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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「ん…」

鼻から甘い息を吐いて、僕の肩が震えた。

唇に触れた柔らかい物はすぐに離れ、リアムが僕を見つめながら頬を撫でる。

「フィー…好きだ」

「……」

僕は答えることが出来なかった。

だって好きというものがどういうことか知らない。リアムの傍は心地よいけど、それが好きという感情からきてるのかわからない。それに…僕は男だ。僕を女と思って好意を向けてくれるリアムと結ばれることはない。

だから本当は、今も押し返すべきだった。触れさせてはいけなかった。だけどなぜか僕は動けなかった。リアムにキスされても嫌じゃなかった。むしろもっと触れていたいとさえ…。

「……え?」

「ごめん…嫌だった?」

「…リアムのばか」

「えっ?ごめんっ!」

リアムが慌てて上半身を起こし、あたふたと焦っている。

僕はリアムをにらみつけながら、ドキドキと高鳴る鼓動に気づかれないように、ゆっくりと呼吸を整えた。

もっと触れていたいってなに?どういう感情?ああそうか。姉上ともっと話したいとかラズールに傍にいて欲しいとかと同じ感情なのかも。そっか…。僕はリアムを家族みたいに思ってるのかな。

そう考えたら何だか滑稽こっけいになって、僕はふふっと吹き出してしまった。

「フィー?怒ってない?」

「うん。びっくりしたけど怒ってないよ。でももう、僕の断りなくするのはやめて」

「くっ…わかった。次からは断りを入れてからにする」

「うん、そうし…て?」

あれ?これって断りを入れたならキスしてもいいってことじゃないか!僕はなに頷こうとしてるの?

僕も慌てて起き上がり、両手を胸の前で交叉させる。

「違っ!今のは間違い…っ」

「駄目だ。もう言質げんちをとったぞ」

リアムが僕の両手を掴み太陽のように明るく笑う。その顔がとても眩しくて目がくらくらする。

僕は両手を掴まれたまま顔を伏せた。しかしすぐに耳朶じだに何かが触れて「フィー」と楽しそうな声がする。リアムの唇だ。僕は逃れるように反対側に頭を逸らした。するとあらわになった首を強く吸われた。

「あっ…」

「甘…」

何度も何度も吸われてついに我慢ができなくなった僕は、両手に力を込めてリアムの胸を押した。

リアムは押されるままに僕から離れ、両手を合わせて再び「ごめん」と謝る。

「フィーが可愛いし甘い匂いがして我慢できなかった。調子に乗った。本当にごめん。フィーがいいって言ってくれるまでもう触れない」

「ほんとに…?我慢できるの?」

「うっ…できる!」

黙っていればとても美しく凛々しい姿のリアムが、ベッドの上で正座をして僕に謝ってる姿が可愛くてとても面白い。僕は片手で口元を押さえ、思わず声を出して笑った。

僕を見てリアムの腰が浮き手を伸ばしかけたけど、ギュッと拳を握りしめて耐えていた。本当に約束通りに我慢している姿に、僕は目を細めて笑い続けた。



翌朝、賑やかな街を出て大通りを外れ、人があまり通っていない細い道へと入った。

王都に向かうにしてはずいぶんと寂しい道だ。それにリアムから逃げるには、人通りが多い方が都合がいい。だからもしリアムが気の向くままに進んでいるだけなら、再び大通りに戻って欲しいと思い馬をリアムの隣に並べた。

「ねぇ、どこに行くの?この道の先にリアムの城があるの?」

「ん?ないよ」

「えっ?城に戻ってるんじゃないの?」

「ああ。まだ戻らない」

「じゃあどこに…」

「フィーのイヴァル帝国とは反対側のトルーキル国に行く」

「…どうして?」

「俺は諸国を旅していると話しただろう?イヴァルとその向こう側の国には行ったが、反対側はまだだ。だから俺の妻になるのはもうしばらく待っていてくれ」

僕はロロの手綱を引いてリアムの馬の後ろに下がった。

それを見たリアムも手綱を引き、僕の隣に並ぶ。

「どうした?そんなに早く俺の妻になりたかったのか?ふむ、フィーがどうしてもと言うならすぐに城に戻って式を挙げても」

「違うよ」

「え?」

このまま放っていたら本当に城に戻って式を挙げそうな勢いだ。

僕はロロの足を止めると、まっすぐにリアムの目を見つめた。

「リアム、僕はリアムの妻になると承諾していない。だから旅が終わってもリアムの城には行かない。なんなら旅の途中で僕を放り出してもらってもいい」

「嫌だ」

「…え?」

リアムは馬の身体が触れるくらいにピタリと寄ってきて、左手で僕の右手を握りしめた。

「俺はフィーを放さない。放したくない。傍にいて欲しい。妻になって欲しい。でも…無理強いはしない。フィーがその気になってくれるまで待つ。だから…一緒に来てくれ」

「リアム…」

あまりにも真剣な眼差しに、僕はつい小さく頷いてしまった。

途端にリアムが安堵したように笑って、顔を寄せて僕の頬にキスをする。

「あっ!我慢するって言ったのに!」

「無理だっ!フィーが可愛すぎて無理だっ」

僕はリアムの顔を押し退けた。しかしその手を掴まれて手の甲にもキスをされてしまう。唇が触れた所が熱くてこそばゆくて、僕は慌てて手を引いて胸の前で固く握りしめた。

リアムがポンっと僕の頭を軽く撫でてゆっくりと進み出す。

「さっ、行くか。この先少し怪しい森を抜ける。俺から離れるなよ」

「…わかってる」

僕は先を行くリアムの広い背中を見ながら、胸の中がかゆいような変な気持ちになって、トントンと拳で胸を叩いた。

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