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MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
雪が降っていた。
静かに。
どこまでも。
白く。
音もなく。
降り続けている。
旅僧は何も見えなかった。
川も。
舟も。
渡守も。
全て消えている。
ただ。
白い。
果てのない雪原だけ。
そして。
泣き声。
少女の泣き声だけが響いていた。
『嫌だ』
『嫌だ』
幼い声。
震える声。
何かを失う子供の声。
その時だった。
旅僧の視界が戻る。
ゆっくりと。
ぼやけた景色が形を取り戻す。
雪。
森。
そして。
二人の少女。
旅僧は息を呑む。
これは記憶だ。
誰かの。
遠い昔の。
記憶。
泣いている少女。
まだ幼い。
十にも満たない。
小さな身体。
小さな手。
その手が。
必死に誰かを掴もうとしている。
だが。
届かない。
その先にいる少女は笑っていた。
黒髪。
優しい目。
そして。
泣いている。
笑いながら。
泣いていた。
『大丈夫』
静かな声。
『また会える』
幼い少女は首を振る。
『嘘だ』
涙が止まらない。
『嘘だ』
雪が降る。
白い世界。
黒髪の少女は膝をつく。
目線を合わせる。
そして。
頭を撫でた。
優しく。
本当に優しく。
『約束する』
静寂。
『絶対に』
幼い少女は泣き続ける。
信じたい。
だが。
分かっている。
別れだ。
これは。
もう会えなくなる別れだ。
その時。
黒髪の少女が顔を上げる。
誰かを見る。
遠く。
雪の向こうを。
そして。
旅僧は見た。
そこにいた。
一人の少女。
木刀を腰に差した少女。
まだ若い。
だが。
強い目をしている。
その顔を見た瞬間。
旅僧の呼吸が止まった。
葛城佐衛門だった。
いや。
違う。
もっと幼い。
もっと柔らかい。
まだ。
葛城佐衛門になる前。
菫だった頃の少女。
黒髪の少女は笑う。
その菫へ向かって。
『お願い』
静寂。
『この子を守って』
風が吹く。
雪が舞う。
菫は何も言わない。
ただ。
頷いた。
一度だけ。
強く。
迷いなく。
そして。
黒髪の少女は笑った。
安心したように。
全てを託したように。
『ありがとう』
その瞬間。
記憶が揺れる。
世界が軋む。
雪景色が崩れ始める。
まるで。
無理やり見せられていた夢が終わるように。
旅僧は叫んだ。
「待ってください!」
だが。
止まらない。
雪は消える。
少女たちも消える。
そして。
最後に。
黒髪の少女だけが振り返った。
真っ直ぐ。
菫を見る。
そして。
微笑んだ。
『ごめんね』
静寂。
『全部押し付けて』
世界が白く染まる。
その言葉だけを残して。
記憶は終わった。
そして。
現実へ戻る。
轟音。
川が荒れている。
空が裂けている。
巨大な瞳がこちらを見ている。
何も変わっていない。
だが。
一つだけ違った。
佐衛門が立っていた。
いや。
旅僧は初めて見る。
そんな顔を。
いつも無表情だった。
いつも平然としていた。
なのに今は。
泣いていた。
静かに。
声もなく。
涙だけを流していた。
その時。
お師さんが目を閉じる。
そして。
小さく呟いた。
「思い出しちまったか」
風が吹く。
鐘撞きも顔を伏せる。
墓守も黙る。
誰も喜ばない。
記憶が戻ったのに。
誰も。
喜ばない。
その沈黙が。
何より不吉だった。
そして。
空の向こう。
巨大な瞳が。
ゆっくりと嫌に細められた。
『ようやく』
世界が震える。
『思い出した』
旅僧は息を呑んだ。
その声は。
どこか嬉しそうだった。
だが。
佐衛門は違った。
涙を流したまま。
空を見上げる。
そして。
小さく呟いた。
「……約束」
その瞬間。
空に。
亀裂が走った。
一本。
また一本。
まるで。
巨大な何かが。
向こう側から。
こちらを押し開けているように。
亀裂の隙間から。
白い光が漏れる。
川が震える。
岸の人影たちが。
一斉に跪く。
渡守が青ざめる。
「……間に合わない」
誰も答えなかった。
空の亀裂が。
ゆっくりと。
広がっていく。
コメント
1件
うわ……この回、凄かったですね。雪景色の中の別れのシーン、黒髪の少女が“全部押し付けて”って微笑むところが切なくて。菫がまだ“菫”だった頃の優しい目、彼女が背負ったものの重さが一気に伝わってきました。戻ってからの佐衛門が泣いてる描写に胸が詰まりました。「ようやく思い出した」って瞳の声、怖い……次が気になります。素敵な物語をありがとうございます。