぱ俺には向いてないわな」
「ううん。そんなことない。私は蓮のこと応援するよ。蓮が決めた人生だもん」
「・・・・・なんか応援されると嬉しく感じるな」
「甘やかしにはなれてますから」
「澪花も頑張れよ。保育士なるんだろ」
「うん、なる。小さい頃からの夢叶えるんだ」
「頑張ろうな。今年乗り切ったら受験も終わるし」
「うん。楽しみだね…!」
「・・・・・」
「ははっ、バカだな…俺」
「ほんとにバカ!!……応援を無碍にするなんてサイテーがすることだよ!」
「お前泣いてんじゃねぇか」
「お兄も人のこと言えない!!」
ごめんな、澪花。
頑張らないといけないところで手を抜いて悪かった。
澪花の分、俺が頑張らないとな……
そして晴蘭第三高等学校の校舎がピンクに染まった今日。
俺と澪花は卒業を迎えた。
「続いて卒業生答辞。卒業生代表・夜凪蓮」
「はい」
注目を浴びながらマイクのスタンドへと歩いていく。
保護者席には澪花の両親も出席していた。
「卒業生を代表して、答辞を述べます。
今日、私たちはこの学び舎を巣立ち、それぞれの未来へ歩み始めます。
振り返ってみると、高校生活の中には、楽しかったことだけでなく、苦しかったことや、今でも忘れられない出来事もありました。
私には、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた幼馴染がいました。
嬉しいときには一緒に喜び、悩んだときには話を聞いてくれる、大切な存在でした。
そんな幼馴染を、事故で亡くしました。
突然のことで、受け入れることができず、「どうして」と何度も思いました。
これから先も一緒に過ごしていけると思っていた時間が、当たり前ではなかったことに気づかされました。
そして、もう一つ、今でも心に残っていることがあります。
幼馴染は、私が将来やりたいことや夢について話したとき、いつも応援してくれていました。
「きっとできるよ」と言ってくれたその言葉は、今でも私の心に残っています。
夢に向かって進む中で、不安になったり、自信をなくしたりすることもあると思います。
それでも、あのとき応援してくれた言葉を思い出し、一歩ずつ前に進んでいきたいと思います。
これから私たちは、それぞれ違う道へ進みます。
新しい環境では、楽しいことだけでなく、思い通りにならないことや、立ち止まりたくなることもあるでしょう。
そんなときには、高校生活で出会った友人や先生方、家族、そしてこれまで私たちを支えてくれた人たちへの感謝を忘れずにいたいと思います。
そして、今日ここにいる私たちだけでなく、もうこの場所に来ることのできない大切な人たちの思いも胸に、これからの人生を歩んでいきたいと思います。
幼馴染が応援してくれた夢を、これからも大切にしていきます。
最後になりましたが、これまで私たちを支え、導いてくださった先生方、いつもそばで支えてくれた家族、そして共に笑い、悩み、励まし合った友人たちに、心から感謝申し上げます。
私たちの高校生活は、今日で終わります。
しかし、ここで過ごした時間や、出会った人たちからもらった言葉は、これからも私たちの心の中に残り続けます。
これまで本当にありがとうございました。
卒業生代表・ 夜凪蓮」
「蓮ー!卒業おめでとー!」
「大声で叫ぶなって!恥ず」
「いいんじゃない。祝い事なんだから」
「はぁ…」
「蓮くん、娘のためにありがとう。あと卒業おめでとう」
「こちらこそです。俺にとってもいい機会でした」
「蓮〜!写真撮ろーぜ!」
「ああ」
澪花。
卒業おめでとう。
そして………
数年後
都内のとある金融会社の一室。
「夜凪くん」
「はい」
背後から声をかけられ、俺は手元の資料から顔を上げた。
「夜凪くん、確認終わった?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとう。じゃあ今日はもう上がっていいよ」
「え?」
「今日、花火大会だろ?」
上司が窓の外へ目を向ける。
「毎年この時期は帰りが遅くなると駅が大変だからな。仕事も片付いてるし、早めに帰りな」
「……ありがとうございます」
「せっかくだし、友達とか恋人と見に行くんだろ?」
「いや、そういうのじゃ――」
恋人。
頭の中に一人の顔が浮かんだ。
「……まあ、ちょっと行きたい場所があるんで」
混み混みの電車に揺られる。
高校3年生のあの日もそうだった。
あの日も、仕事帰りの人や花火大会へ向かう人で電車は混んでいた。
俺の前にいた澪花。
人混みから庇うように立っていた俺。
『混んでたけど大丈夫だったか?』
『うん。蓮のおかげ。ありがとう』
そんな些細な会話まで、今でも覚えている。
数十分後。
俺は高台に立っていた。
目の前には、見慣れた街の景色。
あの日と同じ場所。
違うのは、隣に妻がいないことだけ。
午後七時半。
遠くから、花火が上がる合図の音が聞こえた。
打ち上げ場所から何本も花火が上がりそして夜空に花を咲かせる。
赤、青、緑、オレンジ、金、銀……
昔と同じように色とりどりの花火が街を照らした。
「……澪花」
返事はない。
当然だ。
それでも俺は、隣にいるはずだった彼女へ話しかける。
「俺、あの後大学受かってお前が応援してくれた金融の仕事してる」
また花火が上がり、 夜空が一瞬だけ昼間のように明るくなった。
「……覚えてるか?」
「高校卒業したら結婚しようって約束」
空を見上げた。
「結局、できなかったな…」
「・・・・・」
「ごめんな。約束、守れなくて」
「……けどな。その分俺はお前の分までちゃんと生きてる」
「それが……今の俺にできる約束の守り方なんだと思う」
フィナーレ。
最後の花火が、夜空いっぱいに広がる。
俺はその光を、受けながら静かに笑った。
「澪花。花火より綺麗だ」
「・・・愛してる」
返事はない。
それでも――
俺は、もう一度だけ約束をした。
――小さい頃、約束を破ってはいけないと教えられた。
だから俺は、これからも生きていく。
お前が応援してくれた、この人生を。
Fin.
柘榴とAI

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#初心者
ゆいぽん
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羽海汐遠
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れぷりかげすと@デザコン開催中
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コメント
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みぅです🥀 第2話、読み終わりました…。 澪花との約束、卒業式の答辞、最後の花火大会——どれも蓮くんの心の動きがひしひしと伝わってきて、胸がぎゅっとなったよ。特に「俺はお前の分までちゃんと生きてる」っていう言葉に、蓮なりの強さと愛を感じた。 ふわねこカラメルさん、こんなに美しくてせつない物語をありがとう。蓮の選んだ未来、澪花もきっと喜んでるね🌙