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#Paycheck
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
「……止まらなきゃいいじゃん」
その一言で。
チャンスの中に残ってた最後のブレーキが、静かに切れた。
「……ほんと、後悔すんなよ」
もう一度だけ確認するみたいに、低く言う。
エリオットは答えない。
ただ――
ぎゅっと服を掴んで、離さない。
それが答えだった。
一瞬の静寂。
次の瞬間――
距離が消える。
さっきまでの“探る感じ”じゃない。
迷いも、遠慮もない。
ただ、お互いを確かめるみたいな距離。
エリオットの思考がじわじわ溶けていく。
でも、嫌じゃない。
むしろ。
安心に近い感覚。
(……あ)
また、胸がぎゅっとなる。
苦しいのに、心地いい。
チャンスの手を、自分から引き寄せる。
離れないように。
逃げないように。
「……っ」
声にならない息が漏れる。
シャワーの音と混ざって、消える。
時間の感覚が曖昧になる。
どれくらい経ったのか分からない。
ただ――
お互いの温度だけが、はっきりしてる。
やがて。
ほんの少しだけ距離が開く。
息が乱れたまま。
チャンスが額を軽く当てる。
「……やばいな」
小さく笑う。
余裕なんて、もうない声。
エリオットはまだぼんやりしてる。
でも。
そのまま、ゆっくり腕を回して――
強く抱き締める。
「……離れたくない」
こぼれた言葉。
チャンスが一瞬だけ止まる。
それから。
小さく息を吐いて、抱き返す。
「……俺も」
短い一言。
それだけで十分だった。
シャワーの音はまだ続いてる。
でも二人は、しばらくそのまま動かない。
湯気の中で。
体温だけを確かめるみたいに。
少しずつ、呼吸が落ち着いていく。
エリオットは目を閉じたまま、小さく笑う。
「……朝からなにしてんの」
ぼそっと。
チャンスが少しだけ笑う。
「お前が言ったんだろ」
「……言ったけど」
でも。
後悔はしてない。
むしろ――
さっきより、ずっと落ち着いてる。
胸の奥が、あったかい。
エリオットはそのまま、少しだけ顔を寄せる。
「……あとでって言ったのに」
小さく拗ねた声。
チャンスが肩越しに笑う。
「今も“あとで”だろ」
「意味わかんない」
でも。
そのやり取りすら、心地いい。
朝の光と、湯気と。
少しだけ乱れた呼吸。
全部が混ざって。
ただ甘い時間だけが、静かに続いていた。
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