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第3話【隠蔽古代魔術での潜入と裏切りの五感】
静寂が支配する、深夜のミラディア帝国王城。
厳重な警備兵たちの視線も、張り巡らされた何重もの結界も、その「影」を捉えることは決してできなかった。
(インビジブル・ノヴァ――探知不能の隠密魔術)
魔界の最高峰に位置する古代魔術を行使し、自らの気配、魔力、音、果ては存在そのものを世界の認識から完全に消し去った魔皇帝アイラナは、音もなく皇帝の執務室へと侵入していた。
密偵の報告通りなら、この部屋のどこかに「彼」がいるはずだ。
800年間、一日たりとも忘れたことのない、
あの美しくも憎らしい大天使が。
(……見つけた)
月の光が差し込む執務室の奥。
ソファーに背を向け、だらしなく身を横たえている男がいた。
薄黄緑色の美しい髪。
細身ながらもしなやかな筋肉を宿した背中。
間違いない。
アイラナの胸が、歓喜と、長年燻り続けた情熱で激しく昂ぶる。
アイラナは気配を完璧に断ったまま、背後から音もなく歩み寄った。
手元には、大気から練り上げた漆黒の魔力刃。
殺すつもりはない。
だが、その煩い喉元に刃を突きつけ、驚愕に染まるその超絶美形な顔を見てやりたかった。
“今度こそ”
私の執着のすべてをその身に刻みつけるために。
間合いは、あと三歩。二歩。一歩――。
インビジブル・ノヴァは完璧だ。
絶対に気づかれるはずがない……
アイラナが刃を突きだそうとした、その刹那。
「……ねえ、アイラナちゃん。隠密魔術は完璧だけどさ」
お気楽で、けれどぞっとするほど甘い声が、静まり返った部屋に響いた。
ハッとした時には、すでに遅かった。
寝そべっていたはずのアーモンドの姿が、かき消えるようにブレる。残像だった……
次の瞬間、アイラナの背後に、冷や汗が出るほどの圧倒的なプレッシャーが音もなく出現する。
「君のその、僕を焼き殺しそうなほど一途で熱い『視線』までは、魔術でも隠しきれてないよ?」
ドン、と背後からソファーの背もたれに押し付けられる。
気づけばアイラナは、アーモンドの長い腕によって壁ドンならぬ「ソファードン」の形で完全に退路を塞がれていた。
驚愕に目を見開くアイラナの至近距離に、あの顔があった。
睫毛の長い流し目。
妖しく細められた、底知れない薄紫色の瞳。
そして何より、彼の片耳で揺れているのは――アイラナ自身の瞳とまったく同じ、燃えるようなレッドダイヤモンドのピアス。
「――っ、レミエル……!」
21
ぽんぽんず
「ひどいなぁ、人間界ではアーモンド皇帝って呼んでよ。
……でも、800年ぶりに君に名前を呼ばれるのも、悪くないね」
アーモンドはにこりと微笑んだ。
しかし、その薄紫色の瞳の奥に宿っているのは、飢えた獣のような、自他ともに認める『鬼畜ドS』の悦楽の光だ。
完璧な隠密を破られ、手も足も出ずに組み伏せられている魔皇帝の姿が、彼のサディスティックな心を最高に刺激していた。
アイラナは悔しげに奥歯を噛み締めながらも、そのレッドダイヤモンドの瞳で、真っ直ぐにアーモンドを睨みつける。
「私のインビジブル・ノヴァを見破るとは……。相変わらず、癪に障るほど圧倒的な男」
「お褒めに預かり光栄だよ。さあ、800年越しの続きを始めようか」
アーモンドはアイラナの顎を細い指先でクイと持ち上げると、極上に美しい流し目をさらに細めて囁いた。
「アイラナちゃん。――今度こそ僕と、朝まで踊ってくれるよね?」
かつての戦場で刃を交えた二人の運命が、夜の王城で、ついに情熱的に交錯した瞬間だった。