「えっ、家賃3000円だって!?」
お金がなくて家賃の支払いに困っていた俺は、不動産屋の店頭で見かけた物件に目をむいた。
週に5日、派遣で働いている俺。
けど、お金がない。
理由はギャンブルだ。
勝つときもあるが、負けるときのほうがはるかに多い。
けど、勝ったときの高揚感が忘れられなくて、ついつい手を出してしまう。
次は勝つんじゃないか。
ここでやめたら、負けたまま。
次で勝てば、負けを取り返したうえに、さらにプラスになる。
そう考えて、さらにお金をつぎ込む。
しかし、そう簡単にはいかない。
負けてしまうのだ。
結局、給料だけではやっていけず、消費者金融に駆けこむことに。
現在、合計4社から限度額ギリギリまで借りている。
先日はもう1社からお金を借りようとしたのだが、ついに断られてしまった。
そして、家賃を半年以上滞納。
「1カ月以内に出て行ってちょうだい」
大家のおばあちゃんから、そう宣告されてしまった。
友だちや親を頼ろうにも、俺が借りたお金を返さないせいで、縁を切られてしまっている。
さて、どうしようかと困っているとき、家賃3000円という驚きの物件を見つけてしまったのだ。
俺は不動産屋のドアを開けた。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
愛想のよい営業マンが俺に椅子に座るように促した。
「どういうお部屋をお探しですか?」
俺は店頭で見かけた物件のことを切り出した。
「けど、家賃3万円の間違いじゃ…」
都内だから、3万円でも十分安いのだが…。
「いえ、3000円ですよ。敷金・礼金もいただきません」
不動産屋の営業マンはそう言い切った。
俺は早速、部屋を見せてもらうことにした。
*****
風呂なし、トイレ共同。
ボロボロで汚い部屋を想像していた。
けど、住む場所がないよりはマシだ。
俺は覚悟していた。
なのに、案内された部屋は──。
ワンルームだが、風呂もあればトイレもある。
フローリングで、リフォームしたばかりのようできれいだ。
築年数もそんなに経っていなさそうじゃないか。
なんでこんなに安いんだ?
俺が不審がっていると、それを察した営業マンが──。
「アレなんですよ、アレ」
そう言い出した。
アレってなんだ?
営業マンは両手を前に突き出して、だらりと下げて見せた。
「あ、それって…」
「半年前に、この部屋で女子大生が殺されましてね」
そういえば、女子大生バラバラ殺人事件はこの辺りで起こったんだっけ。
確か…元恋人に包丁で滅多刺しにされたあげく、切り刻まれたんだった。
あまりにもショッキングな殺され方だったんで、ワイドショーでも何度も取り上げられたから覚えている。
あ、あの事件はココで起こったのか。
「事故物件ということで家賃をぐっと下げたところ、すぐに入居者が見つかったんですが…。その入居者も自殺してしまって…」
「えっ!」
俺は驚いた。
さらに営業マンは続けた。
「そして、次の入居者もやっぱり自殺してしまって…」
俺は言葉を失った。
「ここまで続くと、女子大生の霊に呪われているんじゃないかって噂になって」
そりゃそうだろ。
「不動産屋には、事故物件で何があったのか、伝える義務があるんですよ」
「…………」
気持ち悪いといえば気持ち悪い。
けど、都内で3000円は安い。
この安さには代えられない。
しかも、エアコン、冷蔵庫つきで、インターネット無料。
温水洗浄便座があるのも痔主の俺にはありがたい。
天国じゃないか、ココ。
家賃が浮けば、その分、ギャンブルに。
いやいや、カードローンの返済に充てられる。
俺は即決で契約を結んだ。
*****
そして、引越し当日の夜──。
「霊なんて出やしないだろう。そもそも、そんなもん信じてないし」
俺は強がっていた。
けど、内心びくびくしていたんだ。
なかなか寝つけず、やっとうとうとし始めたころ、何かの気配を感じて、俺は目を開けた。
すると、俺が寝ている布団の真横にそいつがいたんだ。
スーツ姿の男が首にロープを巻いて──。
男は俺の顔をじっと覗き込んでいた。
じっと──。
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