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四月十七日。ナオトは『蒲公英《たんぽぽ》色に染まりし花畑』で遭遇してしまった。
『ケンカ戦国チャンピオンシップ』でモンスターチルドレンを化け物呼ばわりした『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』……『オメガ・レジェンド』に。
「オメガ・レジェンドおおおおおおおおおおお!!」
「怒りに身を任せていては私には勝てないぞ? 少年」
「うるせえ! 俺はあの大会であんたと戦った時が人生の中で一番嫌な思い出になっちまったんだよ!」
「そうか……それは気の毒だな」
「同情なんかされたくねえよ! というか、なんで俺の居場所が分かったんだよ!」
『オメガ・レジェンド』はナオトの攻撃を華麗に躱《かわ》しながら、答えた。
「私の魔法の一つに『|目印を付ける《マーキング》』というものがあってだな……」
「……なるほどな! そういうことか! というか、戦いに集中しろよ!」
「ふむ、それもそうだな。今は悠長に話している場合ではない、な!」
「……がはっ!!」
ナオトは数メートル吹っ飛ぶほど、彼に腹を殴られてしまった。
「く……くそ……。どういうことだ? 俺はこの力を使いこなせていないのか……?」
息を切らしながら腹を押さえるナオトに対して、彼はこう言った。
「今の君の拳は軽すぎるのだよ。やはり、そんな小さな体で戦うのは……」
「俺は好き好んで、こんな姿になったわけじゃねえんだよ。『第二形態』になった副作用で、こうなったんだ。仕方ないだろ」
「それは言い訳にはならないぞ?」
「そんなことは分かってる。けどな、俺はこの身が滅びても絶対にあんたを許さない。だから……」
「もういい。今、私が楽にしてやる」
「ははっ……やれるもんなら、やってみやがれ。でも俺はただでは死なねえぞ!」
「よく見ておけよ! モンスターチルドレンども! 貴様らのマスターの最期を!!」
だが、ミノリ(吸血鬼)たちは顔色ひとつ変えなかった。
まるで、ナオトの勝利は約束されているから大丈夫だと言わんばかりに……。
彼はナオトのことを信じている者たちの思いを感じ取ると、ナオトにこう言った。
「もうやめにしないか? 少年」
「何言ってんだ……俺はまだやれる……いや、やらなくちゃいけない。みんなが俺を……俺の勝利を信じて待っててくれてる……から」
「ふむ、ではそろそろ本気を出してもらおうか」
「そんなこと言われなくても、やってやるよ! 後悔するなよ! オメガ・レジェンド!!」
その直後、ナオトの黄緑色の目が赤くなり、全身から今までものとは桁《けた》違いの金色のオーラが溢れ出した。
「リミッターを外したか……。だが、それだけでは私には勝てないぞ?」
「ああ、分かってるさ。あんたに勝つには、さらにリミッターを外さなくちゃいけなくなる。けど、それは自我を保てなくなるから、あんまり使いたくないんだよ」
「君の全力を……私に見せてみろ」
「……まったく……あんたって人は、なんでそこまで人を煽《あお》れるんだよ」
「そんなことは私にも分からない。だが、全力を出していない相手に勝っても私は満足できないのだよ」
「……そうかよ。じゃあ、望みどおり見せてやるよ。俺の全力を!!」
ミノリ(吸血鬼)たちは心配していた。『あの大会』でナオトが初めて暴走しているところを見たからだ。
けれど、みんなはただナオトの勝利を信じて待つことしかできない。
手を貸そうとすれば余計なことをするなと言われるし、彼のプライドを傷つけることになる。
だから、みんなはただナオトの勝利を信じて待ち続けるのだ。
「……はぁああああああああああああああああ!!」
彼の全身を覆う金色の鎧の一部……口を覆っている部分がパックリ割れて、竜のような鋭い牙と真っ赤な舌が現れる。
これこそ、ナオトが暴走する合図である。さあ、本能の赴《おもむ》くままに暴れ狂《くる》え……。
*
その頃、他の誕生石たちはナオトの気配を察知していた。
彼の中にあるのは……アメシスト、エメラルド、ゴールデンサファイア、トパーズ、シトリンの五つ。
彼の近くにガーネットの気配もあったが、別の人間の中にあるのを察知したため、それは問題なかった。
しかし、複数の誕生石を扱えた者など、先代の誕生石使いを除いて誰もいなかったため、誕生石たちは彼にみすみす取り込まれてしまってはたまらないと思い、ある考えに至った。
それは……『試練』を与えることだった。
もし、自分の目の前に彼が現れたら、無条件で彼の体内に入るのではなく『試練』を乗り越えることができたら、自らの力を与える……というシステムだ。
だが、誕生石を複数扱える者が現れたということは『帝龍王 エンペラードラゴン』がこの世界にやってくる前兆なのかもしれない。
まあ、あくまでも可能性の話だが。
そのことを考えた誕生石たちは、一度、どこかに集まることを決めた。
四月三十日の午後四時三十分に……。