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凍てつく真冬の空の下、仄かに煙る白い吐息も数千を超える人々の犇めく広場では朝霧の如く立ち込めている。古くから悪い風をけしかける魔性も、北の彼方から霜を引き連れる邪な霊も聖なる街ジンテラを遠巻きに見つめるばかりだが、加護の内にある人々の寒さに苦しむ姿を眺めて留飲を下げていた。
しかし白い息を吐き、身を震わせ、手を擦り合わせる人々の心には灰の奥に燻る燠火のような温もりが宿っている。彼らの熱心な眼差しの先には四台の篝火を備えた輿があり、その上では一国と一つの信仰の頂に座す少女、第三聖女敬虔なる反逆者が巣を立ったばかりの若い小鳥のような清らかな声で教えを説いている。
「近頃、とみに寒さが増してまいりましたね。ワタクシも寒さは苦手なのですが、これもまた救いの乙女に見えるための試練と思えば何ほどもありません。それは聖俗に関わりなく、皆さまにおいても同様のことでしょう。信徒の皆様方の働きにより救済機構は日々救済の時の準備を積み重ね、旧王家の皆様方の普請もあってシグニカ統一国はますます発展しております。勿論遠くライゼンの蛮行は聞きしに及んでおりますし、周辺諸国の内政干渉には頭を痛める日々ですが、信仰篤き皆様の堅き真心を打ち砕くには取るに足らない戯れでございます」
聖女ラムゼリカの顔は火照っている。両の頬は林檎のように赤らんでいた。高地の真冬にありながら輿は十分以上に温められており、なおかつ聖女は身動き取れそうもないほどに分厚い毛皮を幾重にも纏い、賢者たちの施した温もりの魔術は幼くも貴い少女に春の野原の日和をもたらしていた。
一方で厳寒の広場にあって誰もが体を小刻みに震わせながら少女の労わる言葉を漏らさず聞き取ろうと真摯に耳を傾けている。まるでその言葉一つ一つが心の内を温める薪であるかのように。
それは聖女がシグニカに積み重なる諸問題について言及し終えた時のことだった。
「低地の疫病をお忘れではありませんか!? 猊下!」声高らかに聖女に訴えたのはラムゼリカよりも少し年上の、まるで冬の川から上がったばかりかのような青白い顔の少年だった。「焼き払われた土地もシュジュニカも風の吹く場所もヒニカも業病に見舞われています! 僕の愛する人々たちが未だ原因不明の流行り病に苦しんでいます! シグニカにおいて疫病に苦しんでいないのは高地だけだ!」
初めは少年に対する非難の声が人々の中から上がった。憎悪と嫌悪が渦になって少年を取り巻いた。しかしその訴えを聞いて、封鎖されているはずの低地から少年はやってきたのだと知って、信仰篤き人々は悲鳴をあげ、背を向け、倒けつ転びつ逃げ出した。全ての信徒が聖女のありがたい教えを授かることのできる広場から散っていった訳ではないが、なお遠くから少年へ罵倒を飛ばす人々しか残らなかった。
「それだけじゃありません。雑穀商人が倒れ、製粉所の石臼は止まり、麺麭の一欠片にありつけない者もいます!」
聖女を守るべき僧兵たちは聖女と少年の間に壁を作るが、その他の僧兵達は剣や槍を向けるだけで動きあぐねていた。
「よしなさい。皆さん、子供相手に武器など持ち出して」と聖なる子供ラムゼリカが母の如くたしなめる。「幼気な少年の悲痛な訴えを無下にすべきではありません。彼もまた己の試練に挑み、運命の向かい風に抗っているのですよ。温かき信徒ならばその障りになるのではなく、その温もりを貸し与えるべきではありませんか?」
もこもこした衣で芋虫のようにのそりと輿を下り、僧兵をかき分けて聖女は少年の元へと赴く。僧兵たちは引き留めようとするが聖女に拒まれれば従うしかない。かといって聖女から離れるわけにはいかない僧兵達は脂汗と冷や汗を流しながら聖女と共に、疫病に塗れた低地からやってきた少年に近づく。遠目から見つめる信徒たちは悲鳴のような歓声のような声をあげる。
聖女は腰を屈め、白い吐息と共に尋ねる。「さあ、お互いに胸襟を開きましょう。貴方の願いをお聞かせください。一体どのようにして疫病に打ち勝とうと言うのです?」
少年は粉雪でも吐き出すように白い息とともに訴える。
「万能の霊薬があるはずです! 怪我も病気もたちどころに治してしまう究極の癒しが! 高地で独り占めにせず低地の人々にも分け与えてください!」
それは知る人ぞ知る究極の癒しの魔法だ。
「なるほど。そういうお考えなのですね。確かに、ごもっともです。かの霊薬ならばどのような病人も治し、その悪寒を止めてしまうことでしょう」青白い顔の少年が希望に瞳を輝かせるが、しかし聖女ラムゼリカは残念そうにかぶりを振る。「ですがそう簡単な話ではありません。簡単な話であれば、既に貴方の願い通りの施策を行っています」
「何が、一体何が難しいのですか!?」
「色々とありますが、そんなことよりも」聖女ラムゼリカは立ち上がる。「貴方には何ができるのですか? お願いして、それで終わりですか?」
少年は悲しそうに悔しそうに、少しばかり頬に赤みをさして訴える。
「何が、何かができるならばやってます! 僕には美味しい麺麭が焼けるくらいで。みんなにまた麺麭を食べて幸せになってもらいたいだけで……」
僧兵達が笑う。麺麭と霊薬が交換されることなどないからだ。
「今はお持ちですか?」
少年はおずおずと革の袋を取り出し、女王に捧げる宝物の如く麺麭を捧げ持つ。
僧兵達が悲鳴混じりに聖女を止めるが、聖女は躊躇いなく麺麭を取って口にした。何重にも纏った毛皮の隙間で満面の笑みが生まれる。
「美味しい! これは美味しいですね! 冷めているのに心の奥から温まるようです。何か秘密があるのですか?」
「いえ、火加減くらいのものです」
「素晴らしい才能ですね! 是非寺院にも卸していただきたいです」
「恐縮です」
「しかし」とラムゼリカは強調する。「当然ですがいくら美味しくても霊薬一瓶にもなりません。ですが、そうですね。麺麭に免じて何故疫病を抑えられないか教えて差し上げましょう。貴方の目と耳で知るといいです。そうです、お名前を聞いていませんでしたね」
「僕の名前は、血肉です」
数日後、少年アトスは救済機構の実務の中心であり、シグニカ政治の舞台でもある議場へとやって来ていた。シグニカの体制が大きく変わってから建てられた新しい建物ながら、既に相応の威厳と重々しい雰囲気を漂わせている。幾人もの聖人、旧王国の王族、貴族の血筋を引く議員たち、そして国家元首たる大聖君血を浴びると聖女ラムゼリカ。錚々たる人々の中でもはや薄汚れてはいないが場違いな少年アトスは小姓のように聖女ラムゼリカの傍に控えていた。
「珍しいじゃないか、ラムゼリカ。君が会議に出席してくれるなんて」大聖君ブリーグシャルトが気さくに呼びかけると聖女ラムゼリカは微笑み返す。
「ブリーグ。ワタクシ、会議に出席するのに招待状がいらないなんて知りませんでした」
ふくよかな男ブリーグシャルトは腹を揺らして笑う。飽きるまで笑った後、じろりとアトスを見る。
ラムゼリカが紹介する。「こちらは勇敢にして懐温かきアトス。シグニカ、ひいては救済機構の将来を左右する男です。今日は見学ですね」
「そうか。よろしくな、小さな聖者どの。ラムゼリカが言うならばそうなのだろうが、一体我々にどんな運命を持ってきたんだね?」
ラムゼリカが代わりに答える。「勝利と敗北です。他にあろうはずもありません」
時間になると大聖君ブリーグシャルトは立ち上がり、議場を睥睨して開場を宣言する。その日の会議は緊急的に開かれたことをその時初めてアトスは知った。そして議題はまさにシグニカの低地を脅かす疫病についてだ。そして会議を要請したのはラムゼリカだった。
「皆さんお忙しい中お集まりいただきありがとうございます」演説台に立つラムゼリカに全ての視線が集まる。「皆さんの祖国とその救済を思う気持ちは欠席なしという熱心さからも十分に察せられ、ワタクシ感激いたしました。早速ですが、疫病について重大な情報を得、皆様に報告するとともにその対応策についてご承認いただきたく、今会議を要請させていただきました。我々は火刑者たちの霊院のご協力の元、賢僧を派遣、調査させ、今、シグニカを苦境に喘がせている疫病、その原因を特定致しました。これは自然の成り行きでは決してなく、人為的存在による攻撃であると突き止めました」ラムゼリカはにわかに騒ぎ出した議場が落ち着くのを待って再び口を開く。「今回の疫病の原因は魔導書です。これは魔導書災なのです」
いよいよ大聖君でも抑えきれないほどに議員たちが言葉を方々に投げかける。聖女に反論する者、質問する者。近場の者たちと議論を始める者。秘書を呼びつけて何かを指示する者。ありとあらゆる思惑がその場に渦巻いていることがアトスにも分かった。
「重要なのは我々がどう動くか、です。そこでワタクシは対魔導書特務機関を設立すべく、魔導書を最たる教敵に選定していただき、大聖君に認定していただきたいと考えております」
大聖君は知っていたようで特に反応もないが、議場の議員たちはほとんど初耳のようだった。囁きがさざ波のように行き交う。
「俗に言われる魔導書という言葉は定義が曖昧です」医療魔術で知られる聖者の一人が反論する。「また、そのように呼ばれる呪物、魔法道具の全てが災禍をもたらすわけではありません。あまりにも強力であるが故に、かつ無知が拍車をかけておりますが、一括りにするのは余りにも乱暴でしょう。事実、我が国の至宝の一つ、『神助の秘扇』はありとあらゆる人々を癒す救いの乙女の如き力です。それを教敵認定するなど恐れを知らぬ所業であります」
聖女ラムゼリカの答えを待つ。
「定義は定義。詳細は皆々様で決めるべきことです。どのように定義を決めたところで現実に我々を戦慄させる魔導書災が無いことにはなりません。結果、『神助の秘扇』が定義の上で魔導書に含まれうることも承知の上です。そもそもどのような力であれ、それは道具に過ぎません。どのような結果をもたらすかは使用者次第。癒しの力も敵に渡れば災いです。そして災いを恐れ、回避を望むならば我々人間が完璧ではない以上、道具か使用者のどちらかを取り締まらなくてはなりません。それもことが起こる前に」野次が飛び交うが聖女は気にせず話を進める。「まだ何もしていない人間を誤りなく取り締まることが可能ならば二択に一考の余地もありましょうが、そう上手くはいきません」
次に指名されたのは旧ヒニカ王族出身の議員だ。
「調査報告を精査せねば何とも言えませんが、仮に魔導書が原因だとして、我々が対処すべき、あるいは教敵と認定すべきは目下の疫病をもたらした魔導書、そしてその術者ではありませんか? 齟齬があってはいけませんので今一度正確に確認させていただきたい。ラムゼリカ猊下は全魔導書を最たる教敵に認定する提案をなさったのですか?」
その問いにラムゼリカは肯定する。
「いかにも。先ほども申し上げた通り、ことが起きてからでは遅いのです。目下の疫病を軽視するわけではありません。しかし特務機関が既にあったならば、仮に魔導書を使われていたとしても状況は違っていたことでしょう。市井に広がる不安は皆さまもご存じの通りです。ただし不安とは疫病に対して感じるものでなく、先の見えない未来の暗い帳に対して感じるものです。何より、シグニカの教導者たる我々が率先して対決姿勢を示し、明るい未来を描くことが市民の不安を掻き消す特効薬となることでしょう。そのためには今回限りではいけないのです。未来を照らす聖火の預かり手として」
ラムゼリカを支持する者もいれば、嘲笑う者もいた。特に今の話はアトスにも少しばかり夢見がちに聞こえた。
「疫病に限らず、海に嵐を起こす魔法、狼に家畜を襲わせる魔法、ありとあらゆる魔導書災に苦しめられた人々にとってはそれもいいでしょう」アグマニカ霊院の魔法使いが続ける。「しかし現実として、魔導書に限ったことでもありませんが、出所不明の魔法は大陸中のあらゆる共同体が調査し、研究し、そしてより多くの獲得を目指しています。全魔導書を最たる教敵に認定するなど、事実上の全魔法使いへの宣戦布告ではありませんか?」
「ワタクシの話を聞いていましたか? 我が信徒に酷寒をもたらす者は敵だと言っているのです」
議論は紛糾する。ラムゼリカの最後の言葉に関してはわざとかと思うほど議員たちに火をつけた。
「大体魔導書を確実に見分ける手段などまだ確立されていない!」とアグマニカ霊院の魔法使いは叫んでいた。
休憩の時間になり、ラムゼリカと護衛の僧兵達、そしてアトスは別室へと移動した。議場ほどではないが休憩室には不相応な威厳に満ちた部屋だ。アトスにはただの腰掛が玉座のように見えた。
「どうでしたか? 不満そうですね。顔を見る限りは」
ラムゼリカに尋ねられ、アトスは思ったままのことを答える。「そもそも霊薬を使えない理由を教えてくれるのではなかったのですか? 言及すらされていなかったと思うのですが」
「ああ、そういうことですか。要するに聖女といえどシグニカの至宝を自由に使うような権限はないんですよ。生産にも時間がかかるんですよね。正確には各人に配れるように加工することが、ですが。全信徒を高地に連れてくるという手も考えましたが、現実的ではありませんし、やるとしても今回のような会議を開かなくてはならないということです」
アトスは落ち込み、目を伏せ、小さな溜息をつく。最も偉い人ならばどうとでもなるのだろうと思っていたからだ。
「みんなは苦しみ続けなければならないのでしょうか? 疫病によって死ぬその時まで」
「いえいえ、ワタクシが魔導書を司る特務機関を設立する理由の一つは『神助の秘扇』の恩恵をより多くの人にもたらすためですよ。でも疫病をいくら治癒したところで何者かが魔導書を使い続ける限り終わりは来ません。そのための戦力増強と集中も理由の一つです」
アトスは疑わし気にラムゼリカを横目で見つめる。
「会議を見学した限りでは最たる教敵認定されなさそうでしたが」
「そうですか? ワタクシとしては割と手ごたえを感じていたのですが。どこら辺でそう思いました?」
「大体反論されている内容が一々尤もに感じましたし、魔導書を見分ける手段がないって本当ですか?」
「確実に、ですよ。あの何より摩訶不思議で強力な魔法を理屈で説明するのは難しいですが、目の当たりにすれば分かるものです」
アトスの抱く疑惑はより強固なものになる。
「そんなのでは説得できませんよ。現実味を感じられません」
「他にもありますよ。触媒としても強力だとか、現状破壊する手段が存在しないだとか」
「前者は曖昧ですし、後者は魔導書じゃないものを見つける手段ですよ」
「そうですね。せめて魔導書じゃないものを絶対に破壊する手段でもあればいいのですが。例えば、何もかもを焼き尽くすような」
アトスはラムゼリカの意味ありげな言葉と眼差しにどきりとする。まるで何もかもを見通しているかのようだ。例えばアトスが究極の火の魔法を知っていることだとか。
誰に知られる必要も、知られるべきでもないことだった。アトスはただ麺麭屋として、人々に幸せをもたらす一助になれればそれでいい、と考えていた。
しかし悪辣なる疫病が低地の全ての幸せを奪っていった。ラムゼリカはそれと対決しようとしている。そのために足りないものをアトスが持っている。
「聖女様」アトスは思い切る。「お話ししたいことがあります」
浄滅の劫火と名付けられたそれは第三聖女の奇跡の魔術としてシグニカ統一国の歴史に刻まれた。
簡単な実演を目の当たりにした議員たちは例外なく魔導書を最たる教敵候補として選定し、大聖君は滞りなく認定した。どのような利害も魔導書を収集できる利には及ばない。かくして対魔導書特務機関、焚書機関が設立された。数か月の内に聖ラムゼリカ焚書寺院が建立され、その中央に浄滅の劫火が灯される日が訪れた。
巨大な塔の如き煙突を備えた炉の中心最下層に聖女ラムゼリカとアトスがいた。寺院の建立開始と同時に始められた大儀式の仕上げが執り行われようとしている。
「どうしてこんなに時間をかけたんですか?」とアトスは隣に立って炉を見つめるラムゼリカに尋ねる。「僕の方は火に関する魔術の手続きを全て省略できるのに」
「第一に貴方の本来の姿はあまり人目に晒せません」ラムゼリカはちらりと上方を見上げる。そこには巨大な硝子窓があり、新たに焚書官の職位をえた優秀な僧侶たちが儀式を見守っている。「第二にワタクシ自身がやらなくては意味がありません。第三に炉まで焼き溶かされては困ります」
「そういえばどうやってそんなことを可能にしたんですか? 普通ならこの炉も煙突も焼き焦がしてしまいます」
「浄滅の劫火自体を作り替えたんですよ。火力はそのままに対象以外を焼かないように。既に貴方も使えるのでしょう? 火に関する魔術なら、この世に存在した時点で把握できるとか何とか」
「ええ、まあ、でも作り手の意図は分からないので」
「まるで火の神のようですね」
まさかとは思ったが聖女に妬まれているかのようにアトスは感じた。
「新たな魔術を生み出せない僕が神なわけないですよ」
二人は強大で複雑な魔法の籠った炉から出て遠大な儀式の終わりを始める。古き火の女神、礼拝堂の聖火母の生み出したありとあらゆる火の魔術に通ずる言霊を羅列したような執拗で大仰な呪文を唱え終えたと同時に炉に浄滅の劫火が入る。
空をも焦がしそうな高い火柱が立っているが、不思議と炉のそばにいる者たちを焼き焦がすことはない。劫火の熱は発散せず、その内を渦巻いている。
「貴方に出会えたのは幸運でした。きっと世界が変わります」ラムゼリカが感無量といった様子で話す。「きっと幸福がもたらされます。ありがとうございます、焼べる者」
「こちらこそ。低地の人々を疫病から救っていただけるなら何てことはないです。僕はまた麺麭を焼くだけです」
アトスことブリゾロスが自分の正体を自ら明かしたのは初めてだった。
「それだけに申し訳ありません。貴方を手放すわけにはいきません」
ラムゼリカがブリゾロスを劫火の方へ突き飛ばす。抵抗する間もなく眩く輝く炉へ入った少年の体に火がつく。
「一体何を!」と怒鳴り、立ち上がろうと支える手が一瞬で燃え尽き、灰となって、少年は倒れ込む。
が、ブリゾロスは少しも痛みを感じていないようだった。少年は火に包まれながらラムゼリカに問う。「いつから知ってたんですか?」
「初めから。貴方のような存在とは既に何人か接触していますので」
ついに少年の痩せた体は全て灰となり、しかし浄滅の劫火をもってしても焼き尽くせない菱形の札だけが残った。