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「さよなら、陸海国」
そう呟いた声が真夜中の静寂に溶けていく。
次帰る時はお互い成長してるといいね
「まあ、無理な話か」
人は短時間で成長出来ない。
長い時間をかけて自分を見つめ直し、改善するきっかけを見つけなければ本当の意味で成長は出来ない。
「ふぅ…行くか。水の国」
そんな思考に浸りつつも、目的地に向かって歩いていく。あいにく独り言が多いのは癖なため少々見逃して欲しい。
まずは、馬車か乗せてくれそうな人を探そう。
「すみません、水の国まで乗せてもらえませんか」
「あァ?お嬢ちゃん、お家はここじゃないでちゅよォ〜?」
「ええ、知ってます。水の国まで行きたいんです」
「ギャハハ!親方ァ!この子冗談も通じませんでぇ!」
「まあまああんまりそうからかってやるなって」
な嬢ちゃん、と言いながらポンポンと肩を叩いてくるおじさん。
「……きっしょ」
「あ?」
「いえ、すいません。潔癖なもんで」
「あんま舐めた口聞くと痛い目見るぞ」
チャキッ、と武器を構え威嚇するおじさんたち。
…乗せてはくれないのかな
「水の国まで乗せていってくれたらそれでいいんですけどね」
「あいにく俺たちはそんな仕事なんて生業にしてないもんでねェ」
「これ、さえ払ってくれるならいいんだけどよォ」
ん?ん??とこちらを覗き込むようにして煽ってくるおじさんたち。
…雑魚ほどそう煽る。
面倒な人たちに頼んじゃったな…
「もちろん、お金は払います」
「いくらだァ?」
「こんなもんでどうでしょう」
と、明らかに相場より高い金額を見せてやれば血相を変えて飛びつく。
やっぱ金という欲望には勝てないんだよね
「よし、嬢ちゃん乗ってけ」
「話が早くて助かります」
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ガタガタと馬車に揺られながら、目の前のおじ…男たちと話をする。
「嬢ちゃんは旅人か?」
「まあ、そんな所です」
「ふぅん。ま、人には人の事情があるしな」
案外優しい人たちなのかもしれない、と心のどこかで思いながら適当に話をしていく。
「そういうあなた方は?」
「俺たちは行商人さ」
全然そんな風には見えなかったんだけどな、と思いつつも馬車の中を見渡せば商品と思われるものが沢山あった。
なるほど、なかなか乗せてくれなかったのは商品を盗られる可能性があると思ったからか。
それからちょくちょく休憩を挟みながら、2日ほどで水の国へ着いた。
「俺たちは荷物の検問があるからここでおさらばだ。じゃあな、嬢ちゃん」
「ええ、ありがとうございました」
名前も知らない行商人さん。
そう言っていざ水の国へ入る。
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「お嬢ちゃん、旅の目的は?」
「えっと、故郷で妹にこの国の料理は新鮮で美味しい、と聞きまして」
「ふむふむ、確かにこの国の料理はどれも自慢出来るものばかりだ。ところで、名前は?」
「に…クレイです」
「ニクレイ?へぇ」
「あ、いや、クレイです」
「はいはい、クレイさんね。この国では18からが成人だけど成人はしてる?」
「はい、してます」
「滞在期間は?」
「1週間ほど滞在します」
「なるほど、ありがとう。それじゃあこれを。あ、これは入国許可証で、こっちはホテルとかで出すと旅人料金で安くなるチケットだよ」
入国審査官から色々聞かれ、やっと解放された後安くていいホテルを探す。
シャワーは必須で、あとは…
「美味しいご飯、かな」
「美味しいご飯が食べたいならうちにおいでよ!」
「ッ!?!?!?」
「あれれ、おねーちゃん?」
おーい、と顔の前で手を振る小さな女の子が不思議そうに首を傾げる。
いや、びっくりした…
今度から独り言には気をつけよう…
「な、なに…?」
「美味しいご飯が食べたいんでしょう?」
「そ、そうだけど…」
「それならうちがぴったりだよ!!それにうち宿屋だし!」
宿屋、と言う言葉にぴくりと反応する。
…ご飯が美味しい宿屋………
「案内してもらえるかな」
「〜ッうん!!」
こっち!と手を引っ張りながらさっきよりもやる気に満ちた雰囲気の女の子に、なんだかこっちまで笑顔になれそうだった。
栄えた中央部から少し外れた場所にその宿屋はあった。
中央部に比べたら全然だけど、ある程度栄えているこの場所は観光客に人気らしく、色々な人がいた。
街の人たちもみんな笑顔で楽しそう
「ここだよ!」
ジャーン、とでも効果音が付きそうなほどに手を広げドヤ顔を決める女の子。
可愛い…
「おかぁーさーん!!お客さん連れてきたー!」
「あら、旅人さんね?」
「ねーねー!わたしが案内してもいいー?」
「いいわよ、何かあったらちゃんと言いなさいね」
カウンターの料金表を見ればおそらく相場より安くいわゆる穴場スポットということが分かる。
「あ、旅人さん!お夕飯は海鮮丼を出す予定なんだけど生魚は食べたことあるかい?」
「いえ…焼き魚なら食べたことあります」
「そうかいそうかい!じゃあ今日が初めてだね!」
店の店主が夕飯について説明してくれた。
魚って生で食べれたんだ…
そう言えばてんうがこの国では生魚を食べる文化が昔からあるって言ってたっけ
「おねぇーちゃんのお部屋はここだよ!」
「おお〜…」
なかなかに広く、ふかふかのベッドが設備されたみるからに高そうな部屋に案内された。
料金について一応聞いてみるが、カウンターにあった料金表のままらしく、定価より安い状態でいい宿屋に泊まれることに少し得した気分になった。
「お夕飯の時間になったらまた来るね!」
それまでは自由だよ〜!と言われ女の子はパタパタと部屋を出て行ってしまった。
観光案内は仕事の一つじゃないみたいだな…
「観光…してみるか」
宿屋を出てとりあえず中央部の方まで戻って見れば魚市場と呼ばれる魚が沢山売っている場所に辿り着いた。
「くっさっ…!」
魚特有の臭さが充満する市場に思わず顔をしかめてしまう。
「やぁ嬢ちゃん!ここは初めてかい?」
「ええ…」
「はっはっは!その様子だと魚の臭いがキツくて仕方がないんだろ」
「まあ…」
「確かにここは新鮮な魚ばっかりだからねぇ!臭いもするし水も飛び散るよ!」
適当に寄った魚を加工した状態で売っていた店に入ると元気そうな店主に声をかけられた。
「あのこの瓶ってなんですか?」
「ん?ああ、これはうにの瓶詰めって言ってね…」
トゲトゲの殻に包まれた貝?のようなものらしいが中身はとろとろしており、大体は瓶詰めして売られているらしい。
うに単体の瓶詰めもあれば、昆布が入った瓶詰めなど色々な種類の瓶詰めもあるらしい。
「じゃあ…この瓶詰め1つ下さい」
「まいど!」
名前にどことなく既視感が湧いたうにの瓶詰めを買って、妹のお土産にすることにした。
それからしばらく観光していると日が暮れかけの時間になってきたため、1度宿屋に戻り、買ったものを整理しておく 。
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「おねぇーちゃん!お夕飯の時間だよ!」
「うん、ありがとう」
女の子に呼ばれて下に降りれば、海鮮のいい匂いが充満しており、肺いっぱいにその空気を取り込む。
「いい匂い…」
「これが海鮮丼、こっちは魚のあら汁!」
海鮮丼、と呼ばれる丼にはたくさんの生魚がサイコロ状に切られており上から醤油をかけて食べるらしい。
「これはエビで、これはマグロ!これはサーモンでこっちはホタテだよ!」
名前を言われてもいまいちピンとこなかったがこの国ではこの魚たちがよく食べられているのだろう。
はし、と呼ばれるカトラリーを使うこともあるらしいが使ったことのない観光客の方にはスプーンを渡しているらしい。
海鮮丼はスプーンを使う事が多いらしいのでありがたくスプーンを使って食べる。
ひと口、口に入れれば広がるなんとも言えない魚の味。
味を楽しむ、というよりかは食感を楽しむものに近い気がした。
なんとなくその食感が癖になり、どんどん食べ進めていく。
あら汁もひと口飲めば、口の中いっぱいに魚の旨みが広がりふぅ…と息を吐く。
「どうだい?お口にはあったかな?」
女の子の両親でおそらくこの宿屋の店主である男が厨房の方から出てきて声をかけてきた。
「ええ、とても美味しいです」
陸海国で食べるご飯も当たり前のように美味しいが別の国で食べるご飯もいつもと違う感じがしてとても美味しかった。
これがてんがいってた遠足気分、ってやつなのかな?
「とても美味しかったです、ありがとうございました」
そういって席を立ち部屋に戻る。
それからシャワーを浴びていつもなら綺麗に手入れをする髪を少し雑に手入れしてからいつもより早く寝る。
ゆかりたちが聞いたらびっくりするだろうなぁ
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それから1週間が経ち、出国の時間になった。
「1週間もありがとうございました」
「いやいや、こっちこそありがとうね」
「次に行く国は決めてんのかい?」
「いえ…なにかおすすめの国とかありますか?」
門の前で宿屋の店主と話す。
「そうだね…ここから西に進むと機械の国があるよ」
「機械の国ですか」
「ああ、なんでも機械技術の発達した最先端の国らしい。旅の足になるものとかも探せるんじゃないかな?」
「それは…いいですね」
旅の足は大事だ。
特に、荷物を乗せれて運べるのは便利だ。
よし、次は機械の国に行ってみよう
「ありがとうございます」
「ばいばい!おねぇーちゃん!!」
「うん、ばいばい」
馬車に乗り、機械の国まで連れてってくれますか?と聞けば、快く承諾してくれたためお礼を言ってからもう一度店主たちの方を見る。
「本当にありがとうございました」
「元気でね!!」
馬車が進み出して門が見えなくなるまで手を振り続ける。
本当にいい国だったな…
そう思いながらお土産の入った袋を抱えて眠りにつく。
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次回「機械の国」
コメント
4件
俺、こういう旅をする小説をあまり読んだことがなかったんですけどとても面白かったです! 続き楽しみにしてまってます! 無理をしない程度に頑張ってほしいです!応援してます!
ッスーーー…なんかデータ保存されてなかったみたいで中途半端に終わってました……最悪や……
うにの瓶詰め....!?!?共食I... 水の国楽しんでるみたいですよかった.........疲れ癒してね!!!!!!