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「……とりあえず、小口の領収書と金庫の保管ちゃんとしましょう。入金処理も雑費値引きが多すぎて本社でも困ってたみたいですし」
「何やねん、いきなり来て偉そうに」
ほのりの言葉にボソッと反応を返したのは、やはり瀬古。
「……はい?」
「うちはどんな頑張ってやってもや、できてんねやろ? って人は増やしてもらえんし、本社や関東の奴らみたいには給料良くないしな」
言いながら腕を組み、鋭くほのりを睨みつける。確かに現地採用や中途採用と本社やその近辺勤務の人間では違いがあるのかもしれないが。
「金貰ってる奴らの方が楽してんねやから」
「いや、私に言われても」
「ってゆうやろ? ほんならいらんこと言わんで中田さんに指示されたことだけせぇや」
瀬古はほのりと言うよりも、関東支店や本社が気に食わないのだろうか?
だとしても、今それを盾に話を折るのは違うのではないか。
「瀬古さんねぇ……」
「まあまあまあ! とりあえず吉川さんの話聞きませんか。お願いせなあかんことばっかりになりそうなんやし」
思わず低い声が出たほのりを遮って場の空気にそぐわない明るい声。
肩に触れた手が、ほのりを一歩下がらせた。木下の肩が目の前だ。
なんだか少し、背中に守られてる気がしてキュンとしてしまう。
(って、違う違う!! なんでもそっちに結びつけないでよ私!!一人で生き抜くんでしょ!!)
ほのりはない胸をトントン叩きながら、己を戒める。
(あれ、静かだ)
瀬古は木下の言葉を意外にも素直に聞き入れたのか、それ以上の発言をしなかった。
訪れた沈黙に、言われたなら言い返してしまう自分の悪い癖を猛省しつつ、ほのりは再び声を発した。
「失礼な言い方をしてすみません」
「いやいや、それ瀬古さんやし」
「なんやお前誰の味方や!」
間髪入れず瀬古が木下の頭を軽く叩いた。
「え? めっちゃ野暮ですやん瀬古さん、女の人の味方に決まってるやないっすか」
ニヤリと答える木下に瀬古の口元はひくひくと引き攣っている。
「お前……」
もう一発頭を叩かれた木下は泣き真似しつつ瀬古に訴えた。
「まあ味方とかそんなん抜きにして、吉川さんが事務方触ってくれたら瀬古さんも早く帰れるようになるでしょ。僕まだまだ頼りっぱなしやし、瀬古さんが余裕持ってなうち回らんから」
「……お、お前って奴はよぉ」
感激した様子の瀬古は天を仰ぎ目頭を抑えているではないか。
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