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「あははは! そうよ! 日本人がみんなFDになればいいんじゃない! そうすれば、あたしたちは特別な存在じゃなくなる。もう差別されなくてすむじゃない! キャハハハハハ……キャハハハハハ!!!」
アベの光線銃がもう一度光を放ったが結果は同じだった。フーちゃんは悪魔のような笑顔をアベに向けて勝ち誇る。
「無駄だって言ってるでしょ! キャハハハ……ガハッ!」
どこかでビンという音がして、突然フーちゃんの声が止まった。思わず音のした方向の視線をやった陽菜は再び愕然とした。そこでは玄野が地面に転がっていた弓を構えて立っていた。矢は見当たらない。という事は……
あらためてフーちゃんの方に視線を移す。そこには陽菜が、どうか思いすごしであってくれ、と願った光景があった。フーちゃんのお腹の真ん中辺りに深々と一本の矢が突き刺さっていた。それを見たアベが叫んだ。
「そうか! 実体弾! エネルギー兵器は防げても、実体のある物体は遮蔽できない!」
玄野が二本目の矢をつがえた。それに気付いた陽菜は玄野を止めようと走りだし、顔だけ横に向けてフーちゃんに叫んだ。
「フーちゃん! 逃げろ!」
だが、陽菜の脚は思わず止まってしまった。ふらふらと体を揺らしながら、フーちゃんはその場に真っすぐに立ち、そして両腕を開いて下ろして目を閉じていた。その顔にあったのは、さっきまでの悪魔のような狂った笑いではなかった。まるで聖母マリア像のような優しい穏やかな頬笑み。
その変わりように気を取られた一瞬、陽菜の動きは止まり、そして再びあのビン!という音が響いた。二本目の矢はまっすぐにフーちゃんの左胸に吸い込まれるように命中した。フーちゃんの体が地面に倒れ込んでいく様子がまるでスローモーションのようにゆっくりと陽菜の目に刻まれた。
アベがすぐに巨大な金属容器に向かって走り出し、陽菜は今さらながら玄野の体に体当たりした。玄野の体はぐらりとよろめいたが、そのまま陽菜を抱き起こすように態勢を立て直す。陽菜は両手で玄野の胸ぐらをつかんで怒鳴り散らした。
「ゲンノ! てめえ、自分が何やったか分かってんのか?! なんでだよ? おまえ、フーちゃんが好きだったんだろ? 惚れてたんだろ?」
「だからこそ、だよ、陽菜」
予想もできなかった返答に陽菜は思わず手の力を抜いた。玄野は倒れたフーちゃんを見つめながら、うわ言のように言った。
「あのままじゃ、フーちゃんは大量殺人鬼になってしまった。自分の好きな女の子がそんな物になるところを、目の前で見たい男なんていないよ。それならいっそのこと、俺のこの手で……」
それから玄野は弓を投げ捨てふらふらとフーちゃんの方へ歩き出す。玄野の胸元をつかんでいた陽菜の手は振り払うまでもなくはずれて垂れ下がった。幽霊のような足取りで歩いて行く玄野につられるように陽菜もフーちゃんに近づいて行った。
地面にうつぶせに横たわったフーちゃんの体を玄野が背中から抱き起こす。陽菜は前からフーちゃんの顔を両手ではさんで持ちあげた。フーちゃんはもう息をしていなかった。その顔は、もうさっきの狂気の表情は跡形もなく消えて、まるで幸せな夢でも見ながら眠っているかのような、安らかな死に顔だった。
痛々しく腹と胸に刺さった矢を陽菜は引き抜こうとしたが、何かに引っかかったようになかなか抜けない。玄野が陽菜の手をそっとどけて、二本の矢を引き抜いた。アベの独り言が二人の背中から響いて来る。
「よし。爆破装置ははずした。後は……い、いかん!」
ギギギという耳障りな音がした。振り向いた陽菜と玄野は、放射性物質が入った卵型の金属容器が真ん中から割れるように開いて行く。アベは数秒その容器をあちこち触ってみたが、すぐに二人の方を振り向いて叫ぶ。
「ここから離れろ! 早く! 走れ!」
玄野はフーちゃんの遺体を背中に背負い、駆け付けた明雄が玄野の腕を引っ張って走りだす。陽菜もアベに急かされて全速力で近くの岩場めがけて走った。
あのギギギという音は十数秒続き止まった。百メートルほど離れた岩場の陰に身を隠し、金属容器の様子をうかがうと外側の金属の殻が、二枚貝が上を向いて口を開いた様な中途半端な開き方で止まっていた。
アベが例の扇子型のコンピューターを開いて、金属容器を宙に浮かんだスクリーンに映し出す。そのスクリーン越しに見ると、容器の開いた口から赤と緑の光線が目も眩むほどの勢いで上に向けて放出されていた。おそらく放射線を可視化した映像なのだろう。アベは宙に浮かんだ光のキーボードを叩きながらまた独り言を言い始める。
「単位が……そりゃマイクロシーベルトなはずはないな。ミリシーベルト……も、やはり駄目か。シーベルトでは……毎時、100、200……こりゃ致死量どころか即死するレベルだな。ん? 馬鹿な!1000……2000……駄目だ! 振り切れた!」
「どうしたんです?」
明雄がたまりかねてアベに声をかける。アベはこれまでの冷静な様子とは違って青い顔と震える声で答えた。
「近くに寄っただけで即死するレベルの放射線量だ。容器が完全に開いていないから、上向きにしか放射線が飛んでいないのが不幸中の幸いだが。これは大急ぎで22世紀の管理局本部に連絡して回収してもらわねば……」