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朝、目が覚めた瞬間から、腹の底がぞわぞわと不穏な音を立てていた。いつものことだ。俺、うりは昔から過敏性腸症候群を患っている。今日も「あ、やばい日だ」と直感した。なんとかベッドから這い出し、制服に着替える。その間も、キリキリとした痛みが断続的に襲ってくる。朝食は一口も喉を通らなかった。無理に食べたら、きっともっとひどくなる。

「うり、また食欲ないの? ちゃんと食べないと大きくなれないよ」

母さんの心配そうな声が聞こえるけど、ごめん、今はそれどころじゃない。

家を出て、重い足取りで学校に向かう。一歩踏み出すたびに、お腹がねじれるような感覚に襲われた。途中で何度か立ち止まり、壁に手をついてうずくまりそうになる。でも、周りの視線が怖かった。「また仮病?」とか、「大袈裟だなぁ」とか、陰で言われるのが嫌だった。だから、なんとか耐えて、耐えて、学校の門をくぐった。

朝練で体育館に着くと、いつも通り友達が騒いでいる。俺もなんとか笑顔を作って会話に加わるけど、内心は冷や汗でぐっしょりだった。友達、先輩達の声はほとんど頭に入ってこない。ただひたすら、お腹の痛みと戦っていた。

そして、30分ほど過ぎた頃、ついに限界が来た。お腹の痛みがピークに達し、胃のあたりからせり上がってくるような不快感が襲った。

「……ちょっと、トイレ」

誰にも聞こえないくらいの声で呟き、体育館を、あとにした。一目散にトイレに駆け込み、個室に飛び込む。便器の前で膝をつき、背中を丸めた。

「うっ……おえっ……!」

胃の中のものが、ごぽっと逆流してくる。朝から何も食べてないから、ほとんど胃液しか出ない。それでも、吐き気が収まらず、何度もえづいた。

額には脂汗がにじみ、息は荒い。吐き終わった後も、しばらくは動けなかった。胃の奥からこみ上げてくる吐き気と、相変わらずの腹痛に、全身の力が抜けていく。

顔を洗い、なんとか体育館に戻る。先輩には「どうした? 顔色悪いぞ」と聞かれたけど、「んー、ちょっと寝不足で」と誤魔化した。信じてくれたのか、それ以上は突っ込まれなかった。

その後も、休み時間ごとにトイレに駆け込み、少しでも痛みが和らぐのを待った。午後からの授業も、ほとんど記憶がない。早く、早く部活が終わってほしい。そう願うばかりだった。

放課後の部活が始まって、最初はなんとかごまかせてたんだけど、だんだん痛みがひどくなってきて、冷や汗が止まらなくなった。もうこれ以上は無理だって思って、練習の合間に更衣室の隅に駆け込んだ。

しゃがみこんでお腹を抱える。キューッと締め付けられるような痛みが波のように押し寄せて、思わず「うぅ……」って低い唸り声が出た。脂汗が額から流れ落ちて、息をするのも苦しい。

その時、「うり?」って、聞き慣れた声がした。顔を上げると、そこに立っていたのは、学校一のイケメンで、みんなの憧れの的である橋野先輩だった。

「どうした? 顔色悪いぞ」

心配そうに眉を下げてこっちを見てる。でも、こんな情けない姿を見られたくなくて、とっさに「なんでもないです……ちょっと、疲れただけなんで……」って、震える声で答えた。

でも、橋野先輩は何も言わずにじっと俺のことを見てる。俺は無意識のうちにお腹をさすっていたみたいで、それが先輩にはバレバレだったんだ。

「お腹、痛いんだろ」

優しいけど、有無を言わせないような声でそう言われて、もう隠しきれないって思った。恥ずかしさと情けなさで、顔が熱くなる。

次の瞬間、体がふわりと浮いた。橋野先輩に、いわゆる「お姫様抱っこ」をされてた。

「えっ……先輩!?」

驚いて声を出すと、橋野先輩は少しだけ笑って、

「いいから。保健室行くぞ」

って言って、俺を抱きかかえたまま更衣室を出て行った。先輩の腕の中は、あったかくて、なんだか少しだけ、安心した。


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