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暴走したナオトの戦い方を一言で表すなら、獣であった。
もう腹が減りすぎてたまらない。肉、肉、肉!
今すぐ思い切り噛み付いて、その血を肉を骨を養分を命を喰らいたい。喰らいたい!
そんな獣に成り果てたナオトの攻撃は確かにオメガ・レジェンドに届いていた。しかし……。
「やはり、その力を自分のものにしなければ、私に勝つことはできないようだな……。ふんっ!!」
「……ごはっ!!」
彼はナオトの顔面を掴《つか》むと、腹を思い切り殴って、吹っ飛ばした。
ゴロゴロと花畑を転がっていたナオトは体勢を立て直すと……背中に生えた翼を羽ばたかせて、飛び始めた。
「ん? いったい、何をする気だ?」
その様子を不思議そうに見ていた『オメガ・レジェンド』はその意図が分からなかった。
ナオトは二十メートルほど上昇し、静止すると、口を開いて魔力を集め始めた。
次第に大きくなっていく金色の光玉《こうぎょく》からは、とてつもない魔力を感じた。
その時、ようやくその意図を理解した『オメガ・レジェンド』は彼を止めるために地面を思い切り蹴って、彼の元へと向かった。
「君はこの世界ごと私を殺すつもりなのか!」
「……」
「理性を完全に失ったか……。許せ、少年! 私は今から初めて人を殺す! だが、これは世界を守るためだ!」
「…………もう……遅い」
「なにい!?」
その時、ナオトの金色の光玉《こうぎょく》が。
「……『|金色の破壊光線《ゴールデン・デストロイヤー》』!!」
一筋の光線になって、放たれた……。
「くそ! もうこうなったら、あの魔法をしかないか。ええい! やむを得ん!!」
金色の光線がオメガ・レジェンドに当たりそうになったその時、彼は『とある魔法』を使用した。
「『|立場逆転《リバース》』!!」
その直後、ナオトと彼の場所が入れ替わった。そして……。
「うわああああああああああああああああああ!!」
金色の光線がナオトに命中した。
「……すまない、少年。私はまだ死ぬわけにはいかないのだ」
両者は共に落下。彼はうまく着地したが、ナオトは仰向けで落下していたため、背中から着地した。
「……少年よ、もっと腕を磨いて出直してこい。さすれば、いつか私を……」
「……ふざ……けるな。俺は……まだ……やれる」
彼がナオトの方を向くと、ボロボロになったナオトの鎧と体が目に入った。
「もう諦めろ、少年。勝負はもう決している。これ以上戦っても……」
「無意味……か。けど、俺は……こんなところで負けるわけにはいかない……。みんなが俺を信じて……待っててくれてる……から」
「もう立ち上がる力も残っていないではないか……。そんな体で私とどう戦うというのだ! こんな無意味な戦いはもうやめろ! 無駄な足掻きも結構だ! こんな戦いになんのメリットがあるというのだ!」
「無意味かどうかは俺が決めるし……無駄な足掻きかどうかも俺が決める。それにメリットなら、ちゃんとあるぞ……」
「なに? それはいったいなんだ?」
「それは……な。俺が……また一歩……成長できるってことだ!」
そう言いながら、苦しげに立ち上がったナオトは立っているのがやっとだった。
「……そうか。そこまでして、私に勝ちたいのか。分かった。私も男だ。君の望みどおり、決着をつけてやろう。それに、ここで引き下がれば『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』という私の立場が危うくなるからな」
「……つくづく嫌な奴だな。あんたは……。けど、その方が……倒し甲斐が……ある」
「そうか……。では、君の最高の一撃を私にぶつけてみろ。それでも君が私に勝てる確率は限りなく低いがな」
「確率? そんなもんあてにならねえよ。特に、こういう時には……な」
「ふん、まあ、それもそうだな。では、さらばだ。小さき戦士よ」
「……さあて、それは……どう……かな?」
その時、ナオトが身に纏《まと》っていた金色の鎧が消えてしまった。しかし……。
「……|アメシスト《あいぼう》。俺の体を少しの間、お前に預ける。だから……」
「……了解した。ゆっくり休め」
「ああ、そう……させて……もらう……よ」
彼にはナオトが独り言を言っているようにしか見えなかったが、ナオトは自分の体の中にある『紫水晶《アメシスト》』に話しかけていた。
それはナオトに鎖の力を与えた存在であり、ナオトの相棒でもある。
ナオトは意識を失うと、その場で倒れてしまったが『紫水晶《アメシスト》』がナオトの精神と入れ替わったため、ナオト(精神はアメシスト)は前転してからジャンプすると、スタッと地面に着地した。
「……さてさて、『オメガ・レジェンド』とやら。我の相棒であるナオトをずいぶん弄《もてあそ》んでくれたようだな」
いつのまにか、ナオト(精神はアメシスト)の瞳が金色になっていたのに気づいた彼は拳を構えながら。
「貴様が少年の体に住まう悪魔か! 今すぐその体から出ていけ! さもなくば……」
「さもなくば……どうするというのだ? 言っておくが我に勝てる者は世界広しといえど、『あやつ』しかおらぬぞ?」
「……! それはまさか……!」
「そう……そのまさかだ。まあ、この世界では世界の危機を救った救世主となっているようだがな」
「……う、嘘をつくな!」
「それが嘘かどうか確かめるのは我と戦ってからでも遅くはないだろう。さあ、始めようか。命の奪い合いを」
今のナオト(精神はアメシスト)に勝てる保証はない。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。ナオトと約束したのだから。
「いいだろう。その勝負『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』としてではなく、一人の男として受けさせてもらう!」
「そうか……。それはよかった。我もちょうど遊び相手が欲しかったところなのだ」
「私が勝ったら、貴様には少年の体から出ていってもらうぞ!」
「よかろう。では、我が勝った場合はお前の力を全てもらうとしよう」
「力だと? どういう意味だ? 説明しろ!」
「説明しろだと? そのままの意味だ。お前の魔力、地位、権力、知識……お前が今までに習得したもの全てだ」
「……そうか。ならば、貴様にはここで死んでもらう! これ以上、少年の体を汚させるわけにはいかないからな!」
「汚す? 我がか? ふむ、おかしなことを言う人間だな、お前は。では冥土の土産にいいことを教えてやろう。我が力を欲したのは……ナオト自身だ」
「……だとしても、私は貴様に制裁を加えるだけだ!」
「ふん、ならば来るがいい。そして、我が力にひれ伏せええい!」
両者は地面を思い切り蹴ると、拳と拳を高速でぶつけ始めた。
ナオト(精神はアメシスト)の攻撃は先ほどよりも鋭く、そして確実に彼を追い込んでいった。
「ぐっ……!」
「どうした? 動きが鈍っているぞ?」
ナオト(精神はアメシスト)は隙をついて、彼の腹に拳を高速で三発入れると、回し蹴りで彼を吹っ飛ばした。(オメガはなんとか倒れずに踏ん張った)
「くっ……! こ、これほどまでに強くなるとはな」
「ふん、つまらんな……。ナオトは人間の可能性を我に教えようとしていたが、やはり人間は失敗作。欠陥品だったというわけか」
「それは……違う……!」
「……ほう、ならば、証明してもらおうか。人間の可能性とやらを」
彼の顔はところどころ出血していたし、体もボロボロだったが、彼はニシッ! と笑った。
「では見せてやるとしようか。私の最強の魔法を!」
「ならば、我もそろそろ本気を出すとしようか。少々加減はできないが、後悔するなよ?」
その時、両者の全身から凄まじいオーラが溢れ出した。両者のそれは辺り一帯の雲を吹き飛ばすほどのものだった。
彼の黒いオーラとナオト(精神はアメシスト)の金色のオーラが大地を震わせながら、どんどん、どんどん膨れ上がっていった。
そして……。
「全てを喰らい、全てを滅ぼす闇の精霊よ! 今こそ、我に絶対の力を与え給え!!」
その時、オメガ・レジェンドの背後に全身が黒く目が赤い牛が腕を組んだ状態で出現した。
「我が名は『アメシスト・ドレッドノート』。二月の誕生石にして、最強の存在である。さあ、今こそ我が要求を受け入れよ。そして、我に本来の力を与え給え!!」
その時、ナオト(精神はアメシスト)の背後に全身が紫色で瞳が金色の龍が出現した。
「私の最強の魔法をくらうがいい!!」
彼は先ほど出現した牛を右拳に込めると、こう言いながら、牛の頭の形をした衝撃波を放った。
「『|闇精霊の全力突進《ダークネス・インパクト》』おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ナオト(精神はアメシスト)は余裕の笑みを浮かべながら、先ほど出現した龍の力を右拳に込めると、こう言いながら、龍の頭の形をした衝撃波を放った。
『|紫水晶龍の全力疾走《バイオレット・フルバースト》』おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
しかし、牛と龍の形をした衝撃波がぶつかる瞬間、何者かが割って入り、それを反射させた。
『な……なにぃ!? うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
両者は自分たちの技をまともにくらってしまった。その場に仰向けで倒れた両者を無視して、その者はミノリ(吸血鬼)たちの方へとゆっくり歩き始めた。