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『第十八話 かき氷に罪はない』
──
文化祭までの日々は慌ただしかった。
毎日放課後になると、皆残って作業を始める。
中には勉強のために帰ったり、参加してくれない人もいるけど、千夏は仕方がないと割り切っていた。
机と段ボールで屋台を作る男子。
祭提灯を模造紙で作る女子。
絵が得意な人は看板を描き、料理が得意な人は試作を繰り返す。
もちろん失敗もあった。
提灯が上手く点灯しなかったり。
看板の文字を書き間違えたのが完成間際に発覚したり。
射的の的が一発で全部倒れてしまったり。
それでも、その度に誰かが笑って言う。
「じゃあ別の方法でやろうぜ」
「それいいじゃん!」
──
「困ったな」
割り振り表を見ながら、結衣は難しい顔をする。
「どうしたの?」
「今やろうとしてる事を全部やると、当日人が足りない」
それを聞いた男子生徒が口を挟む。
「路木さんに、やらせたら?」
彼の目線の先に、机に顔を伏せて寝ている女生徒がいた。
彼女だけは千夏のアンケートにも協力せず、準備も参加していない。
「路木さんかぁ……声かけても『うざ』しか言わないんだよなぁ」
結衣が頭をかきながら言う。
千夏は結衣にも苦手な人が居るんだなと驚いた。
「私、声かけてくる」
千夏は少し怖かったが、短く息を吸うと路木の机に近づいていった。
「路木さん」
「…………」
「文化祭の当日、手伝ってくれないかな?」
「…………」
「きっと楽しいし、思い出になるよ」
「……うざ」
「路木さん?」
「思い出とか……友達と力を合わせてとか……うざすぎ。勝手にやってれば?」
「そっか、わかった。起こしてごめんね」
路木は最後まで顔を上げなかった。
千夏は結衣たちの元へ帰る。
「ちょっと、それなくない?」
結衣が珍しく低い声を出す。
「あ、いいからいいから」
千夏は困ったように笑いながら、結衣をなだめる。
今まで無視か短い答えしか返ってこなかった。
少しでも会話が成り立っただけでも良かったと千夏は思っていた。
「じゃあ、やっぱ屋台削る?」
「一番手間かかるのは……かき氷?」
「うん、オーダーきてから作らなくちゃいけないし」
「シロップや氷の補充もあるから忙しいよ」
みんな口々に意見を言う。
「千夏、どうする?」
「かき氷は……なしにしようか」
教室が静かになった。
誰も諦め顔で反対しない。
「かき氷、やるよ」
誰かの声がした。
声の方を向くと路木が机から顔を上げている。
「路木さん?」
「私が、かき氷やるっつってんの」
「本当!?」
「……文句ある?」
「ありがとう!」
千夏は思わず路木に駆け寄った。
「……うざ」
彼女の目が泳ぐ。
路木はその後、ぽつりぽつりと話してくれるようになった。
両親が忙しく、小さい弟や妹の面倒を一人で見ていること。
その子達のために、夏休みはほぼ毎日かき氷を作っていたこと。
家にも電動の機械があるから当日持ってきてくれると約束してくれた。
「どうして気が変わったの?」
「かき氷が外されるの、我慢できなかった」
「路木さん、かき氷好きなんだね」
「……かき氷に罪はない」
路木の一言に、みんな笑った。
路木一人が、「変なこと言った?」と不思議そうに首を傾げていた。
──
そして、いよいよ文化祭の前日準備。
今まで用意した物を教室に飾り付けする。朝からクラスは大騒ぎだった。
「さぁ、もうひと頑張りだよ!」
結衣が大声を出す。
「お疲れさまです!」
千夏が担任から差し入れられたペットボトルのお茶をみんなに配る。
男子生徒分の法被、女子生徒分の浴衣が届いた。
「私、この法被!」
「結衣さん、女子は浴衣だよ?」
「やだ!祭りは法被!」
手作りの屋台や提灯が教室に並ぶ。
入口に段ボールで出来た鳥居を立てる。
白いマーカーで点々と散らした黒い模造紙で窓や天井を覆って夜空に変えた。
部活や塾で準備に参加出来なかったクラスメイトも、当日は少し手伝えるとグループメッセージが来た。
「結局、全員参加じゃね?」
結衣が目を丸くする。
「できる人が、できる事を、できる時にやればいいと思います」
「千夏……いつの間にか立派な事を言えるようになって……」
「保護者か!」
会話を聞いていた男子生徒がツッコミを入れる。
笑い声が教室に広がる。
──
『閉門時間です。生徒は速やかに下校してください』
アナウンスが流れる。
気づけば準備は外が真っ暗になるまでかかった。
「……出来たね」
「うん」
最後まで残っていたクラスメイトたちと『夜の神社』になった教室を見ている。
『ガチでエモい!!アオハル縁日カフェ!浴衣で映え確定♡インスタ超バズのフォトスポットもあるよ!!』
発表の時に結衣と千夏が見せた、巻物のように長い紙を看板代わりに廊下の壁に張った。
──
千夏は家の玄関をくぐる前に向かいのアパートを見あげた。
悠真の部屋は電気がついている。
土日は仕事があるらしく、見に来てくれないのは残念だけど……実行委員になってから、たくさん相談に乗ってくれた。
「お兄様。ちゃんと、みんなの話を聞けました」
小声で呟き、軽く頭を下げる。
いよいよ明日。
夢中で走りきった感じがした。
でも、ここからが本番だ。
──続く
コメント
3件
ついに次回は文化祭ですね🥰 クラスみんなで最高の思い出にしてほしいです✨
うわ、この話めっちゃ良かった…!千夏が路木さんに声かけるシーン、ドキドキしたよ。「うざ」って返されて凹むけど、それでも引き下がらないところが千夏らしいし、あとで路木さんが「かき氷に罪はない」って言いながら手を挙げるところ、めっちゃグッときた。家庭の事情でかき氷作ってたエピソードも刺さるな…。全員参加じゃなくても「できる時にできることを」って千夏の考え方、いいよね。明日の本番が楽しみすぎる!
#大人の恋
鷹槻れん

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当麻月菜
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