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あや
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「そそそっ、そんなわけありませんっ! 忘れるには時間がかかるだろうな、って思ったから困ってるんですっ!」
早口で捲し立てたあと、猛烈な恥ずかしさに襲われて俯いたまま黙ってしまう。
ナオミの表情は見えないけれど、きっと呆れているに違いない。そんな不安を打ち消すように、頭上から弾けるような声が降ってきた。
「あははっ!」
「なっ、ち、ちょ……っ! なんで笑うんですかっ!」
顔を真っ赤にして抗議する穂乃果を、ナオミはなおも愉快そうに眺めている。
「だってアンタ、素直すぎるんですもの。忘れるのに時間がかかるなんて、そんなにアタシのキスがよかったの?」
「~~~っ、もう! そういうところですっ!」
悔しくてトーストを大きく一口齧ると、ナオミは満足げに自分のコーヒーを飲み干し、ふっと表情を切り替えた。
「ま、いいわ。アンタ、今日は休みでしょ?」
「え、あ、はい。そうですけど……」
「だったら、早く食べてちゃっちゃと着替えて支度して。ちょっと付き合ってほしいところがあるの」
「え……付き合うって、どこにですか?」
「いいから。そんな酷い寝不足顔で一日中家にいたら、ますます変なことばっかり考えるでしょう? それとも今日は何か用事でもあった?」
「い、いえ……ない、です」
「じゃぁ、決まりね」
有無を言わせぬ口調で促され、穂乃果は半分残ったサラダを急いで口に放り込み、自室へと逃げ帰った。
バタン、とドアを閉めて背中を預ける。
心臓が、先ほどよりもさらに激しく、服の上からでもわかるほどドクドクと脈打っていた。
(付き合ってほしい……。え、これって……もしかして、デートなんじゃ!?)
一度浮かんでしまったその単語は、呪文のように穂乃果の脳内を支配し始める。
女に興味がないはずのナオミが、あんなキスをした翌朝に、二人で出かけようと誘ってきた。これはもう、そういうことではないのだろうか。