「ば、馬鹿め、魔王いや魔神とも呼ばれる我にこの程度の拘束が通用する訳があるまい! さ、さあ、今の内に拘束を解け、な? 悪い様にはせぬ、な、な、聖女よ!」
縛られたままのアスタロトの依頼にコユキの大軍の中から返事が響く。
「ふふん、シヴァ君に聞いたわよ! アンタや故ネヴィラス君が使う『反射』って一見完璧な様だけど、自分が相手に与えた攻撃も自分に返っちゃうそうじゃない! さて我慢強さを見せなさい♪ 何しろこっちは攻撃手段があるからね♪ どこまで辛抱出来るかな? なはは」
「ふ、ふん、ハッタリは止めて置くんだな、わ、我への攻撃は確実に攻撃者へと反射される、の、だ、クっ、貴様等には、我を傷付けることなど――――」
「『聖女と愉快な仲間たち』にはね、『神速』は一人じゃなかった、って事よ! 『加速(アクセル)』」
姿を掻き消したコユキは大軍の残像の中に紛れただけでなく、『気配隠蔽(極小)』の効果も相まって、アスタロトにはその気配すら与える事は無かったのである。
「えい! 『加速』」
「ぐあぁ!」
「やぁ! 『加速』」
「ギギギっ」
「それ! 『加速』」
「イタタタタっ!」
「とう! 『加速』」
「ああああああ!」
サクサクサクサクサクサクと、姿を現す度にかぎ棒を刺し込んでは一瞬で移動してしまうコユキは、全くの無傷で攻撃をし続けていた。
メッチャ速く動けば当たらないよ、それがオルクスがその身を挺(てい)して伝えたもう一つのヒント、リフレクションのほんの僅かなタイムラグの存在であった。
チロの毒針やオルクスの斬撃、コユキのデスニードルに比べると、肉体の修復に掛かる時間がやや長いようだ。
特にコユキ左手のかぎ棒が刺された場所からは大量の魔力が霧と化して消失していた、恐らくこちらがスプンタ・マンユなのだろう。
痛みと屈辱に骨だけの歯を食いしばって耐えるアスタロトの耳に更なる絶望の声が届く。
「コユキ様、お疲れでしょう? 交代しますよ! 少し休んでいてください! わん!」
「アンタ等大丈夫? 特にチロちゃん毒受けてたでしょ? 無理しちゃダメだよ?」
「いやぁ、合体しちゃえば個々の受けた怪我とか一瞬で治っちゃうんですよ、ご心配なく! それに交代で攻撃した方が休む間も与えずに、なんなら永久に責め続けられるじゃないですか? そうしましょ? わん!」
「んじゃ、代わってもらって腹ごしらえでもするかな♪ あ、ロープ切らない様に気をつけてねえ、ヒットアンドアウェイよ! 頼むわね」
「りょ! んじゃあ、メイスで潰してくか、わん!」
気楽なやり取りと最後の物騒な言葉を聞いたアスタロトは痛みも忘れて叫ぶのであった。
「今度こそハッタリだ! 『神速のオルクス』はまだ回復していない筈だ! 俺に手を出せば攻撃はお前に返るぞっ!」
どうやら三匹の魔狼が合体したらしい人型の灰色狼は青く輝く鬣(たてがみ)をなびかせながらアスタロトの顔を覗き込みながら答える。
「俺は『大口真神(おおぐちのまかみ)』口白(クチシロ)だ! お前には『アセナ』と言ったほうが分かるか? それとも『ウプウアウト』のが分かるのかな?」
「…………ラー」
「ああ、その方が分かるのか、まあこう言う事だ、『聖女と愉快な仲間たち』に神速は二人じゃなかった! てな? それ!」
ゴギャっ!
振るわれたメイスはアスタロトの顔面の骨を派手に砕き、その瞬間ラー、口白の姿は消えていた。
「わんっ!」
メキョッ!
「わんっ!」
ドゴっ!
「わんっ!」
バキっ!
流石は魔狼、いや今は神狼か?
中々にエグイ攻撃を嬉しそうに尻尾をブンブン振りながら続けている……
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