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「皆が私達を見たら祖父と孫のように見えると思うわ」
沙耶は笑みを浮かべて言った。
桜木も同じように考えていたので、微かな笑みを浮かべてで周囲を見た。
二人は相手の事を細かく詮索せず、和やかな感じで他愛もない話を一時間ほどした。お互いのメアドを交換し、また会う約束をして別れた。
彼女は十六歳であった。しかし、その立ち居振る舞いや醸し出す雰囲気は二十歳と言っても通じるであろう。
百六十センチ位でやや細身だがしなやかで俊敏そうな所作である。髪は肩より少し下まである。聡明な顔立ちと魂を顕すかのような透明な皮膚をしている。
桜木の生活が一変した。それまではただ死を迎えるだけであったが、沙耶と出会ってからは生きようと強く思い始めたのである。
――創作している間も沙耶の顔がちらついた。思い出しただけでも毎日会いたいという想いが強くなる。
――これが俗に言う『老いらくの恋』というものか、と。桜木は半ば自嘲気味に苦笑した。
彼女と会った時、開催していたのは知り合いの画家だった。彼はかなりの売れっ子作家で会場の殆どの作品は完売していた。開催していた画家は沙耶の父の知り合いで、彼の作品を既に何点か購入していた。彼のコレクターでもあった。
桜木は天才的才能があった。贅沢しなければ生活出来る程度で十分だと思っていた。若い時から金持ちに媚びを売ったり、人脈作りをすることは極度に嫌った。凡庸な作家とは違っていた。孤独と深い闇、沈黙の世界の住人であった。そこに稲妻のように沙耶が闇の空間を照らしたのである。
沙耶は桜木の事を昔から知っているような親密感を感じていた。彼の年齢など気にもならなかった。一緒にいると不思議な安らぎを感じる。
又、時間が合えば会いたいと思っていたが、会って日が浅いせいか、メールをするのに躊躇していた。
――同じように桜木もメールを出すのはまだ早すぎると思っていた。