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「禁断の恋」
桜木は70歳過ぎて自分の孫のような女性に恋をするなどとは思ってもみなかった。
知人が開催している銀座の展覧会場で出会った十五、六歳位の女性を見て瞬時に恋に落ちたのである。
その清楚で凛とした透明感がある女性は眩しく輝く天使のように思えた。
老画家は既に晩年であり、自分のお迎えはそう長くないと思っていた。
よもや自分の孫のような女性に全身が燃え上がるような炎が渦巻くとは、と。
*
画家は恥も外聞もかなぐり捨てて女性に声をかけた。
「私は画家で桜木幸治と申します。あなたを見て何と素敵なんだろうと思いました。それで、もしよろしければあなたとお友達になれたらとても光栄だと。それで声をかけました。私は決して変な人間ではありません。あなたから見れば祖父のような老人ですが、もし嫌であれば断っても構いません。」
「私は何処にでもいる普通の女性ですよ。でも、画家である桜木さんにそのように言われて嬉しいです。私は佐藤沙耶です。」
沙耶は動じることも無く、真っ直ぐに桜木を見て言った。
桜木の方が逆に動揺していた。しかし、彼女の返答を聴いてほっとした。
「私は今は一人暮らしで、ただ絵を描く事しか能のない人間です。世間的な事にはあまり興味がなく、どちらかというと浮世離れした人間です。一般的な恋愛などというものにも全く興味がなく生きてきました。味もそっけもない人間です。私の話もつまらないと思いますが、それでもよろしければ、ですが――」
「私もあまり世間話は興味はありません。たまに美術館に行ったり、自然の中にいた方が落ち着く人間です。同じ年頃の友人たちは私の事を少し変人位に思っています。こんな私でも良ければお友達になって頂けますか?」
桜木は、沙耶の思いがけぬ返答に驚きつつも何とも言えぬ感動に襲われていた。
二人は不思議な事に初対面とは思えないのを感じていたのである。
――少しお話をしましょうと、会場を出て近くの喫茶店に入った。