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22話 「裏切りの囁き」
王都に戻った翌日、俺たちは軽い依頼を受けた。
内容は「市場通りの倉庫まで荷物を運ぶだけ」というものだ。
街中の仕事は危険が少なく、足慣らしにはちょうどいい。
荷物を抱えながら市場を抜けると、香辛料の匂いが鼻をくすぐる。
ミリアが「あっ」と声を上げ、露店に駆け寄った。
「これ、村では手に入らない果実酒だよ!」
ルーラも興味ありげに瓶を覗き込む。
和やかな空気のまま倉庫に荷物を届け、依頼は無事完了――のはずだった。
帰り道、俺は裏通りの方から聞き慣れた声を耳にした。
「……納品は明日の夜だ。値は上がっても構わん。あれは“特別品”だからな」
覗き込むと、黒い外套の男が二人、低い声で話している。
その足元には小ぶりな檻。中の影は薄暗くて見えないが、鎖の擦れる音がした。
俺が耳を澄ませていると、後ろからミリアがそっと囁く。
「……聞こえた?“奴隷市”って」
ルーラの表情がわずかに固まる。
黒外套の男たちは話を終えると、檻を載せた荷車を押して奥の路地へ消えた。
通りに残ったのは、湿った石畳と、どこか血の匂いを含んだ空気。
「……探るか?」
俺の問いに、ミリアは頷き、ルーラも黙ってついてくる。
この時はまだ、俺たちが踏み込もうとしているのが王都の最も暗い場所だとは、知る由もなかった。