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あや
冷たい水で何度も顔を洗ったはずなのに、頬の熱はなかなか引いてくれなかった。鏡に映る自分の顔は、どう見ても寝不足で疲れ切っている。
(こんなの、絶対にナオミさんに馬鹿にされる……)
リビングに戻ると、ダイニングテーブルにはナオミが用意してくれた朝食がすでに並んでいた。
黄金色に焼き上がったトーストと、湯気を立てるコーンスープ。瑞々しいサラダには手作りのフレンチドレッシングがかかっている。そして中央には、香り高く立ち上るブラックコーヒー。そのカップは、同居が決まった時にナオミがわざわざ買ってくれた、淡いピンク色の可愛いマグだった。
テーブルの向こう側では、ナオミが優雅にコーヒーを啜っている。
化粧をしていない素顔なのに、やはり整っていて、溜息が出るほど綺麗だ。
「座りなさいよ。折角アタシが作ってあげたのに、冷めちゃうじゃない」
「あ、はい。ありがとうございます」
言われるまま席につき、フォークを手に取る。一口含めば、コーンスープの優しい甘みが口の中に広がっていった。美味しい。けれど、昨夜の出来事が邪魔をして、どうしてもナオミの顔を正面から見ることができない。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「いえ……そういうわけでは……」
「じゃあなぁに? まさか、たかがキス一つで眠れなくなっちゃったの?」
「……ッ!」
頬杖を突きながら、意地悪くニヤリと口角を上げるナオミ。
穂乃果は喉の奥から小さく声を漏らし、弾かれたように俯いてしまった。
「ふぅん。そうなんだ。へぇ……」
面白がるような声音に、穂乃果の頬は怒りと羞恥で赤く染まる。
「もうっ! 揶揄わないでください!」
「でもまぁ……あながち冗談ってわけでもないのよね。それはお互い様みたいなものだし?」
「え……?」
ナオミの意外な一言に、思わず顔を上げてしまった。
ナオミは穂乃果の視線を真正面から受け止めながら、僅かに睫毛を伏せる。
「昨夜のアタシは、どうかしてた。その……あんまりにもアンタが無防備だから……」
そこまで言って、ナオミは何かを思い出したように言葉を飲み込んだ。
「もう忘れなさい。私も忘れるから」
「で、でも……」
「忘れたくないの? それって、もっと先のことを期待してたって受け取っていいのかしら?」
意味深な言葉に、心臓が跳ねる。もっと先のことって……!
思考が一瞬停止し、次の瞬間には限界を超えて爆発した。
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