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ぽんぽんず
第4話【不意打ちの口づけと、初恋の逃避行】
「今度こそ僕と、朝まで踊ってくれるよね?」
至近距離から注がれる、アーモンドの流し目と甘い吐息。
ソファーに押し付けられたまま、アイラナは必死に理性を保とうとレッドダイヤモンドの瞳を鋭く尖らせた。
「ふざけないで。私はお前をこの手で組み伏せるために――」
強気な言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。
(……っ!?)
唇に、柔らかいものが触れた。
本当に、ただ触れるだけの、羽毛のように軽い口づけ。
けれど、800年のあいだ頑なに孤独を守り、彼だけを想い続けてきたアイラナにとって、それは世界がひっくり返るほどの衝撃だった。
頭の中が真っ白になり、言葉が、思考が、完全に停止する。魔界を統治する冷徹な皇帝としての顔はどこかへ吹き飛び、ただ呆然とアーモンドを見上げることしかできない。
そんなアイラナの動揺を、アーモンドが見逃すはずがなかった。
彼は顎を掴んでいた指先を、愛おしそうにアイラナの頬へと滑らせる。その薄紫色の瞳に、獲物を完全に手玉に取った鬼畜ドSの悦楽をこれでもかと滲ませて、くすりと妖艶に微笑んだ。
「……可愛いね? アイラナ」
その掠れた声が鼓膜を揺らした直後、今度は深く、逃がさないように唇を塞がれた。
「――んっ!?」
一度目とは違う、熱く、すべてを奪い去るような深い抱擁と口づけ。
片耳のレッドダイヤモンドのピアスが、アイラナの赤く染まっていく顔を照らすように怪しくきらめいている。
「あ、……っ」
二度目のキスが離れた瞬間、アイラナの顔は、自身の瞳の色よりも鮮やかな深紅に染まっていた。
心臓が破裂しそうなほどに脈打ち、身体中が熱い。これ以上この男の前にいたら、心も身体もすべて壊されてしまう――。
圧倒的な羞恥と、キャパシティを越えた恋心に突き動かされ、アイラナは本能的に魔力を爆発させた。
「っ、この、悪魔ッ……!!」
「おっと、元大天使なんだけどなぁ」
クスクスと笑うアーモンドの腕の隙間をすり抜けるように、空間がぐにゃりと歪む。
アイラナが全魔力を傾けて発動した、強制空間転移(テレポート)。
まばゆい光とともに、アイラナの姿は王城から完全に掻き消えた。
あまりの動揺に、自分が統治する安全な「魔界」へと、一目散に逃げ帰ってしまったのだ。
静まり返った執務室に、ぽつんと一人残されたアーモンド。
彼は自分の唇を細い指先でそっとなぞると、誰もいない空間に向けて、この上なく愉しげな声を響かせた。
「あはは! 逃げちゃった。……あーあ、本当に可愛いなぁ。800年前と変わらずで安心したなぁ~……あんなにピュアなままだなんてさ」
ソファに深く腰掛け、彼は机の上の器からアーモンドを一つ、ポリリと口に放り込む。
その薄紫色の瞳は、退屈の消え去った世界を心から愛おしむように、ギラリとドSな光を放っていた。
「待っててね、アイラナちゃん。今度は僕が、魔界に遊びに行ってあげるから」